MV-22 オスプレイは本当に危険なのか? 兵器の幻想と具現化

空母に2機のオスプレイがヘリコプターモードで着艦です。

アメリカ海兵隊が任務遂行のために必要不可欠としているオスプレイ。しかしその開発と運用は困難を極め、今でも安全性に対し根強い反発があります。

1991年当時の事故の映像。

その他、2000年にも墜落事故があります。

航空の現代:オスプレイ事故(4)

5月10日付けの同紙によると「着陸態勢に入ったオスプレイは突然、空力的な揚力を失って頭から突っ込み、死亡事故に至った」とのこと。さらに詳しく、いくつかの記事を読み合わせると「機は余りにはやい降下をしすぎた。毎分1,000フィート以上の降下率であった。推奨降下率は毎分最大800フィートである」

 このような急降下をしながら「パイロットは午後8時頃、地上280フィート(約85m)の高度で、5~15°の右バンクをした。このとき“パワーセットリング”として知られる空力的な現象に遭遇し、4秒後ノーズダイブに入ったのである」

 海兵隊の説明によると、こうした現象は過度の降下率で前進速度がおそいときにバンク操作をすると発生する。しかしパワーセットリングはオスプレイに特有のものではないし、パイロットはそうした事態におちいらぬよう訓練を受けている。

原因とされる、パワーセットリングについて。

航空の現代:オスプレイ事故(5)

結論はオスプレイが急角度で降下率の大きな降下をしていたためで、フライト・レコーダーの記録では速度38kt,降下率は毎分1,000フィート以上ということになっている。そこまではまだ良かったのだが、その状態で5~15°のバンク角で右へ急旋回をした。そのため右翼端の前進速度が減り、しかも下向きにぐいと下がった。途端にローターが自分のダウンウォッシュの中に入った。結果として、右翼がパワーセットリングにおちいり、揚力のバランスを失って墜落したと考えられる。

なお「パワーセットリング」とか「セットリング・ウィズ・パワー」という言葉は英語または米語をしゃべるパイロットたちの俗語らしい。字引を引くと、セットリングとかセツルという英語には決定する、処理する、清算する、沈殿するなどの意味があって、私には明確な語感が生じてこないが、アメリカ人には分かりやすい普段の言葉なのであろう。しかし英語で書かれた空力学の教科書を見ると、こういう言葉は出てこない。きちんと「ボルテックス・リング・ステート」(渦輪状態)という正式の用語が使ってある。

Voltex ring stateとは、自分自身で起こす吹きおろし気流の速さに自機の降下速度が近づくと揚力を急激に失うことをいいます。

昔はベル47など、軽い機体に直径の大きなローターをつけてふわふわ飛んでいた。したがってローターの回転面を下向きに通過する気流の速度も比較的遅い。そのため降下率がちょっと大きくなると、すぐに吹き下ろし気流の速さに近づき、それを通り超して渦輪状態におちいる。

これは開発時の2000年の事故ですが、実用化・配備された後の最近でも事故が発生しています。

米海兵隊のオスプレイ墜落、4人死傷 モロッコ 配備反対の声強まる可能性も - MSN産経ニュース 2012.4.12 12:55 [米国]

 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが11日、アフリカ北部モロッコの南西部アガディールを拠点に行われていたモロッコ軍との合同演習中に墜落し、海兵隊員2人が死亡、2人が重傷を負った。

原因は不明(非公開?)ということで、構造的なものなのか、パイロットエラーなのか分かっていません。

そうなるとさすがに配備される沖縄の不安は高まるばかり。

軍港へオスプレイ 普天間配備を即刻撤回せよ - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース

オスプレイは開発段階で重大な墜落事故を繰り返し、「未亡人製造機」と呼ばれるなど、かねて危険性が指摘されてきた。先月もモロッコで米兵4人が死傷する墜落事故を起こしたばかりで、“欠陥機”の疑念は強まる一方だ。

