押井守監督出世作「うる星やつら2★ビューティフル・ドリーマー★」が生まれた理由

ラムちゃん(平野文さん)のサイン入りだっちゃ!

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ということで、念願のサイン入りDVDを観賞しました。おそらく10年以上ぶりくらい。通して3回目か4回目くらいでしょうか。で、もう内容の素晴らしさはすでに多くの人が語りつくしているのでそれはすっ飛ばしてと。今回はこの「ビューティフル・ドリーマー」が生まれた経緯に迫ってみます。

まず参考にしたのはこのDVDのボーナストラック「オーディオコメンタリー」。ここでは副音声的に本編に重ねて押井守監督はじめ演出の西村純二氏、声優の千葉繁氏など豪華メンバーが勢ぞろいして作品をみながらコメント。そしてもうひとつは3年前、2008年にNHKで放送された「とことん押井守」の監督インタビュー。

【映画第一弾「オンリーユー」は失敗作】

興行収益的は問題なく、見た方としてもまあまあ悪くなかったわけですが、映画監督としての押井監督はこれは「映画ではない」と自己評価。豪華な作品ではあるけど、それぞれを豪華にしただけ。映画としての体をなしてないと手厳しいです。出来上がってみたものの、自分としては「これは失敗しました」とはいえない初監督作品。しかしラッシュを見たあと関係者を集めた会議での第一声、「勢いがあっていい!」という評価。これは恩師タツノコプロの鳥海さんによるもので、場の雰囲気はそれに引っ張られ、会議は問題なく終了。実際興行収益としてはまずまずでした。

しかし監督としての敗北感を味わった押井監督はリベンジのチャンスをうかがいます。到来したのが第二作目の映画。そしてこれが最後の映画監督作品になると決まっていたため、今回は自分の好きなことをやろうと決意。好きなことというのは

好きなシーン、見たいシーンを出すこと

であったと言います。特に冒頭の廃墟の中ラムがジェットスキーで遊ぶなか、あたるがガニ又で呆けてつったっている、あのシーン。これを出すことが一つのテーマでした。

「オンリーユー」で失敗のひとつに、豪華にしてキャラを増やした結果、キャラが動きすぎて邪魔になったというのがあります。そのためこの「ビューティフルドリーマー」ではキャラをぐんと狭め、不要・邪魔になるものは最初から出さないという手を打ちます。その一人が錯乱坊。錯乱坊が失踪したことを上手く世界観にあてこんでいくのは流石の手腕といえるでしょう。

そしてその後の押井監督作品に共通するテーマである、

虚構と現実の曖昧な境界線

を描くことに成功しています。

実はこのテーマ、TVシリーズの中の傑作「みじめ! 愛とさすらの母」をベースにしたもの。

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー - Wikipedia

押井守監督がチーフディレクターを務めていた時代の、TVシリーズ「うる星やつら第101話.みじめ!愛とさすらいの母」は、本作の原型ともいえるエピソード。あたるの母親を主人公に、虚構と現実をテーマに描いた異色の作品。彼女の夢から覚めない夢がつづいてゆく不条理ワールドは、見終えた後に本作を彷彿とせずにはいられない。特に中盤、あたるの母親が医師役として登場したメガネの精神分析を高笑いで迎えうつシーンなどは、舞台演劇の緊張感さえ漂う名場面である。ストーリーを通し、赤いスカートを履いた小さな女の子が現れては消えつつ、ラストに響き渡るかごめの唄。ある種の異様さを感じさせるエンディングにもかかわらず、なんの説明もなく終わるのも特筆すべき部分だろう。徹底的に最後まで不条理をつらぬくこのエピソードは、その後の押井ワールドの片鱗を強く感じさせる。

TVシリーズでこれが出来た後、社長室(?)に呼ばれて説教されたと。なんで呼ばれたかは今でもよくわからないというが、いわれたのは

とにかく、辻褄を合わせろ

だったとか。つまり不条理かつ不明瞭で視聴者を放り投げるなということでしょうか。

もちろん原作サイドにはこの映画もTVシリーズも、酷評されたといいます。特にTVシリーズ開始半年はひどく、カミソリが4辺に入った手紙が送られたりと散々。

【印象的なシーンが多い 映画第二弾 ビューティフル・ドリーマー】

ビューティフル・ドリーマーは見たいシーン、見せたいレイアウトを入れた結果脚本の辻褄合わせが大変だったと言います。しかしその見たいシーン、見せたいレイアウトが作品を決定づけています。

・誰もいない夜の街
 キューベルワーゲンによる買い出し、信号で停止した街角、ちんどん屋、マネキン(これはハーレムシーンでも使われる)
 西武線を模した最終電車

・白い少女だけがいるが、誰もいない教室(止め絵的)

・風鈴が鳴る異次元空間にしのぶが迷い込み、しのぶを見つめる謎の男性

・3階建て、4階建てに変化する友引高校、エッシャー風だまし絵的描画
 ちなみに作画は山下将二氏。ラムが飛ぶとき意味もなく手が横に伸びるのは彼の影響。

・レオパルト戦車がでてくる(いつか出したかった)

・ハリアーが出てくる(描画がリアルすぎ。ちなみに板野一郎氏が担当)
 
・ハリアーから亀が見えるシーン

・無人のコンビニで食料品をあさる(天使のたまご、パトレイバー、イノセンスでも同様のシーンあり)

・給湯室での女子の会話(監督は「声優が全員オバさんだよね」(若手がいない)と、失礼なことをいいまくってたが、そこがいいらしい。ちなみに製作現場でもくっついた離れたが多発し、青春だったという。)

・あたる家で全員で食事をするシーン(作画監督のやまざきかずお氏が責任とって担当したが、長回しすぎてさすがに泣きが入った)

・お好み焼き屋で食事をするシーン(じゃりん子チエばりに美味しそうにというリクエストだったが、実際の作画はイマイチだった)

・喫茶店での撮影手法(セリフありなのにパンでカメラをくるくる回す)

・(番外)尺に合わせて音楽を作る

など。

逆にいえばみたい、みせたい絵のためにストーリーを紡いだといってもいいほど。プロットは「みじめ!」と同じとすることで、一気呵成に作り上げることに成功します。事実我々の中でも最高傑作といえばこのビューティフル・ドリーマーと評価が高いです。

原作サイド、製作サイドからは渋い顔をされた問題作ですが、観客の評価は上々。興行成績も前作と同じとなり押井監督は大満足。

ああ、やりたいことやっていいんだ

と思ってしまったそう。実はこれがその後の不遇時代をカタチ作る結果を招こうとは押井監督も、我々アニメファンもその時は誰も予想しませんでした。

ということで次の作品レビューは

天使のたまご

の予定です。いやこれは色々な意味でヤバい作品でした。次回、乞うご期待。 続きはこちら押井守監督の転換点。「天使のたまご」の中身はなんだったのか? ([の] のまのしわざ)

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