日本人は原子爆弾をつくれるのか

「日本は原子爆弾をつくれるのか」山田克哉著 ([の] のまのしわざ)」の続きです。

「日本は原子爆弾をつくれるのか」山田克哉著 ([の] のまのしわざ)

さて核武装に話を戻すと、技術的課題が山積みで今すぐに作れるようにはなりません。

しかし1970年代に日本で、個人が核開発をしていたとしたら・・・

1979年、ガンダムが生まれた年にその事件は起きました。

高校の物理の教師が、原子力発電所に備蓄されていたプルトニウムを盗み出し、自宅で原子爆弾を作ったのです。そしてそのダミーを国会議事堂に送りつけ、日本政府を脅迫するという事件が・・・

というのは映画の中のお話です、もちろん。

その映画は沢田研二主演「太陽を盗んだ男」。

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この映画は完全な問題作で、賛否両論噴出。いまであればネチズンを巻き込んでの大論争になろうかというものですが、なにせ1970年代。色々な問題をはらんだ結果、今のところ(2009年現在)、長谷川監督にとってはこれが最初で最後の監督作品となっています。

内容は物凄くシュールで、シニカルな内容でかつ、やっていることがシリアスなのにコミカル。この絶妙の間合いがこの映画の評価を真っ二つにしている所以なのでしょう。

太陽を盗んだ男 - Wikipedia

中学校の理科教師・城戸誠(沢田研二)は、茨城県東海村の原子力発電所から液体プルトニウムを強奪し、アパートの自室でハンドメイドの原爆を完成させた。そして、金属プルトニウムの欠片を仕込んだダミー原爆を国会議事堂に置き去り、日本政府を脅迫する。誠が交渉相手に名指ししたのは、丸の内警察署捜査一課の山下警部(菅原文太)。かつて誠がクラスごとバスジャック事件に巻き込まれたとき、体を張って誠と生徒たちを救出したのが山下だった。誠はアナキズムの匂いのする山下にシンパシーを感じていたのだ。誠の第1の要求は「プロ野球ナイターを試合の最後まで中継させろ」。電話を介しての山下との対決の結果、その夜の巨人対大洋戦は急遽完全中継される。快哉を叫ぶ誠は山下に名乗った。俺は「9番」だ、と(当時、世界の核保有国は8ヶ国、誠が9番目という意味)。 第2の要求はどうするか? 思いつかずに迷う誠は、愛聴するラジオのDJ・ゼロこと沢井零子(池上季実子)を巻き込む。公開リクエストの結果、誠の決めた第2の要求は「ローリング・ストーンズ日本公演」。これにも従わざるを得ない山下だったが、転機が訪れた。原爆製造設備のため借金したサラ金業者に返済を迫られた誠が、渋々出した第3の要求「現金5億円」に山下は奮い立つ。現金の受け渡しなら犯人は必ず現れるからだ。電電公社に電話の逆探知時間を強引に短縮させ、罠を仕掛ける山下。大型トランク2つ分もの大金を、誠はどうやって受け取るのだろうか?

プルトニウム強奪の際に銃撃戦があったり、無意味な要求(ナイターの延長放送やストーンズ日本公演)をしてみたりと、色々と笑えるポイントがあります。そうシリアスをつきつめていくと滑稽になっていくんですよね。

原爆に話を戻すと、アパートの一室で原爆が作れるのか、といわれると前回のお話にもあるように核燃料が手に入り、爆縮さえできればさほど難しいことはないと思われます。なにせ物理の先生、そのへんの知識は十分あったと考えると「可能」といってもいいでしょう。ただ国家機密である爆縮をやってしまうのは多少の飛躍はありますが。

太陽を盗んだ男 - Wikipedia

城戸の作った原爆は劇中の設計図や製造過程から爆縮式(インプロージョン式)であることがわかるが、爆縮式原爆において極めて重要な部分である爆縮レンズの構造については触れられていない。形状、材質、細かな構造から見ても、全く同じ物を製造しても火薬の爆発の力がプルトニウム・コアに均等に伝わるとは考えにくい。したがってこの爆弾を作動させても核反応は起こらず、限られた狭い一定範囲にのみ火薬自体の爆発による破壊が起こるだけであろう。しかし、プルトニウムが爆発によって飛散することで、周囲のそれなりの範囲が放射能汚染されることは予想できる。

ここでの指摘どおり、現実問題としては爆縮が不完全で、核爆発は起きない「不発弾」だった可能性が強いです。しかし通常火薬の爆発により、核物質が飛散することで、いわゆる放射能汚染、周囲の人の「被爆」の効果はあるでしょう。

日本人が核の論争でとても敏感なのは、この「被爆」にあると思います。核爆発の直接の被害はもちろん甚大なのですが、大きすぎて想像を超えています。

しかし「被爆」に関しては、我々は「はだしのゲン」や原爆ドーム、原爆資料館で擬似被爆体験しています。これはやはり賛否両論あると思うのですが、小学生レベルの多感な時期に、あのようなグロテスクな光景を、たとえ漫画であったとしても見ることが必要なのかどうか。

このような擬似「被爆体験」により、放射能アレルギーがくっきりと刻まれた気がします。

さらにこの放射能アレルギーは、放射能が見えないことにより、同じく見えない「電磁波」に対しても同様に作用しています。つまり電磁波アレルギーです。さらにいえば「環境ホルモン」アレルギーにもつながっているような気がします。

つまり「見えないもの」によって体が蝕まれる恐怖というのがあちこちに出ているのではないかという仮説です。

ですから原子力発電所と原子爆弾の区別がつかず、同じ原子だから、放射線がもれる危険があるという理由でむやみやたらと反対する傾向にあったのではないかと。

そして「被爆」をあまりに恐れるあまり、たとえ原爆としては核爆発をおこさない「不発弾」だったとしても、放射性物質が飛散することによる「被爆」の恐怖が「手作り原子爆弾」の実際の威力以上に評価されたと考えることができます。被爆テロリズムといってもいいかもしれません。

再び「太陽を盗んだ男」に戻ると、要求の理不尽さも興味深いです。

つまり原爆を作って脅迫したものの、要求するものはそもそも無かったのです。つまり目的が脅しとることではなく、原爆を作ることだった。そしてそれを誰かにみてもらいたくて、政府に送ったということ。その誰かというのは、バスハイジャック事件に巻き込まれた刑事だったわけで、ここにそこはかとなくBLの香りが漂います。

そしてただ作れるからという理由で原爆を作った、といった目的のなさ、欲望の無さは何か現代に通じるものがあります。つまり生きる目的を見失い、つまらない毎日の繰り返しの中で生きる目的を求めていたのでしょうか。

1980年代のバブル景気にさしかかる前の昭和を知る上でも、今再び見ておくと面白い発見があるに違いありません。

ちなみにこの1979年はガンダム(初代)のTV放送、ルパン三世カリオストロの城の公開、沢田研二がTOKIOの大ヒットでスターダムにのし上がった年でもあります。

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それからちょうど30年経ちましたが、世の中はさほど変わってないどころか同じことを繰り返しているのかも知れませんね。