 本紙が実施した最新の世論調査では、普天間飛行場へのオスプレイ配備計画に対し、県民の9割が反対している。そうした中、県都那覇市の市街地にあり、那覇空港に隣接する那覇軍港を利用するとの打診は正気の沙汰とは思えない。

 米側は最初に配備する12機を分解した状態で那覇軍港に搬入し、約1カ月かけて同軍港で機体を組み立てる計画という。不具合が起きやすい組み立て直後のオスプレイを人口密集地の那覇市上空を含めて試験飛行するというからあぜんとする。翁長雄志那覇市長が「今までのどの案よりも異常。事実なら県民、市民を愚弄(ぐろう)するものにほかならず、強い怒りを禁じ得ない」と猛反発するのは当然だ。

 基地問題では慎重な物言いの仲井真弘多知事も「反対だ。非常に無理がある。日比谷公園とか新宿御苑みたいなところに持ってこられるのか」と強い不快感を示した。沖縄と本土で二重基準を平気で使い分ける日本政府の欺瞞(ぎまん)性を見透かした発言と言える。

一方、アメリカ海兵隊はオスプレイの性能を評価して実用化・配備した経緯があります。

航空の現代:オスプレイ事故(7)

今やオスプレイ計画に対しては議会を含めて疑問がわき起こってきた。これだけの大きなリスクと高い費用を費やしてまでオスプレイを実用化しなければならないのかという疑問である。

 それに対して海兵隊副司令のマッコークル准将は次のように語っている。「何があろうと、この航空機は海兵隊の将来にとって必要不可欠の機材であり、必ずや問題を解決して、計画を続けるつもりである。そのため我々は、いったい何が起こったのか全力を挙げて解明しつつある」

「海兵隊に課せられた任務を達成するのに、今やティルトローター以外の手段はない。これなくして作戦計画は立てられない。これまでのヘリコプターにくらべて2.5倍の速度がある。4倍の搭載力がある。5倍も遠くまで飛べる。これこそは、海兵隊の戦闘能力を飛躍的に高める技術にほかならない」

「これに匹敵する手段がほかにあろうか。無論いまのままでいいかどうかは分からない。もし何か問題があるとすれば、それを見つけ出して修正すればいいのである」

「オスプレイは海兵隊のみならず米国にとってもきわめて重要な計画である。それにも増して、オスプレイに乗って飛ぶ海兵隊員の安全は最大の重要事項である」

こうまでして実用化したのはいったいなんなのでしょうか?

それはやはりアメリカが

「ヘリコプター至上主義」

だということがあげられます。盲信といってもいいでしょうか。

兵器というものは多くの場合、合理性が求められますが、それと同時に国民性が反映される器でもあります。

第二次世界大戦時、日本は「大艦巨砲主義」と言われ、戦艦大和・武蔵を建造し配備しました。

大艦巨砲主義 - Wikipedia

大艦巨砲主義(たいかんきょほうしゅぎ)とは、1906年以後1945年まで、世界の海軍が主力である戦艦の設計・建造方針に用いた思想。巨砲巨艦主義。艦隊決戦思想を背景として、水上艦の砲撃戦で有利とするため際限なく主砲と艦艇が巨大化していく状況を反映する。

自らが航空戦力を使い、イギリスのプリンス・オブ・ウェールズを撃沈して航空機の時代だということを証明しておきながら、この日露戦争、日本海海戦の成功体験にとらわれたのは記憶に新しいところです。

大艦巨砲主義 - Wikipedia

日本海軍では、日露戦争時の日本海海戦において大艦巨砲と艦隊決戦を至上とする考え方が確立され(当時としては日本海軍に限ったものではなかったが)、その後も太平洋戦争後半期まで軍令・戦術上の主流となった。長駆侵攻してくる敵艦隊を全力で迎撃・撃退するのが基本方針であり、その際の主役は戦艦とされ、空母・巡洋艦・駆逐艦等は脇役に過ぎなかった。

