ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第1話 新橋の夜 #mini4wd

...時は近未来...

私の名は北川正治。都内のIT企業に勤める32歳のサラリーマンだ。しかし実は裏の顔がある、タミヤが40年前に発売し、長い人気を得ている電動工作自動車、「ミニ四駆」を製作するメカニックであり、レースをするレーサーである。ホームコースをもたず、夜な夜な街のミニ四駆サーキットに繰り出し、コースレコードを塗り替えるのを嗜みとしている。並みいる常連のタイムをたった1日で記録更新して去っていくため、人呼んで「流しのミニヨン・レーサー」。


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北川「今日は久々に新橋にいってみるか」

ホームコースを持たないといっても、いきつけのミニ四駆コースくらいある。新橋は飲み屋街であるとともに、ミニ四駆コースを併設する飲み屋も多いのだ。

慣れた足取りで裏路地を入り、いきつけのミニ四駆飲み屋に向かう。とそのとき。

ガラガラガッシャーーーーン!!

学生「ご、ごめんなさい、許して下さい!」

学生が目の前にもんどりうって転がってきたのだ。お約束のようにポリバケツに頭から突っ込んでいる。

(あーあー、こりゃ喧嘩だな・・・新橋の面倒な点は酔っ払いにあるんだよな・・・)

なんて思いつつ、面倒を避けて横を素通りしようとしたとき、デカい男がいきつけのミニ四駆飲み屋から出てきて行く手を阻まれた。

大男「てめぇ、ふざけたマネしやがって! ええか、モーターにはケミカル吹いちゃいけねえの、ニイちゃんわかってんだろ。てめぇのモーターはWD-40くせぇんだよ!」

WD-40とはエステーが発売しているアメリカ発の潤滑剤の一種でこれをモーターの中に吹くとモーターは高回転し、スピードアップするために使用は禁じられている。独特の甘い香りを放つので、すぐに分かるのだ。モーターは改造禁止、ケミカル禁止というのはミニヨン・レーサーの中では常識中常識であり、知らないやつはモグリと言われても仕方ない。

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学生「だ、だぶるーでぃー40ってなんですか・・・」

大男「いまさら知らないふりしようたって、そうは問屋が卸さねえぜ。身体に教えてやらないとな。」

(ポキポキポキ)

学生「すみません! こ、このマシンはパパが残してくれたもので、僕はよくわからないんです。許して下さい」

大男「あん、パパだぁ、甘えじゃねえのか、このゆとり世代め。よし、そんなレギュ違反のマシン、そっちから壊してしまおうか」

北川の目がキラーンと光った。

北川「ちょっとそこのニイちゃん、聞き捨てならねえな。マシンを壊してしまおうなんてセリフ。」

大男「なんだ、お前。てめえには関係ねえだろ。こいつはなあ、賭けレースでイカサママシンを使ったんだ、その落とし前はキッチリつけないとな」

賭けレースとは昨今流行ってきた賭け麻雀と同じくミニ四駆の裏レース、賭博法で禁じられているためアングラだがここ最近新橋のミニ四駆飲み屋で多くみられるものだ。1レース1000円が相場だが、最近はエスカレートし1レース 1万円が飛び交うことも珍しくない。しかしこの店もそんなヤバいものに手を出しているとは、いつ摘発されることやら。

北川「賭けレースか...しかしマシンを壊すことはないだろう。」

大男「この学生風情が金持ってないってんだ、見せしめにイカサママシンを壊さなきゃ収まりがつかないだろ」

学生「すみません、すみません、パパの形見なんです。これだけは壊さないで下さい」

北川「形見・・・」

学生のもつマシンに目をやると、ボロボロのステッカーにマグナムという文字が。確かに当時もので一見遅くみえるが、よく見るとローラーにベアリング、シャーシは肉抜きされ...井桁超大径化されている。この工作精度、ただ者ではない。

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一方大男の持つマシン、ハイグレードカーボン、アルミホイールに色とりどりの限定カラーパーツとありとあらゆるオプションがついており確かに値段はかかっている。

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しかし今流行の提灯マスダンパーに東北ダンパー、サイドダンパーと錘りだらけでいかにも重い。たしかこの店、フラットコースなのでこのダンパー祭りは不要の長物、セッティングミスで負けたのではないか・・・


北川「ここはひとつ許してやってくれませんかね」

大男「イカサマ・マシンはこの世から消えてなくならなきゃいけないんだよ」

北川「本当にイカサマなのかい?」

大男「おれのこの最新鋭マシンは負けたことがないんだ、それに勝つなんてイカサマに決まってるだろ!」

オレ様系か、確かに最初ミニ四駆をはじめてオプションの力で早くなるといかにも自分が最高だと感じて天狗になる奴がいる。しかしミニ四駆とはオプションの力で早くなるうちは序の口、そこからが本当の始まりだというのに、不憫な男だ。

北川「そうか、そこまでいうか、なら・・・」

北川・大男「ミニ四駆で勝負だ!」

かくして北川は望まぬ戦いに巻き込まれることとなった。しかしこれが運命の出会いとは、このときは誰も知る由もなかった。

(つづく)

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。

ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。

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