地獄のF1富士:なぜバスは動かなかったのか。それは客が悪いから。

AUTOSPORT 2007年11月29日号(No.1136)を入手したのでご紹介。こちらではシャトルバスがなぜ動かなくなったか、検証記事を掲載しています。

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が、読んでみて呆気にとられました・・・

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日本GPの一連のトラブルで最も大きな問題となったシャトルバスの運行について、富士スピードウェイ側での状況把握がある程度まとまり取材に応じた。なお当初、代表者へのインタビューを申し込んでいたが、これについては原因究明だけでなく、対策案が完成してから受ける、という旨の返答があった。以下、広報のコメントを元にまとめた。

冒頭はこの文からはじまります。要点は

・FSWの広報が取材に応じた
・FSWの代表者はこの時点で取材は受けず、対策案が完成してから受ける

の2つ。取材を元にまとめたのがこの記事ということなので、基本はFSW側からの情報がベースとなります。以下同様に引用は記事から。

陥没による交互通行が発端

・・・土曜日の午前10時ごろまでは順調に運行していたが、・・・
上下交互に通行する交互通行に変更せざるを得ない状況となった。
・・・
渋滞しはじめ、午前11時半ごろにはその車列が東ゲートを越えて国道246号線棚頭の陸橋付近にまで達する状況となった。

上記は土曜日、予選の往路の状況です。道路陥没、交互通行が原因による交互通行の渋滞はすでに11時半には大きく伸びていたのですね。

しかし金曜日の往路から交互通行していたように思うんですけどね、自分の記憶違いでしょうか? というのも東1バス乗り場の手前は簡易舗装どころか単に砂利をしいただけの狭い道路。そこから普通自動車用に作られた細い作業用道路を使って外に出るのですが、このカーブが非常に狭い。そのためバスは鼻先を大きく外に振って回頭する必要があり、バス停に向かうバスは一旦停止して出るバスが曲がるのを待っていたのですよ。すれ違いの交互通行ではないですが、結果的にこの砂利道の上は交互通行になってました。

アクセス路の陥没は計3カ所。・・・東1乗降場からの出庫専用路として用意した通路を交互通行とする。 ただし、この通路は1車線幅のため、20~30台の殻バスをまとめて乗降場へ誘導し、全社の乗車が済んだところで、まとめて20~30台を場外に誘導するという形をとらざるを得なかった。

ここでいう出庫専用路とは、さきほど私がいった細い作業用道路のことです。金曜日は確かにこれは出庫のみに使われていました。が、まさかここを交互通行にしていたとは・・・絶句です。これは場外に出るまで数百メートルあり、ここを交互通行にするのは大変なボトルネックです。

しかし絶句したのは次の文章。

誘導スタッフは待ち時間の長さや悪路面などに関するお客様からのクレーム対応に追われ、本来業務が遂行できない状況に陥ったことがさらに現場での混乱を大きくした。

・・・悪路面というか、道路陥没に関するアナウンスがあったのは何時でしょうか?私が知る限り午後8時ごろ。少なくとも悪路面に関するクレームがはじまったのはその後でしょうし、待ち時間について適切な案内がなかったのは事実。それなのにこの理解は、いつもの「客が悪い」理論ですし、原因と結果を履き違えています。客がクレームをつけたのは結果であって、原因ではありません。それに暴動が起きなかっただけ日本のF1ファンは紳士で忍耐強かったと考えるのが妥当でしょう。

こうした混乱の結果、お客様全員が退場するのは22時半ごろとなった。深夜に陥没箇所の道路補修強化工事を実施するが、降り続く雨のためにセメントが固まらず

日曜日はさらにグダグダで悲惨な状況へと突入します。バスの乗降場を変更するなど対策するものの、バス待機場のキャパオーバー、まるで田んぼのような状況となったバス乗り場でバスはノロノロ運転、さらに処理能力を下げることに。そして待機すべき空きバスが待機場からあふれ、道路上に待ち行列を作り、その列が今度はゲート入り口を塞ぐという始末。その結果12:30からは会場外道路での下車、徒歩入場がはじまります。

待機場から溢れた空きバスに対して、市街を回遊させて待機させるという策を講じようとしたものの、

バス会社もバラバラで、無線指示できるような状況でもなく、予期せぬ指示にバス運転士も混乱、指揮系統も混乱し、コントロールが聞かない状況となっていた。

・・・ここはどこの戦場でしょうか。私は戦争にいったことも見たこともありませんけど、この指示系統の混乱っぷりは戦争しかイメージできません。

さらにまたお得意のコレです。

一方、往路状況や陥没のニュースで不安が増し、また降り続く雨と寒さによる疲れから、レース終了前の15時半ごろから8割を超えるお客様が乗降場に殺到する。

適切な情報を案内せずに、殺到といいますか。

シャトルバスの輸送能力は、周辺の道路交通容量などから1時間当たり3万人強であり、計画では3~4時間ですべてのお客様に退場していただく予定であったが、実際にはレース終了時点で7~8万人のお客様が一斉に乗降場に集中し、バス待ちの列が大きく伸びる結果となった。

理論値はすべて理想的な状況での計算ですから、同じく3万人が順次乗降場へ行っても同様にバス待ちの列は大きく伸びたでしょう。「待ち合わせ理論」によると呼数(ここではバスに乗ろうとする客の時間あたりの数)が処理能力(バスの時間あたりの運搬能力)を超えた時点で待ち行列は発生するわけですから、同じ結果のはずです。

そして、またもや

シャトルバスの乗車を諦めて徒歩で退場するお客様が多く出た結果、交通整理に混乱をきたしたことや、

とは、まだ言いますか。

17時からは計画どおりツアーバスの出発も開始されたこと(編集部注:このほか、翌週行われる上海GPへの移動に配慮したFOMからの養成で、決勝レース終了後にドライバーやチーム関係者を西ゲートから選考して通行させたことも要因と考えられる)などからさらに渋滞が大きくなった。

この状況下で計画どおりツアーバスを運行させて渋滞に拍車をかけ、さらにはVIP待遇の車両を優先退場させてバスの通行を停止させるということをしたわけですから、そりゃ徒歩退場者もでるのは当たり前の話です。これが原因と結果ですよ。

また気になるのはわざわざここで編集部注と入れてあることから、やはり原文はFSW広報の言葉そのもので、FSW広報からはVIPの優先退場に関しては一切言及がなかったことが容易に推察できます。

今まで多くの検証記事を見て、シャトルバス大渋滞のほぼ全貌を知ったつもりになっていましたがこの記事は再発見がありました。そしていかにFSWが原因を「自然災害」と「客が悪い」としているか、また自分たちの責任や瑕疵を認識していない、もしくは無視、スルーしているかを確認することが出来ました。

例えばこういう話はなかったですよね。

・スタッフが足りなかった
・組織体制、連絡網、命令系統がしっかりしてなかった
・アクセス路のキャパシティが元々足りなかった
・バックアップ路線を確保していなかった
・ディザスターリカバリーを計画していなかった

などなど。

こんな認識をベースに対策案を出してくるというのですから、本当に見物です。

【引用元】
原文はwebから見られます⇒auto1136 :: ActionBrowser