Gmailに見るコミュニケーション論と検索技術の意味

噂のGoogleの1GBメールサービス「Gmail」を最速レビュー!

■メールのやり取りを「会話」としてまとめる

 もう一つの特徴が、同じタイトルで同じ人とメールのやり取りをしていると、「conversations(会話)」とみなす機能だ。conversationsになると、Inboxに表示されるタイトルを1行でまとめてくれる。例えば、宴会の段取りについて同じ人とメールをやり取りしていると、Inboxがそのメールのタイトルで一杯になってしまうだろう。それを防いでくれる。7通のメールをやり取りしていれば、Inboxには、「送信者名,受信者名(7) タイトル」のように表示される。それをクリックすると、最新のメールの本文と、過去のメールタイトルや送受信時間がタブ表示される。画面右にある「Expand all」をクリックすると、やり取りしたメールすべての本文が表示され、まとめて印刷することもできる。

Gmailの中で最も注目したいのがこの機能である。元々メールは不特定多数に対して、引用を利用しながらメールを送受信することが可能である。メールは2つの利点をユーザーに与える。

送信者側:伝達したい内容を(相手がメールを読む前提のもとに)確実に伝えることが可能
受信者側:自分の読みたいときに読み、返信したいときに返信できる自由が与えられる(もちろん返信しない自由も)

一方で電話を例にとって比較しよう。電話の場合は送信者側は相手が電話をとらない限り内容を伝達できない。また受信者側はいつかかって来るかわからない相手からの電話におびえなければならない。しかも誰から電話がかかっているか分からない点である。この電話の不自由さの一部を解決する手段を有料で提供するビジネスモデルをとっている。これは一重に電話会社の独占的な利益主義体質であり、100年前のシステムから未だ脱却していない。

メールは郵便を模したものではあるが、UNIXやインターネットの文化の中において発達してきたために利益主義体質からは程遠かった。インターネットの料金やメールの使用料は未だとられてない。メールが一日数千通来る人も、一通も来ない人も等しく無料である。

携帯メールに至り、電話文化とメール文化がぶつかりあったのは周知のことである。そこで初めてスパムメール、広告メールが電話・パケット料金肥大の実質的な被害として問題となった。

もう一方でその地位を確立してきたのが「メッセンジャー」である。メッセンジャーの基本機能はステータスの通知とチャットである。チャットは「同時性」のあるコミュニケーションで2人以上のユーザーがほぼ同時に端末に向かい、メッセージを頻繁に送受信する状態をいう。そのためステータスの通知は重要で、端末に向かってない状態「離席」や端末がネットに接続されてない状態「オフライン」ではコミュニケーションが成立しない。コミュニケーションははテキストチャットからはじまり、音声チャット(電話)やビデオチャット(ビデオ電話)が可能である。

ところでメールとテキストチャットの違いはどこにあるのだろう?実はコミュニケーションの本質として考えると差異はなくなる。メールが頻繁に送受信されている状態、例えば数秒に1回やりとりしているのは、ほぼテキストチャットと同じコミュニケーションとなる。実際携帯メールで一行メッセージのやりとりが若い世代で行われており、これはいわばチャット状態である。

逆にチャットであってもタイピングが遅かったり、トイレにいくなどして送信に時間がかかった場合はメールと同様にいつ返事がくるか保障されない手段と成り下がる。

他の違いはというと、内容がデフォルトで保存されるか否かくらいである。メッセンジャーはログをとらないのがデフォルトであるのに対して、メールは常に送受信履歴、内容が残る。

これらを「同時性」というキーワードで整理すると、同時性がもっとも強いのが電話であり、つぎにメッセンジャー、そして同時性がなくとも構わないのがメールとなる。

一方で「保存性」というキーワードで整理すると、「保存性」がもっとも強いのがメールであり、次にメッセンジャー、通常会話を録音することなどない電話が保存性が低い。

さて、Gmailへと戻るがGmailの「conversations(会話)」という機能は時間軸をぎゅっと圧縮して、「同時性」を演出していることがわかる。実際には数日かかっているコミュニケーションが「conversations」という機能を通すとまるでメッセンジャーで数分間のテキストチャットかのように見える。

「保存性」というキーワードでひもとくと、当然メールなのですべての内容、送受信履歴は保存されている。1GBまで無料なのは周知のことである。しかも目的の内容にアクセスする手段としてはコンベンショナルなtree構造となるフォルダ分けではなく、GoogleがGoogleである所以の「検索技術」を最大限に活かしているのはいうまでもない。

Gmailは賞賛を持って受け入れられるだろう。そしてその次にくるのは何か?

電話とメッセンジャーとメールをシームレスにしたようなコミュニケーションツールであろう。それはどういうことかというと「同時性」と「保存性」の軸をいったりきたりできるツールということ。Googleの検索技術の応用として考えるとメッセンジャーのメッセージをすべて保存したとしても、その中から欲しい情報を取り出すのはいとも簡単だ。

電話(音声チャット)も一度テキストに落ちてしまえば同様。まだ音声認識が不完全であるためにこれは先の話になろうが、それも近い将来可能だ。つまりIP電話の会話内容すべてテキストとして記録されれば、Googleの検索技術を使うことで自由自在に取り出すことが出来るというわけだ。いや、逆にテキストに落とさずに音声で検索する技術を開発しているかもしれない。

そしてこの技術を支えるのが巨大ストレージというわけだ。Gmailが1ユーザーあたり1GBのストレージで世界をあっといわせたが、それはケチ臭い商業主義の常識からみると非常識に巨大だっただけである。Googleにしてみれば巨大なストレージにはなんら価値はなく、そこからどんな情報をいかに簡単に、いかに早く、正確にユーザーに届けるかに価値を見出してる(その証拠にGmailはGoogleの検索同様、ブラウザベースなのに非常に高速だ)。そのため1GBだろうが、1TBだろうが問題ではないのだ。そしてHDD市場を見ればわかるようにストレージは常に容量があがり、値段が下がり続けている。3年後にはTmailといって1TBになっていても不思議ではないのだ。

iPodが画期的だったのは、従来ウォークマンが家にあるCDやMDを選択して家の外に持ち出していたのに対し、iPodは持っている音楽すべてをHDDに内蔵して、家の外で何を聞くかを選択的にした点だ。これを可能にしたのがHDDの大容量化と小型化である。これは数年後テラストレージに達した時点でさらに世界をかえる。それは「音楽会社が持つすべての音楽データをCE機器に内蔵可能」ということである。今は音楽データをCDから作るか、onlineでダウンロードしてHDDへ内蔵するスキームだがもうそれは必要ない。CE機器を買うとすでにデータは内蔵されているのである。その代わり「聞く権利」をonlineで買うことになる。そっちの方が簡単で早い。音楽で出来たなら、映像もじきだ。ビデオデッキを買うとツタヤのビデオはすべて内蔵されているのだ。「見る権利」を買って、見るようになる。

「聞く権利」「見る権利」を買うときに必要になるのが、「どれを買うか」である。このときに膨大なタイトルの中から目的のものを取り出すのがやはり「検索技術」である。

「検索」をキーワードにその勢いをとどめることのないGoogleは世界を制するかも。