「高速道路での事故は突然に。S2000大破(状況編)」の続き。
【原因は本当にハイドロ?】
お忙しいところ、長野からローダーで回収に来て下さったサカイタイヤさん。ハブ、ナックル、ドライブシャフトごと脱落したタイヤ・ホイールのタイヤをみて
「このタイヤでハイドロは起きないでしょう、それより裂けた部分があって気になる」
とのこと。バーストなら何の前触れもなく一気に空気が抜けてしまうから、突然スピンすることもあるそうです。タイヤの専門家の言うことですから、重みがあります。
事故当時、雨が降っていたことからてっきり「ハイドロプレーニング」を起こしたと思っており、それ以外の要因を考えてなかったのでこの指摘は目からうろこでした。警察も最初っからハイドロと決めてかかっていた節があり、それ以外の可能性についてはまったく検討していません。
そもそも日本では警察は事故処理がメインで、事故の原因調査について突っ込んでやらないし、事故調査をする民間団体やカーメーカーもありません。これがアメリカ、ドイツやスウェーデンでは事故調査機関があり、原因究明に乗り出します。仕方ないので自分で原因調査、検証していきます。
【ハイドロプレーニングとは何か】
まずハイドロプレーニング現象とは何か。
あっ!ブレーキがきかない(ハイドロプレーニング現象) | 日本自動車研究所雨などで水に覆われた道路で、車線変更やブレーキ操作を行うとハンドルをとられたり、ブレーキの効き具合が悪くなったのを感じませんか?
第23回 「ハイドロプレーニング」対策、教えます!│走れ!タイヤくん│トーヨータイヤハイドロプレーニングは、特に高速道路で起きやすい現象です。路面に雨水がたまっているとき、タイヤは溝によって排水し、路面をつかんで回転しているのです。しかし、速度が上がりすぎて臨界点を超えると、溝による排水が追いつかなくなり、ハイドロプレーニング現象が起こります。タイヤが水の上に「乗った」状態になり、ハンドルが全くきかなくなるのです。
簡単にいうと水(水膜)の上にタイヤが乗っかってしまい、グリップを失い滑っていっちゃうということです。そのため、ハンドル操作やブレーキが効かなくなります。またコーナー途中、車線変更途中であればスピンを起こすことになります。
ジムカーナ競技やサーキット走行をやっていた経験上、ハイドロプレーニングは何度も体験しています。
轍の深い湾岸道路を溝ありのSタイヤが出る前のスリックタイヤ(いわゆるカットスリック)を履いて走っていたところ50km前後でも水の上にあがってハンドル、ブレーキが効かなくなる体験もしたことがあります。この時水しぶきが後ろではなく、横や前にあがって、縦溝がないと水は後ろに流れないのだなあと感心しました。
またサーキットの1コーナーの手前が川になっており、ハイドロでハンドル、ブレーキが効かずそのまま真っすぐコースアウトしたことがあります。そのままだとフロントからウォール直撃だったのでサイドを引き、なんとか真横にしたのですが止まり切れず真横のままスポンジバリアへ直撃。広い面であたったので奇跡的に無傷でした。
CIVIC type R那須モーターランドの無限走行会です。 雨、雨、雨だったので、仕方なくフロントはノーマル鉄ホイールにノーマルタイヤを使っています。かっこ悪いです。 この前にSタイヤはいていたら、1コーナーでスポンジバリアに激突しました。ハイドロって怖いです。 1999年9月22日頃
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駆動輪がハイドロになると、グリップを失いエンジン回転数が上がるといった現象が起きます。そして基本的に真っ直ぐで起きたら慣性の法則でクルマは真っ直ぐいくもの。これにはどう対応したらいいでしょう。
その瞬間、ドライバーはどうしたら良いのでしょうか?アクセルから足を離さず、ハンドルはそのままに、ブレーキも踏まない、シフトダウンも禁物‥‥タイヤの回転に合わせて徐々に減速しながらタイヤのグリップの回復を待ちましょう。
ようはそうっと陸の上に戻るのを待つしかない、ということです。で、今回の事故の場合はそんな感覚もなく、いきなりリアが曲がってスピンしていったのです。はて、なんで?
