New Audi S4 & A4 Avant 2.0TFSI quattroに試乗しました(最終回):ドイツ車とアウディについて

自動車というのは移動手段であったり、荷物を効率よく運ぶ手段だったり、というのがルーツです。その100年の進化の結果、今の自動車文化があるわけですが、これを簡単におさらいしようとすればできないことはありません。

これは私見ですが、日本において自動車は自転車の延長上にあると考えています。

自転車は日本人が最初に手にする、高速移動手段であり、運搬手段です。自転車は免許はいりません。必要なのはちょっとした運動神経と、ちょっとした費用だけ。

日本のおける自転車の代表的な種類は通称「ママチャリ」。主婦が利用するもので、買い物に使われるものです。また特に最近クローズアップされているのが、子供を2名「載せて」幼稚園の送迎に使われるパターン。かように生活に密着されているわけです。

さてその自転車の先にあるのが日本の自動車。免許と取得するハードル、そして税金や駐車場問題といった費用的に高いハードルを越えてようやく入手することができます。

ところが使用することといえば、やはり同じく生活密着型。買い物に、送迎にといった「短距離」の利用に限られます。これまた私見ですが、路上駐車が多いのは、自転車でやっていたように、店頭に乗り付けて停める感覚が強いからだと思っています。少なくとも私は昔はそうでした。

これに対してドイツ車はどうでしょうか。ドイツのママチャリ事情を知りませんが、自動車産業の成り立ちや貴族といった社会階層を考えると、ドイツの場合は馬車、そして航空機を模しています。

■ドイツ車の成り立ちについて ⇒ カー・デザインの潮流 ([の] のまのしわざ)

移動手段といっても、航空機や高速鉄道の代替として都市から都市へと移動するための手段です。ですから高速巡航性能が求められ、そにれ応じたシャーシに室内の快適性が求められるわけです。アウトバーンが整備されて、速度無制限区間があるということがそれを象徴していますね。

日本は高速道路といっても100km/h制限、しかもクネクネと曲がりくねっていて、値段は高い。そしてこれは自家用車が移動するためのものではなく、トラックを中心とした物流を考えた結果。旧国鉄、そして現在の新幹線の網羅っぷりを考えれば、自動車と高速道路にそこまでの高速移動を求める社会背景もありません。

その結果でしょう、自動車の作り方、考え方はずいぶんと日本とドイツで違います。簡単にいってしまうと、やはり生活に最適化された車作りになってます。今回のアウディはやはり高速での安定性や、操作に対する正確性が非常に高く、さらにドライバーのミスを未然に防ぐフールプルーフ機能が備わっています。自動車としての完成度の高さはやはり特筆すべきものがあり、車好きとしては惚れ惚れとしてしまいます。

一方で日本においてドイツ車を売るというのは、なみなみならぬ大変さがあるのではないでしょうか。そもそも日本が世界に名だたる自動車立国であること。トヨタ、日産、ホンダをはじめ、ダイハツ、スズキ、スバル、マツダと一体何メーカーあるというのでしょう。そしてそれら日本メーカーは日本に最適化されて、なおかつ安く、しかも高品質な MADE IN JAPANの自動車を作るのです。

これが不思議なのですが、日本車は未だにMADE IN JAPANなんですよね、これだけ生産工場の海外進出が進んでいるにもかかわらず、です。もちろん部品レベルでは輸入ものもあるのでしょうが、最終的には日本の工場で作っているようです。さらに日本メーカーは海外工場、生産地と販売地を一致させる戦略をとっていて海外に工場を数多く持っています。

一方でドイツ車。設計はもちろんドイツで行われていますが、どもメーカーも日本で生産していません。輸入して売るだけです。

古くからヤナセでアウディを扱っていたようですが、ほかの輸入車との差別化をはかったためか、独特のセグメントにおかれていたようです。ぶっちゃけていうとベンツと競合しないように、といったところですね。

ところがここで矛盾が発生。本国ではフォルクスワーゲングループのプレミアム部門ということなので、ばりばりベンツ、BMWと競合するカテゴリーです。アウディの座右の銘は「打倒ベンツ」なわけですが、日本ではヤナセがベンツとアウディの両方を扱っていたりします。するとどうなるかというと、アウディをそんなにプッシュしないのは火をみるよりも明らか。