おそらく同じことが、アメリカ海兵隊にも起きているといっていいでしょう。

アメリカにとっての「戦争の記憶」とは第二次世界大戦よりも、「ベトナム戦争」であり「湾岸戦争」となっています。特にベトナム戦争の記憶は強烈で、そこで実戦投入した新兵器「ヘリコプター」の活躍が原体験となっているきらいがあります。

実際にはヘリコプターの損耗率は比較高く、決して安全な乗り物ではなかったのですが、ベトナムでの任務遂行には必要不可欠でこれしかありえなかったのは、ありとあらゆるベトナム戦争映画でヘリコプターが出てきて活躍することからも分かります。

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あまりにもヘリコプターがすきすぎて、連続ドラマにもなっています。

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宮崎駿と押井守にみる自衛隊はかくあるべし ([の] のまのしわざ)

さて映画ってのは国民の願望です。というのも願望を具現化しないとヒットしない。ですから国民に受けるように作ってあるのは当然。アメリカではとにかく「ヘリコプター」命。あれだけベトナム戦争でバカスカ落とされたのにも関わらず、映画になったとたんに圧倒的な戦力としてヘリコプターが登場します。これは単にヘリコプター好きなんですね。ようは実際に強いかどうかなんて関係ない、アラレちゃん風にいえば「ヘリコプターはつおい」という妄想でしかありません。

そして日本はといえば、とにかく個艦優越主義。つまり高性能な兵器は少量で多数を圧倒するという幻想です。ヤマト、ガンダムにはじまり、もうすべてのTVアニメーションはこの幻想に立脚してます。まあTVアニメーションだけでそれが済むなら害はそんなにないのですが、これが実際の軍隊の装備にも反映されてしまうんですから困り者。

兵器というのは国民の幻想の具現化なのです。

オスプレイがこれだけの事故を起こしながらも使おうとするのは、ベトナム戦争でバカスカ落とされたとしても、ヘリコプターでしかなしえなかった任務遂行があったから、ヘリコプターを超える新兵器が欲しいという幻想を具現化するからに他なりません。ある意味、ベトナム戦争のトラウマといっても過言ではないでしょう。この根っこには、オスプレイのような垂直離着陸可能な飛行機があれば、ヘリコプターのように落とされることはなかったと。
(文末に追記有)

その幻想に付き合わされる他国民はたまったものじゃありませんけど。なにせ幻想の共有が出来ていませんからね、そりゃ理解不可能ってものです。

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押井監督が大好きな垂直離着陸機(VTOL)、ハリアー誕生の歴史は以下の動画をどうぞ。

【参考リンク】
安全性疑問視の米海兵隊「オスプレイ」 岩国で訓練|ニュース|ヒロシマ平和メディアセンター

沖縄配備予定の未亡人製造機オスプレイまたまた墜落・死亡事故 日本に海兵隊の普天間基地は本当に必要か - Everyone says I love you !

【追記】

@obiekt_JPさんからご指摘をいただきました。ありがとうございます。

▼コマンチ⇒RAH-66 (航空機) - Wikipedia

航空の現代:コマンチ その発想はベトナムの実戦から生まれた。あのときアメリカ軍が最も苦しんだのは、敵の存在位置が的確に把握できないことだったからである。そこで、偵察任務がヘリコプターに与えられた。しかし当時のヘリコプターは速度が遅く、航続距離が短く、騒音が大きい。そのため逆に、こちらの存在を敵に知られることとなり、ミサイルに狙われる結果となった。

 そこからステルス機コマンチが出現した。このヘリコプターがあればベトナム戦争の結果も変わっていただろうといわれるほどである。たとえば脚はもちろん、火器も、小さな把っ手までも、すべてが機体の表面から突出しないよう、胴体の中に収納される。胴体外板の複合材もそれ自体がステルス性をもち、エンジンの排気も熱量を減らすために空気と混合して排出するようにした。

 このようなコマンチは、超低空で敵地深く進入するが、それでもレーダーに捕捉されるようなことはない。そのうえで目標を正確にとらえ、その情報を瞬時に味方基地へ送ると共に、攻撃を加えることもできる。