ハイドロで考えられる原因としては、
・雨量が激しいこと
・轍、水たまりがあること
・スピードがでていること
・タイヤの溝が少ないこと
・タイヤが雨に弱いこと
・急な操作をしたこと(車線変更、コーナー途中、ブレーキ、アクセル)
があります。大きく分けて
・スピード
・環境(道路、気象)
・タイヤ
・操作
です。ところが今回、
・雨量がそんなになかったこと
・水たまりがおきるような大きな轍はない
・雨につよいミシュランスーパースポーツ
・タイヤ溝も8分山とタップリ
・直線であり、操作をしていないこと
・巡航速度でスピードを出してないこと
からどうにも腑に落ちません。
それが冒頭のサカイタイヤさんの「このタイヤでハイドロ?」という疑問になるわけです。
警察は鼻からスピード出し過ぎ、ハイドロプレーニングが原因と決めつけて、調書には路面が変わった場所からスリップ後、蛇行して中央分離帯にぶつかったことになってましたが、じつは路面が変わった場所から衝突現場までは距離がありすぎてそこでスリップしたとは考えにくいです。
(非常電話の先はコーナー出口、路面の変わった場所。非常電話は現場から100m以上手前の地点ということから、コーナー出口、路面が変わった場所は事故現場から200m以上先)
実際にはリアが流れてからすぐに180度スピン、後ろからガードレールにぶつかっています。
同乗者の子供に言われて気付いたことですが、実際には路面が変わったところとは無関係にスリップしてガードレールにぶつかっています。というのもその手前にガードレールはなく、コンクリートの壁になっていたからです。リアの衝突箇所をみれば分かるように、ガードレールのあとがくっきり、コンクリートの壁には一切白い塗料はついてないし、そうなるとやはり路面が変わったところではありません。もっと衝突現場に近い場所で突然リアが流れていったのです、ハイドロの特徴である、エンジン回転数があがる、浮いたような感触もなしに。
【ハイドロに対する心の備え】
子供に「今日は雨だからゆっくり行くよ」と声をかけるくらい、雨と路面に対しては慎重でした。特に友人が雨の日にハイドロを起こしてスピン、燃料タンクからガソリンがもれだし引火、炎上したという話を思い出していたくらい。ハンドルの手ごたえを確認しながら走っていたのにも関わらず、直線であっという間のスピンアウトは「え、なんで」と思ったほどです。
【そんなに簡単にタイヤってとれるもの?】
路肩に寄せた後にガードレールを見て驚いたのは、なんとそこにタイヤホイールが残っていたことです。しかもブレーキディスクごと。
随分大きな衝撃だったからなあ、と事故直後は思ったもののはて。乗員は無傷、特にむちうちにもならない程度の衝撃程度でタイヤがとれちゃうの? ながらくサーキット走行やダートトライアル走行をしてきましたが、タイヤがとれるような大クラッシュというのは見たことがなく、せいぜい骨折(サスペンションが折れる)程度。
F1でもそうですが、走行中のタイヤがとれて飛んできてしまうようなレースというのは、観客もオフィシャルも本当に危険にさらされるのでそうそうあっては困ります。
そう考えるとなぜタイヤが、しかもナックルごととれてしまったのか。
比較的浅い角度(30度位)でガードレールにぶつかっているので本来タイヤホイールは内側に押し込まれるはずです。ガードレールにそってスライドしていますから、多少外向きの力がかかるのも分かりますが、その後ガードレールにそって止まったことを考えると角度は相当浅いです。それでも外に出たということは、タイヤがボディの外、フェンダーの外に出ていた場合に起きうること...
もしそうであれば、ガードレールにぶつかったとき、いやその前にタイヤ・ホイールはすでにリアフェンダーの外にあったということです。
【サスペンション、リアナックル破損の可能性】
実はS2000のリアナックル、サーキット走行を行っていると破損することがよく知られています。
現時点では写真が少なくリアナックルの状態が不明ですが、本来リアナックルに圧入されているべきピロボールブッシュがロアアーム側に綺麗に残っていることから衝突の前に抜けおちた可能性があります。もしリアナックルが脱落してタイヤが外をむいてしまい、リアステア状態で回転したとすると、あの激しいスピンの挙動も納得がいきます。
また衝突時すでにタイヤがボディの外側に出ており、ガードレールにぶつかった拍子にぶらぶらのナックルごとタイヤホイールがボディ外にちぎれ飛んだ、と考えれば合点がいきます。
【前兆はあった?】
実はこの旅行中に気になることがありました。それはアライメントです。サスペンションおたくなので、アライメントがバシっと出ていないと評価にならないのもあるし、ハンドルを常にどちらかに切っていなければならないのはタイヤが偏摩耗する原因となりよろしくありません。ほんのわずかですが左にとられる傾向にあり、これが路面のカントによるものなのかどうかずっと逡巡していました。いずれにしても以前よりも左にとられる傾向が強くなっていると判断、この旅行が終わったらアライメントをとろうと思っていた矢先の事故でした。
もしかしたらこれがサスペンション異常の前兆だったのかも知れません。
【調査はつづく】
これはあくまでも仮説に過ぎないので、現物が東京に戻ってきてからより詳細に調査をつめて行きます。
(つづく)
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