欲望は人を惑わします。今回はFD3S RX-7の商品性について。
ロータリーターボの高速道路での速度の伸びはすばらしいですね。空気抵抗が少ないボディ形状とあいまって、すいすいと加速していきます。一方パッケージングはとても微妙。まずとにかく狭い。
3ナンバー車なのですが運転席がまず狭いです。そして助手席はもっと狭いという謎。特に後席に荷物を積むと前はきゅーきゅーです。
しかもシートも体にフィットせず、どんな角度にしてもどうにもしっくりきません。座面は短く、接触面が少ないために腰痛になりやすいし、シートを寝かしても頭をあげざるをえず首が疲れるし。運転席(バケットシート)の方がかえって楽という結果に。
こうしてみるとアンフィニRX-7の位置づけが見えてきます。
そうです、アンフィニだったんですよ。
当時マツダは拡大戦略、ディーラー系列を増やし車種はフルラインナップ、つまりトヨタを目指してしまったんです。アンフィニはその中でも高級車路線。RX-7はその高級スポーツカーに位置付けられました。
そこで目指したのはポルシェ。ポルシェは走りのクルマであり、高級車でもありますがそこを追いかけてしまいました。実際レースの世界でも競争していたのでその点では不思議はありません。
しかしこれが悲劇のはじまり。
2ローターのロータリーエンジンでパワーを出しつつ、ドライバビリティを確保しようとシーケンシャルツインターボ化。そして車体は極限までの軽量化をはかります。いわゆる「ゼロ戦」を見学して穴あけて軽量化していったというアレです。車載工具はボディに這う形にきっちりと作りこまれ、パンタグラフジャッキに至ってもアルミ化されています。
一方でアンフィニ、高級車路線も忘れていません。まだリモコンドアロックも集中ドアロックがないものの、キーシリンダーはライトアップされるほど。メーターフードはスエード化され、メーターもクロノグラフのようにシルバーリングで装飾されるなど気が配られています。それになにより流麗なデザイン。外装同様、インパネ周りも非常によくまとまっています。
ところが実際にFD3S RX-7に乗ってみると何やらチグハグな印象。
高級車なのか、スペシャリティカー(デートカー)なのか、スポーツカーなのか、サッパリわからないのです。
2 by 2の4シーターとなっていますが、実質後席は物置。大人をのせるのはまさに拷問といっていいでしょう。しかもおかしいのは、後席に大人1名のせると、同時に助手席も拷問になってしまうのです。まさに一蓮托生。
では2人乗りならいいかというと、助手席の居住性は非常に悪いのです。足元はミッションが迫ってきて狭い、シートは合わない、しかもアクセルオフでガクンとしてしまうのでデートカーとして女性が隣にのるのは相当辛いんでは。さらに乗降性も悪く、正直私はカンベンです。
スポーツカーとしてはなかなかの出来です。パワフルなエンジンに空気抵抗の少ないボディ。乗っていて面白い。ただ気になるのはボディの大きさ。
車重が1280kg前後とかなり軽量なのですが、全長・全幅が相当です。特にリアオーバーハングは長く車軸の後ろに大きなガソリンタンク、フロントもエンジンルームはエンジン補機でギッシリ。重量バランスは50:50ですが、慣性モーメントは大きいです。
全面投影面積が少ないのは空力には有利ですが、冷却には不利。ラジエータを斜めに搭載するしかなく、開口部の少ないインテークはインタークーラーやオイルクーラーなども十分に冷やせません。
マイナーチェンジによりバンパー形状を変更、インテークを拡大するなどしていますが基本構造は変えようがありません。熱に弱い、という弱点は抱えたままです。
ここで疑問なのは2シーターとして慣性モーメントを減らすパッケージングはできなかったのだろうかと。つまりピュアスポーツとしてです。実はZ32で2シーターがあるように、スポーツカーで2シーターは特に問題となりません。FDでも2シーター仕様はありますが、2シーター専用設計ではなく単純にシートを取っ払って物置を作っただけのようです。
ここにきて、マツダの欲張り戦略がFD3S RX-7の立ち位置を微妙なものとしてしまいます。
ピュアスポーツで、ゼロ戦を参考にするほど軽量化にこだわっている一方、2 by 2としてしまったこと。そしてスペシャリティカーとして成立させるために流麗なデザインとしたが、それがかえってエンジン冷却を厳しくしてしまったこと。高級車としたかったため、過剰な装飾をおごりコストアップにつながったこと。
特に問題と感じるのは異常なほどの車高の低さ。1230mmは低い、低すぎです。一方で最低地上高は結構あり(135mm)、意外と腰高な印象。つまりその分キャビンが薄いわけですが。
車高が低いのは色々と問題がありますが、ヘッドライトをリトラクタブルにしなきゃいけなくなり、これもまたオーバーハングの重量物となります。
当時はNSX、R32 GT-R、Z32 フェアレディZに80スープラにSW MR2が出たという時代背景もあり、その中では特に問題にならなかったのかもしれません。それに社会的にはバブル景気でしたし。特に燃費はバブルの前では気にすることもなかったでしょう。ところがそれから20年近くが経つと、やはりその悲劇性が目立ってきます。
結局出来上がったものは男の孤高な一人乗り。燃費の悪さも、窮屈な室内も、薄っぺらく荷物が載らないハッチバックもすべては男らしさの象徴。一人なら2by2にする必要もなく、バッサリと2人乗り専用にすればよかったんでしょうけどね。
この欲張り路線はRX-8にも引き継がれてしまいました。
NA化した新ロータリー搭載のFRスポーツセダン、なんと4人乗り!