自動車自体はとても完成度が高くていいのですが、この販売チャネル問題はもうひとつのデメリットを生み出します。それは下取りの問題。

車の下取り査定というのは、どうやら大きく分けて2つのファクターから成り立っています。

1) 車の人気度合い
2) メーカーの強さ

たとえばレアな車や人気の車が中古市場で高くなるのは(1)のファクターです。需給バランスを考え、品薄になれば当然価格は高騰します。

さて「マツダ地獄」という言葉を知ってますでしょうか。「マツダ地獄」とは、簡単にいうと一度マツダ車を買うと、マツダ以外のディーラーでの下取り査定があまりにも低く、結局マツダ車しか買えないという悪循環を引き起こす事象です。
(マツダの方ごめんなさい)

マツダ - Wikipedia

他メーカーに対抗して「大幅値引き」や「安売り広告」による販売拡大策を推し進めていたが、結果的に、マツダ車の代替時に他メーカーディーラーでのマツダ車の下取り価格に大幅な下落が生じ、マツダ車ユーザーやマツダ車ファンからマツダに対する信頼低下を招いたり、自動車ファンや自動車業界内で存在していた「マツダ地獄」の比喩に代表されるマツダ全体の低迷とマツダのブランドイメージ低下に拍車を掛ける悪循環に陥っていた。

インセンティブ (自動車) - Wikipedia

かつては売れ行き不振にあえいでいたマツダが徹底したインセンティブ戦略を行い、「マツダ地獄」(新車の実売価格が安すぎて、他のメーカーでは下取りしてくれない)と揶揄されたこともある。

逆にトヨタ車の下取り査定はよいです。これは実はトヨタがブランドを維持するために市場価格を高く買い支えており、これが(2)となります。

アウディの場合は販売チャネルの問題により、どうしてもこの点でベンツよりも弱くならざるを得なかったわけですね。同じことはおそらくボルボでも起きていて、人気のワゴンならともかく、セダンの下取り査定はかなり絶望的な数値でした(レッドブックなどで下取り査定の標準価格を調査可能です)。

つまり新車価格が多少高くても、それ以上に下取り査定が高ければ結果的には割安になります。乗りつぶすというのであれば気にしなくてもいいのですが、ライフスタイルの変化に合わせて車というものは買い換えるので、やはり下取り査定が高い車種、メーカーにしとくほうが無難です。

車好きとしては、自動車自体の設計思想やデザイン、機能・性能といった「車単体」で選びたくなるのですが、結局のところメーカーの強弱、販売店や、ディーラーマンの人柄などそのほかのファクターを含めて総合的に判断するものなんだというのがようやく、最近分かってきました。

アウディはフォルクスワーゲングループということから一時フォルクスワーゲンのディーラーで扱っていたこともあるのですが、リーズナブルな価格のフォルクスワーゲンに流れていく傾向にあって、現在はアウディとして独立して展開しているそうです。

その上で、今回のアウディの試乗会のお話です。数限られたブロガー、特にアウディオーナーの方を招待してのアウディS4、そしてA4 2.0TFSI quattroの試乗会。内容的にはほぼプレス向きイベントのものをそのまま踏襲した形でトライアルするという、意欲的なものでした。

主催は「販売店」ではなく、「広報部」。つまりマーケティング施策ではなく、純粋な広報。試乗会にかこつけて、箱根まで来た「見込みお客」に商談をしようというものではなく、「アウディS4に興味をもっている人」に対して、アウディをもっともっとよく知ってもらいたい、だからそのために乗っていただきたい、という内容でした。

よく

・マーケティングはbuy me

・広報は love me

と言われますが、今回のイベントはlove meですね。

そして自動車の場合は特にライフサイクルが長い商品ですから、love me戦略ではその効果がでるのはそれこそ5年、10年後かも知れません。しかし今それをやらなければ5年後はないわけです。もっともアウディの100年の歴史に比べれば、5年10年というのはそんなに長い期間ではないというのはあるかも知れませんね。

とかく数ヶ月スパンでの営業成績に追われがちで、特にインターネットではPVだ、誘導率だとせちがらい世の中ですが、今すぐ目に見えた効果がないからといってやめていい性質のものと、そうでないものがあることを再認識しました。

アウディは去年真剣に検討して、最後の最後に惜しくも選ぶにいたりませんでしたけど、次の車購入時には最有力候補として再び俎上にあがることは間違いありません。そのときもぜひ魅力的なモデルを提供して光り輝いていて欲しいですね。

今回はご招待いただきまして、ありがとうございました。

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