GT-Rとガンダムに共通する世界に通用するニホンのデザイン:中村史郎著「ニホンのクルマのカタチの話」

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ニホンのクルマのカタチの話 [単行本]

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著者の中村史郎さんは日産自動車チーフクリエイティブオフィサー、簡単にいうと日産のクルマのデザインを含めブランドマネジメントを統括するデザイナー。デザイナーといっても今は統括をメインとして「スケッチ」をかかない、とのこと。スケッチをかくとどうしてもそれを意識してしまう、ひっぱられて自由な発想がでてこなくなるので、あえて描かないのだそう。

そんな中村さんが手掛けたクルマといえば、

・ヴィークロス(いすゞ時代)
・プリメーラ(3代目)

など。特にヴィークロス(ビークロス)はいすゞビッグホーン(のショートホイールベース車ミュー)をベースに未来風に仕上げたスペシャリティSUVで、とてもに先進的。印象深かったです。

いすゞ・ビークロス - Wikipedia

プリメーラも初代から2代目がキープコンセプトだったのに対し、ガラリとかわったエッジなデザイン。プリメーラはスポーツセダンで走りがよいというもの売りで SR20VEエンジン、204馬力6速MTを採用したグレード20Vもあるほど。内装も特徴的で2000年前後に出たとは思えないほど。今でも新鮮です。

日産・プリメーラ - Wikipedia

そんな中村さん率いる日産のフラッグシップといえば、日産GT-R。

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東京モーターショー2007

デザインについて賛否両論ありましたが、個人的にはかなり好きです。実車をみると「うわ、でかっ!」「中ちっちゃっ!」とか思うんですけど。

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このデザインと同じ流れにあるのが「ガンダム」。

ガンダムは1979年放送時からすでに30年余りが過ぎていますが、その人気はまだまだ連続的。「ガンダムちっく」という言葉がクルマ業界では

・カクカクしてる
・オモチャっぽい
・安っぽい

など「悪い意味」で使われてきたこともあります。ちなみにカーデザインにおいて初めて「ガンダムちっく」と引き合いに出されたのは同じく日産のクルマ。

ガンダム風のクルマ: Deep Distance

1986年02月に登場した日産 サニー RZ-1を評したそのページには、Zガンダムのイラストが配されるとともに『まさか日産は、サニークーペに乗るのはガキである。だから、ガンダム的なクルマをとは思わないだろうが、今年のワースト・デザイン・オブ・ザ・イヤー候補としてノミネートされそうなことだけはまちがいない。』と、「ガンダム」という語が1回登場している。

2010-03-03 - 暗之云の云之庵

私の知る範囲ではこれより前、初代マーチターボについて他の雑誌で「ガンダム」という表現が使われていたはずです。ただ、掲載誌が思い出せない…。「モーターファン」か「CG」だと思うのですが。

初出がRZ-1か、マーチターボか不明ですが、いずれにしても日産。そして「ワースト・デザイン・オブ・ザ・イヤー」なので明らかに「悪い意味」で使われているのが分かります。

しかしこの「ガンダムデザイン」も30年も続けばもはや「文化」といっていいでしょう。日産GT-Rでは逆にこのニホンオリジナルの「ガンダム」デザインをよしとしています。

GT-Rのデザインは特徴的で、簡単にいうと「ビューティフル(美しい)」ではなく、力強さとか機能性(速い)というのを具現化したカタチ。スポーツカーはどちらかというと流麗なデザインで女性的なものが好まれますが、このGT-Rはどっからどうみても筋骨隆々の男性的なデザイン。このゴツゴツした感じで空力もしっかりしているんですから、本当に凄いことです。

この機能性を具現化したGT-Rのデザインは「何にも似ていないところが印象的」「色気はないけど存在感がある」と世界的にはとても好評。

ニホンオリジナルのデザインにも関わらず、ニホンでの評価が芳しくないのは既存の価値観、

「スポーツカーはビューティフルであるべき」

「(悪い意味での)ガンダムちっく」

にとらわれてしまったからかも。

しかしそんなニホンの評価はよそに、ワールドワイドで通用するデザインとして「ガンダムちっく」さを前面に出して揺らぐことなく貫き通す意思の強さに感服します。そもそも500馬力オーバー、トランスアクスルミッション採用の4WDとすべてが「スーパー日本車」、ニュルブルクリンクでポルシェ・ターボを撃墜しようなんてできませんからね。

ここで大事なのは「世界に通用する」ということ。世界標準に合わせたもの、ガラパゴスではないものでなければ世界に通用しないと思いがちですが、ニホンのモノが世界で通用しないなんて、行ってみなければ

誰にも分からない

んです。あえて世界で受けているものに似せたり、逆にへんにニホンニホンして竹や障子、畳の素材を使ったりすればいいものでもありません。ニホンで長く受け入れられたものはそれなりに理由があり、普遍の価値を持つ可能性があるのです。それを世界で試す、それが受け入れられたとき「ニホン発」のオリジナルとなるのではないでしょうか。

「ガンダム」は初出は確かに子供向け(?)アニメ番組ですが、その人気は衰えるところを知らず。そしてそのRX-78 ガンダムの源流は武士の鎧・兜であったりします。ぽっと出たものではなく、あの単純な線には長い歴史を内包しているのです。

我々日本人にとっては「当たり前すぎる」歴史、価値観。当たり前すぎるために普段は意識しない、気づかないのですが、実はそこが日本を日本たらしめている理由。それを素直に受け止め、世界に提示するのは実は一番難しいのかも知れませんね。

GT-Rは既成の価値観への挑戦です。最高の性能と、だれもまねできない独自性のあるデザインが一体となり、日産を代表する、そして日本を代表するクルマとなり、これからもさらなる進化をとげていきます。

「ニホンのクルマのカタチの話」 p.62

さすがは日産、おれらのヒーローや!

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