Google ストリートビューの私道問題

問題の発端はグーグルがストリートビューを撮影するにあたって、公道からに限って私道や敷地内へ立ち入ってはいないと発言したこと。

高木浩光@自宅の日記

撮影地点については、「撮影する道路は公道からに限っており、私道や敷地内に入っての撮影はしていない」と説明。

しかし、ネットを「公道 私道 グーグル」などでサクって*1みると、自宅が私道から撮影されていると不満を漏らす声がいくつも見つかる。また、8月16日の朝日新聞の投書欄には、「グーグル側は『人の顔はぼかし、車のナンバーは映らないようにしている』と説明しているが、大うそではないか。『公道から撮影した画像は基本的に公開が可能と判断した』ですって? うちの周りは私道です。」という声が掲載されている。

実際どうやら「私道」からも撮影されているようです。ということでこの「撮影する道路は公道からに限っており、私道や敷地内に入っての撮影はしていない」の記事が言葉どおりだとすると確かに実際と異なります。

ところで「私道」とはなんでしょう。そして「私有地」とはどう違うのでしょうか。私有地へ無許可で入れば、それはいわゆる「不法侵入(住居侵入)」にあたり違法行為です。では私道の場合はどうなんでしょうか。

私道について Q1 私道とはどんな道路をいうのですか。

A 私道とは、私人が所有する土地を道路として使っている場合の道路部分を言いますが、一般には、

(1)建築基準法42条1項5号の位置指定道路

(2)建築基準法42条2項の規定により指定を受けている私道(いわゆる2項道路)

(3)開発道路で、市町村道路にも市町村管理の道路にもなっていない道路

(4)その他の私人が所有し管理する道路

をいいます。

私道といっても種類がいろいろあります。建築法で建築物を建てる際に、道に接することを定めています。

Q2 位置指定道路とは何ですか。

A 建築基準法43条は、建築物の敷地は、道路に2メートル以上接しなければならない(接道要件)と定めていますが、公道に接していない土地に家を建てる場合、この接道要件を満たすために、私人所有の土地を、建築基準法上の道路として提供することができます。この道路に指定してもらった土地の部分を指定道路と言います。

つまり自分の土地に道を作るわけで、「私道」なわけです。ところがこの「位置指定道路」を受けた場合には私有地とはいえ、その上に建造物を作ったり、通行を制限することができません。

Q5 他人所有の私道を通行することはできるのですか。

A 原則として私道の所有者の同意がないと通行できませんが、位置指定道路、2項道路及び開発道路はこれらの道路が建築基準法上の道路とされますので、その他の私道とはかなり違った扱いを受けます。
 すなわち、(4)のその他の道路は、原則として私道を開設した人が自由に私道を廃止することができるくらいですから、その私道を通行する権利、例えば囲繞地通行権や通行地役権を有する人でないと通行できませんが、建築基準法上の道路は、その廃止が原則的に禁じられている(建築基準法45条)ところからも、公的色彩を帯びていますので、たとえ通行する権利がなくとも、一種の人格権として、通行の自由ないし自由権が認められる場合があります。最高裁判所平成9年12月18日判決は、建築基準法42条1項5号の規定による道路位置指定を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである、と判示しております。ただ、これらの道路も、私人が所有し管理する土地ですので、道路所有者の管理に従わなければならず、例えば、私道の所有者から、私道の破損を防止するため、私道内での駐車を禁じられたり、一定速度の自動車の走行が禁じられてもしかたがありません。

もっとも重要なのが「公的色彩」を帯びているという点です。この「公的色彩」があるために、以下のように「私道」であっても、公的補助を受けることが可能です。

まず税制上の優遇がありました。

公道に準じた私道は申請により非課税に(994-02) - 狛江市役所

市では、私道(私有地)のうちその利用形態が公共の用に使用されていると認められるものについては、公道に準じた道路として固定資産税・都市計画税を非課税としています。
〔対象となる私道〕
▽公道から公道に接続している私道
▽2戸以上の住宅が利用している袋小路などの私道

