あなたはまだ本当の自由な移動を知らない

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つい最近も都内に住むIT系エンジニアがマイカーを購入するかどうか「コスパ」を基準にして悩んでいるのを見かけた。

本人は真剣だし、回りの意見もごくまっとうである。しかしながらその議論は最終的に「マイカーはコスパが悪い」という結論に収斂することは最初から見えており、議論に加わることははばかられる。

なぜなら本人も、意見を言う人も自動車を持つ本当の意味での「パフォーマンス」を知らないからだ。そのため「コスト」のばかり気にして、最終的にコストミニマム、出費を少なくする方向でレンタカーやカーシェアになるのが当然の帰結。

マイカーの本当の「パフォーマンス」はあまり知られていない。意識されていない。

その本当の価値は「自分だけの鍵(キー)を持つこと」なのだ。

キーを持つこと

このキーは自由への切符だ。いつ、どんなとき、それが深夜だろうが、早朝だろうが、自分の自由意志で出発を決められる。

そして行先も自由だ。なんの計画も予定もいらない。ガソリンが入っているだけ、車を走らせることができる。

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明治維新と都市化とモビリティの発達 - のまのしわざ

この夏の旅では1500kmを走行した。1日目の宿泊以外はその場でその日の朝に決めてしまうフレキシブルな旅だ。そして台風上陸の予報があり、1日早めに切り上げて一気に700kmを走行してかえってきてしまった。

これがカーシェアやレンタカーだったらどうだろうか。予約するのは手間だし、延長するのも手間だ。コスパで考えるのであれば、この「手間」は見えないコストになっていることを考えた方がいい。

そして予定に縛られることの不自由さ、これもパフォーマンスの劣化につながっていることに気づくべきだ。ツアー旅行、パック旅行が安いのは自由さとの引き換えであるが、それと同じことが起きているのだ。

そしてそもそもこの1500km、6日間のレンタカー代はいったいいくらになるのだろうか? 安いとはあまり思えない。走行性能と快適性を考えると、1日 15,000円 延長12,000円/日程度になりそうだ。すると75,000円かかる計算だ。

実は電車よりも安くつく自動車

青森から高尾まで、電車と自動車を使った場合の運賃比較をしてみる。

・青森ー高尾
高速道路代 15,460円 @725.0km, 21.32円/km
ガソリン代 7854円(@130円 12km/L)
所用時間 7h54m

・青森駅ー高尾駅
JR 新幹線はやぶさ使用 16,950円(@1人)
所用時間 4h52m

(経路探索はgoogleを利用)

1名だと新幹線が早く、安くつくが2名になったとたんに逆転する。これが家族3名以上ともなるとその差は歴然だ。燃費も12km/Lとコンサバに読んでおり、これがエコカーになれば1.5倍になるためガソリン代はさらに安くなり差は開く。

これは遠距離の例であるが、郊外の中距離、20km程度の距離であっても実は同じだ。実家のある熊本県八代市での使用例を考えてみる。

・八代~御立岬
21.7km 26分
347円(@120円 15km/L)

・八代駅ーたのうら御立岬公園
http://www.hs-orange.com/railway/fare/document/unchinhyou.pdf
第三セクター 肥薩オレンジ鉄道
630円 22.1km  28分

高速道路代がないため、1名乗車であっても自動車の方が安くついてしまうのだ。田舎で軽自動車ばかりになるのはこれが理由である。もっとも経済的な移動手段かつ、待ち時間がない、ドアツードアで移動できることで、バスや鉄道といった公共交通機関はどうやっても軽自動車に敵わない。

都心で軽自動車が使われないワケ

軽自動車は車両の取得費用が安いだけではなく、自動車税といった維持費が安いのが特徴である。しかし都心ではあまり見かけない。その理由は都心での一番の維持費のファクターは「駐車場代」であり、税金や保険代よりも数倍かかるため、小型車や普通車と維持費は大きく違わない。そうであればもっと走行パフォーマンスが高く、「見栄え」がする大きなクルマになる。

駐車場代がかからない田舎とはそこが大きな違いとなる。軽自動車はその成立過程で考えると2輪の延長であり、税法上は原付やスーパーカブの超高級快適版ととらえたほうがいい。

都心でマイカーをもつべきか?

お金を何に使うか、は人それぞれである。人によってはファッションにお金をかける人もいるだろう。別にジーンズとシャツ、下着を数着もって洗濯して回せば衣服で困ることはない。ジョブスなどいつも同じ服であった(同じ物を100着持っていたといわれているが)。これは価値観であり、人生観である。

深夜1時に、小腹が減ったといって環八沿いのラーメン屋にいくことも、海がみたいと新潟まで車を走らせることができるのはマイカーだ。電車はないし、タクシーもつかまえるのに一苦労の時間。そんな手間かけるくらいなら家でカップラーメンをすすることだろう。かさばる重い荷物を、持ったり運んだりしなくてもいい、トランクに乗せるだけ。マイカーなら悩むことも選択をすることなく、何も考えずにキーを回してエンジンをかけるだけでいいのだ。

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これに価値を見出すか見いだせないか。

やった人しか分からない価値だから、マイカーを持ったことがない人がそのパフォーマンスを想像できないのも仕方ない。しかし一度これを味わい、分かった人はもはや「マイカーをもつかどうか」は議論の余地はない。むしろ何台もつか、が問題なのだ。

クルマ・バイクを数台持っている私からすると、逆に都心に住む「コスパ」の悪さが気になってしまう。待機児童問題があり、空気汚染や騒音など子育て環境の悪い住まいに多くのお金を使うくらいなら、郊外に住んでクルマ・バイクを数台もってTPOに合わせて選択し、自由に移動したほうが健やかに感じるからだ。

価値観は人ぞれぞれだが、一度失敗したつもりでマイカーを試してみるのもいいだろう。判断するのはそれからでもいいと思う。

いずれ自律走行の時代がきたとき、大衆によるマイカーはなくなる(※関連記事参照のこと)。昭和の風景が失われていくように、マイカーがあった時代もいずれ失われるのだ。

その時にニヤリとしながら

私「昔はねえ、自動車は人が運転したんだよ」

孫「えー、そんなわけないでしょ。危ないじゃない」

という会話ができるかどうか。そしてそのとき孫を連れてワインディングを抜けて海を見にいけたら、それは本望である。


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