「日本は原子爆弾をつくれるのか」山田克哉著

つい先日弾道ミサイル・テポドンが世間を騒がせましたが、日本にとって脅威なのは日本全土を射程におさめ、核が搭載可能なノドン。すでに数百発ほど配備されているとのこと。

北朝鮮主催のミサイル祭りについてメモ - (tez'tumblr)

# 今回のテポドンの技術力は日米が予想していたより大幅にアップしている。特に1段目のロケットを切り離して2段目のロケットに点火するのはロケット技術の中でかなり難しい技術になる。この部分だけでも北朝鮮に取っては成功だったと言える。

# このロケット技術で北朝鮮が目指すのはアメリカ本土への核攻撃であろう。正直、今回の発射において日本はどうでも良かった。と言うのも日本に向けては既に中距離弾道ミサイル「ノドン」が100-300発程実戦配備されている。

そういったこともあり、ここ数年日本でも核武装論が出たり消えたりしています。政治的、マインド的に核武装を論じる以前に、そもそも核開発が技術的・科学的にpossibleなのか否かを論じたのがこの書、「日本は原子爆弾をつくれるのか」です。

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この本の興味深いところは、核爆弾の開発を

・理論物理学

・実験物理学

の両面から、整理して紹介しているところです。そのため、最初の方は物理と科学の教科書のような話で、原子が陽子、中性子、電子から成り立っているなど懐かしい話がメインです。

原料となるウラン235とウラン238の違い、そしてプルトニウムの生成方法から、原子爆弾の構造など基本的な解説は分かりやすく、高校生の知識で理解可能です。

さらにその上で第二次世界大戦時のマンハッタン計画および日本の核開発に触れ、その規模の違いやfeasibility(実現可能性)を紹介してます。

極論をすると、すでに理論的には原子爆弾の基本となる、核分裂連鎖反応について周知のことであり、その具体的実現方法も(爆縮を除き)比較的容易に実現可能といっていいでしょう。

では何が問題となるかというと、簡単にいうと原料の入手、濃縮ウランまたは兵器級プルトニウムです。

当たり前ですが、核爆弾に転用可能な、というよりも核爆弾を作る目的以外で濃縮ウラン、兵器級プルトニウムは不要なので一般市場には出ていません。ですからこれを入手するには、

・自力で作る

・協力国から貰う

しかありません。ただ協力国がない場合は自力で作る他、手がありません。そこで出てくるのが実験物理学です。

すでに作り方はわかっているのですが、それを実践するには大掛かりな装置と予算が必要です。大掛かりな装置がどれくらい大掛かりかというと、たとえばマンハッタン計画の濃縮ウランプラントは、東京大学のキャンパスの数倍とか。

当然こういったプラントを作るのはスパイ衛星から丸分かり、いまであればグーグルアースでも簡単に分かってしまうので現実的ではありません。

そこでもうひとつの作り方は、原子力発電所の原子炉を使うやり方です。

減速材に水を使った原子炉(軽水炉)を使い、燃料棒を再処理(化学反応)すると比較的簡単にプルトニウム(原子炉級プルトニウム)を取り出すことができます。しかしこれはアイソトープが含まれているので兵器級プルトニウムにはなりません。

減速材に炭素(グラファイト)を使った、原子炉(黒鉛炉)だと兵器級プルトニウムを取り出すことが出来ます。長崎に使ったファットマンはこの黒鉛炉を使い取り出した兵器級プルトニウムを利用したプルトニウム爆弾でした。

さてプルトニウムを取り出すもうひとつの方法があります。それは高速増殖炉を使うやり方です。高速増殖炉はエネルギーを取り出しつつ、プルトニウム239を生成し、まさに「増殖」するのです。

ご存知のように日本には高速増殖炉「もんじゅ」があり、稼動していればプルトニウムがたまってウハウハなわけですが、実際にはナトリウム漏れ事故発生後運転を休止したままです。

さて、とにかく核燃料が手に入ったと仮定して、それを実際に核爆発を起こすにはそれなりの手順が必要です。そこでとても大事になる技術が「爆縮レンズ」というもの。簡単にいうと臨界を超えて、核分裂連鎖反応をするにはある一定の密度に核燃料を押し込める必要があり、それを行うのが「爆縮」。通常の爆薬を「爆発」させ、その圧力で核燃料を「圧縮」するのです。

いわばふくらんだ風船を四方八方から手で押さえて小さくするみたいな作業です。

さて手だと全体を等しく押さえないと圧力逃げて、均等に圧縮できません。これを実現するのが「爆縮レンズ」という技術で、レンズの名前どおり発散する爆発力を屈折させて中心に等しく向ける実装技術です。この技術は極秘中の極秘で、論文発表など一切されていないものです。

簡単にいうとこの二つ、核燃料の入手と、核爆弾の実装技術、特に爆縮レンズ技術の2つが大きなハードルとなるのです。

さてその上で北朝鮮の核開発について振り返ると、原子力発電所(軽水炉)をもった時点で原子炉級プルトニウムはもっています。核拡散禁止条約で監視されているのはおそらく兵器級プルトニウムの精製ですから、そういった設備は厳しくチェックされていることでしょう。

一方の実装技術、爆縮レンズ技術は研究室で別途やることが可能ですから、もしかしたら済んでいるかもしれないし、そもそもそこだけすでにロシア、中国、パキスタンから技術供与を受けているかもしれません。と考えると、核燃料の入手だけがキーとなります。

ミサイル開発についてはすでにノドンの開発で実用化されています。

さて翻って日本です。日本には今いったものすべてが現在ありません。核材料の兵器級プルトニウムもなければ、爆縮レンズ技術もないし、それを搭載するミサイル技術もありません。ですから簡単に「核武装」だなんだといっても、そもそも核ミサイルを開発することが現段階では不可能なのですから、それこそ絵に描いた餅です。誰かが教えてくれる、売ってくれるとでも思っているのでしょうか。

このような他者依存、未熟な精神性というのはある意味、「(戦争は)やってみなければわからない」「富嶽が完成した暁には、アメリカ本土直接爆撃」というのとレベルが変わりません。またメディアも「日本も戦中、核開発計画があった!」と予算や理論など抜きにして大げさに喧伝したりします。

いずれにしても共通するのは論理性、合理性の欠如。感情、情緒で判断するんですよね、まず感情ありき。戦前・戦中にあった「精神論至上主義」の非合理性を蔑んでいながら、実は戦前も戦後も日本人の精神性、幼稚性は何も変わっていません。

弾道ミサイルが飛んでくる日、靖国神社で呑気にお花見しているくらいなんですから、ほんと平和ぼけにもほどがありますよね。

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・・・って、自分のことだっ!

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(千鳥が淵)

さて核武装に話を戻すと、技術的課題が山積みで今すぐに作れるようにはなりません。

しかし1970年代に日本で、個人が核開発をしていたとしたら・・・

その話はまた次回。

日本は原子爆弾をつくれるのか (PHP新書)
山田 克哉
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日本人の精神性について⇒●ナウシカに隠された宮崎駿の陰謀 ([の] のまのしわざ)