通常「私道」の管理運営は私有地であるために所有者が行うのですが、それを市町村が行う制度もあります。

横浜市泉区泉土木事務所 私道整備

私道整備制度のあらまし

 市民の皆さんが日常の生活の中で鉄道駅舎や区役所などの公共施設に通ずる私道でその公共施設を中心とした一定の範囲内の私道にいては、舗装整備工事などを横浜市が行う制度があります。
 整備工事に当たっての幾つかの条件は、次の各項目のとおりとなっておりますが、詳しい説明をご希望される方は、各土木事務所の窓口でお尋ねください。

整備の対象となる道路

 整備の対象となる道路とは、多数の市民の皆様に利用されていて、次の条件をみたすものです。ただし、原則として道路の幅員など、規模や築造された事情により一部制限がありますので、詳しいことは各土木事務所にご相談ください。
1.  地域の皆様が日常利用される鉄道駅舎、区役所、地区センター、スポーツセンター及び図書館などの公共施設から半径500メートル以内の範囲の地域にある私道で、道路の幅員が2.7メートル以上あるものです。
2.  小・中学校の新設(移設)に伴い新たに指定された通学路です。
3. 公道移管手続き中の私道で条件整備が調っている私道です。

いずれにしても「公的色彩」を十分にかんがみた上での制度となっています。また面白いのは「公道移管」をすることが可能な点です。公道移管すると、道路の整備はもちろん、下水道の整備まで市町村管理となります。

そして面白いのはあの「箱根ターンパイク」はなんと「私道」だそうです。

私道 - Wikipedia

民間資本による有料道路の例としては箱根ターンパイク(神奈川県・箱根ターンパイク株式会社)、比叡山ドライブウェイ(滋賀県・比叡山自動車道株式会社)、信貴生駒スカイライン(大阪府/奈良県・近畿日本鉄道株式会社)などがある。鋸山登山自動車道(千葉県)は私有地の中に建設された道路であり、民地内通路の例を兼ねているとも言える。いずれの場合も通行時間(=道路の営業時間)が制限されていることが多く、夜間(場所によっては冬季なども)通行止めとなっていることが多い。特殊な例として、旧国鉄白棚線(福島県)や旧国鉄五新線(奈良県)、西鉄北九州線(福岡県)などの、鉄道敷跡(または未成線)を転用したバス専用道路もこの範疇に含まれると言えよう。いずれの場合も道路運送法第2条第8項に規定されている自動車道であり、道路交通法の適用対象となる。

私道だからパトカーとかいないんですね。わかります。でも事故を起こしたらダメですよ。

このように「私道」といえども道路交通法が及ぶことになりますが、出入りを遮断して民地内通路になると道路交通法は適用されません。

私道 - Wikipedia

なお、私道であり公道との出入りを遮断している場合であれば、民地内通路と見なされ道路交通法が適用されないので、各都道府県公安委員会の交付する運転免許がなくとも自動車(自動二輪車を含む)及び原動機付自転車を運転することができる。自動車教習所やサーキット場はこの点を活用した施設である。

もちろん「位置指定道路」を受けてしまうと前述のように遮断することはできませんが。

というように、ひとくちに「私道」といってもさまざまです。そしてこの「私道(位置指定道路)」であるかどうかは建築法上の問題なので、いわゆる「地図データ」にはおそらく反映されていないことでしょう。カーナビゲーションで「私道だから」といって箱根ターンパイクをルートガイドからはずされても困りますからね。

カーナビでは警察庁の指導により、ある幅員以下の道路はルートガイドからはずすようになっているそうです。道路が誰のものかといったものよりも、道幅でストリートビューの自主規制をする方がまだ妥当な気がします。

この「私道」問題については日本だけではなく、海外でも波紋を呼んでいるようですね。

グーグル、私道内に侵入したとして非難される--Street Viewをめぐって:ニュース - CNET Japan

「Google Street View」サービスはどうやら、個人の地所に立っている「立ち入り禁止」や「私道」の立て札は単なる飾りだと考えているようだ。

アメリカの私道が日本の私道とはおそらく異なるでしょうから一概にはいえませんけど、どの国であっても人のやってほしくないことは慎んだ方が良いでしょうね。

【関連リンク】

私道 - Wikipedia

【関連エントリー】

Google ストリートビューの本当の問題はプライバシーではない ([の] のまのしわざ)