宮崎駿と押井守にみる自衛隊はかくあるべし

昨今は宮崎駿が子供向け平和的映画監督で、押井守がミリタリー的過激派監督だと思われそうですが、この人たちの根っこは一緒です。

きりしま

元々日本のアニメーションというのは、日本人が現実の戦争から疎外されているフラストレーションを代理に消化する、消費文化に立脚しています。そのため日本では戦争を描くTVアニメーションが主流です。ヤマトは当然、ロボットアニメなんて完全にそうだし、プリキュアすら戦争です。だから押井守いわく「アニメーションで食っている限り、これは避けられない」こと。そしてその戦争を描くことに真っ向からぶつかったのが押井守であり、一方で戦争が嫌いだけど戦争ごっこが好きと公言する宮崎駿は、ある時から趣味以外の戦争を封印してしまいました。

さて映画ってのは国民の願望です。というのも願望を具現化しないとヒットしない。ですから国民に受けるように作ってあるのは当然。アメリカではとにかく「ヘリコプター」命。あれだけベトナム戦争でバカスカ落とされたのにも関わらず、映画になったとたんに圧倒的な戦力としてヘリコプターが登場します。これは単にヘリコプター好きなんですね。ようは実際に強いかどうかなんて関係ない、アラレちゃん風にいえば「ヘリコプターはつおい」という妄想でしかありません。

そして日本はといえば、とにかく個艦優越主義。つまり高性能な兵器は少量で多数を圧倒するという幻想です。ヤマト、ガンダムにはじまり、もうすべてのTVアニメーションはこの幻想に立脚してます。まあTVアニメーションだけでそれが済むなら害はそんなにないのですが、これが実際の軍隊の装備にも反映されてしまうんですから困り者。

自衛隊の装備が無駄に高性能な兵器が揃っているのがその表れ。調達コストは高いし、運用コストも高い。その割りにつぶしが利かないものが多いです。その最たる例はイージス艦。

イージス艦はBMD(ミサイル防衛)の一翼を担うもので富に有名ですが、すでにこのイージス艦を日本はこんごう型4隻、あたご型2隻と6隻も導入してます。そしてこのイージス艦は「崖の上のポニョ」のラストに近いシーンでも、救難支援のために現れていますが。

実際には一体なにができるっていうのでしょう。イージス艦はミサイル防衛をするためだけの艦であって、物資を搬入できるわけでもなし、多くの人間を救済して搭載するにも不便です。仮に乗せたとしても迎撃ミサイルが横にある通路で、さあ休めっていったって、休めるかってーの。

この点押井守は「イージス艦は単艦では機能しない。戦域ミサイル防衛構想の中で機能するがそれ自身が画餅。捨て金で、未来がない」とバッサリ。その代わりに自分の趣味とも合致する(ハリアーが乗せられるため)軽空母を強烈にプッシュしています。

軽空母とは短距離離着陸機(STOVL)とセットで運用する航空母艦。自衛隊はSTOVLを装備しないためにヘリコプター空母のみを装備してます。最近話題になったのは全通甲板を持つ「ひゅうが型護衛艦」。全通甲板とは一般的な空母のように甲板が全部水平で離発着可能なスタイルを持ちます。そのためすわ「戦略空母か!」と反戦運動が活発になったようですが、この艦ではSTOVLの運用自体ができる設計になっていません。

軽空母がなぜいいかというと、災害救助に向いている点。甲板上のスペースはもちろん、広い格納庫があり大きな災害時には多くの救援物資や救助隊を輸送し、逆に救援者を運ぶことができます。自衛隊にはさきのヘリコプター空母とは別に全通甲板の「おおすみ型輸送艦」を持っており、こちらも災害救助には適した運用が可能です。

おおすみ型輸送艦 - Wikipedia

スマトラ沖地震直後の国際緊急援助隊派遣の後、2005年6月に「しもきた」の車両甲板上に陸上自衛隊の「野外手術システム」を展開する技術試験を行った。結果は上々であり、複数の「野外手術システム」の展開が可能とされ、災害時には艦内の手術室に加えて同システムを搭載し、現地で医療機関の不足を代替する病院船としても活用されることとなった。2006年度に、「野外手術システム」の電源を艦内から取るための艦内改装を順次行う予定。

このように軽空母とまではいかないまでも、災害救助に適したヘリコプター空母や輸送艦があったにもかかわらず「崖の上のポニョ」はイージス艦が描かれています。これはなぜか。

おそらく宮崎駿にとって、全通甲板を持つ艦船はやはり空母を連想し、空母といえば艦載機、艦載機といえば中島飛行機、そして実家宮崎飛行機と連想して拒否したのではないでしょうか。そうでなければ使い物にならないイージス艦を災害救助の現場に出したりしないでしょう。

さて押井守の夢、軽空母ですが少し兆しが見えてきました。

F-15の後継でF-22を要求していた防衛省ですが、F-22の禁輸措置が解除にならないために入手は諦めて、STOVL機であるF-35を獲得しようと方針転換しました。F-22がほしかった理由は簡単で、個艦優越主義の表れ。現在のところ地上最強の戦闘機といわれてますから、高くてもこれがよかったのでしょう。F-35はF-22よりも劣るものの、輸出にも対応しステルス性能があり陸海空で使える汎用性があります。値段はというとF-22よりも安いとはいえかなりの高額商品。しかしSTOVLができて軽空母が出来た暁には、日本海の平和は軽空母が守ることが可能。しかも有事発生よりも高い確率で発生する津波や地震被害に対する災害救助でも活躍できる軽空母は、まさに日本にうってつけの潰しのきく装備なんです。しかも引退後は中を改装してカジノにすることだってできるんですから。

というようなことを押井守が真面目に主張するわけですが、もちろん彼は「ハリアーII」を運用したいだけのお話でした。残念ながらハリアーはすでに生産中止。さすがに設計が老朽化して、現役は無理のようです。フォークランド紛争ではめちゃ活躍したんですけどねえ。

ホーカー・シドレー ハリアー - Wikipedia

ハリアーは現用の垂直離着陸航空機としては唯一、実戦に参加している。フォークランド紛争がそれで、操縦や航法上のミスに由来する喪失はあるものの、アルゼンチン軍との空対空戦闘における被撃墜数は0である。撃墜数24機。

ということで、津波に地震に火山爆発など災害救助には軽空母、または似たようなヘリコプター空母、揚陸艦、輸送艦が利くってことで、イージス艦でSM-3ぶっぱなしてミサイル迎撃ってのもいいんですが、暖かいご飯とお風呂を用意できる船が日本的でいいんじゃないんでしょうか。

【参考資料】

戦争のリアル Disputationes PAX JAPONICA
戦争のリアル Disputationes PAX JAPONICA
押井 守

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