しかも誰も採用したことのない観音開きドア(両側)採用!
・・・
逆、全部方向逆だから!
バブルが崩壊してフォード傘下においてロータリーを存続させたものの、できたRX-8はラーメンでいえば全部入り。当たり前ですが車重は重くなりました。4人乗りのスポーツセダンというのはありかもしれませんが、観音開きドアはまったくもって余計。開口部が大きくなりボディ剛性は低下、これを食い止めるために補強を入れると重くなるという、またジレンマに。
MINI Clubmanで観音開きドア使っていますが、これ本当に横にスペースないとまったく開けられないんですよね。これなら普通の4ドアかリア・スライドドアがよかったんでは。というか、そもそも後席なんていらないよ!
ロータリーファンはロータリーエンジンが好きなんですね。ボディ形状や利便性といったところは二の次三の次。それだけにデザインをかっこよくして、利便性を高めようと欲張った結果のRX-8はかえって間口を狭めてしまった気がします。
いつの時代にも欲張りはいいことない、ということですね。
ロードスターをクローズド、3ドアハッチバック化してロータリーを搭載するとか、「ロータリーエンジン」だけをフィーチャーして残りはありものでなんとかするってないんでしょうか。ロードスタークーペ・ロータリー、軽量ハイパワーで悪くないと思うんですけど、どうでしょう。
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おかじ
RX-8はフォードの指令で4ドアになったんでふよ。
観音開きは重量を増やさず、かつ剛性をあげる為の手段であり、剛性に関してはFDより遥かに高いです。
さらに、後部座席下にガソリンタンクを配置し、前後左右で完璧な50:50を実現しており、絶対的なパワーはFDには負けますが、コーナリングはRX-8の方が上です。
欧州でも絶大な人気を誇ってます。
なにも分かってないのに語るのはやめましょう。
tnoma
>おかじさん
わざわざコメントありがとうございます。
不勉強で大変恐縮ですが、FD3Sを一時所有した経験からはそう思えてしまう、という私の個人的な意見です。日本には言論・表現の自由があるので、こういった意見もひとつの意見として受け入れてもらえれば幸いです。
悠
古い記事にコメントするのも変だと思いますが、マツダ乗りの一人として言わせていただきたいです。
当時、確かにマツダはFDを高級なラグジュアリースポーツカーとして販売していました。
FDはこの位置づけだからこそ6型まで来れたのです。もしポルシェみたく本物のスポーツカーとして作り上げたなら各自動車評論家や偏見を持つ方全てからバッシングを浴びる事になります。「ル•マンで総合優勝したにもかかわらずこのロータリーは遅い」などとね…
良いですか?FDはピュアスポーツカーです。
何よりFDはRX7なのです。SA22C、FC3SがありFD3Sがあるのです。
RX7がロータリー専用の車として作られています。なので、FDもロータリーエンジンを究極の形で使える車両として開発されています。
だから、4人乗りが基本形態なのです。
勿論スパルタンモデルとしての2人乗りはありますが、それは別としてあなたの記事は4人乗りモデルを批判していると思います。
内装が薄いのはロータリースポーツの伝統として見るべきです。
少し豪華なのは固過ぎないように且つ派手過ぎず、落ち着いた雰囲気を醸すためです。
ドライバーがシートに座った時、毎回飽きずにこれがロータリーだと思えるように、自分の車だと思えるように… FDに乗った時にそんな思い入れを感じませんか?
メーターが、シフトが、サイドが、パネルが、その全てがドライバーに向けられているのに気がつきませんか?
これがFDなんですよ?プアマンズポルシェでないマツダのピュアスポーツカーなんですよ?
さらに、RX8は全てが逆?観音開きはダメ?
本当に無知としか言えませんね…
あの観音開きは高度な技術を持って作られているんですよ。
ボディとリアドアの接合部、ボディは鉄でリアドアはアルミです。融点が高い鉄と低いアルミを接合するのは難しいです。
観音開きはロールスロイスにもありますが、鉄とアルミでは無く、鉄のみです。
それでいてピラーレスとしての剛性の無さを改善し、4ドアよりも高い剛性を出しています。
これのどこが逆なんですか?
これこそが世界に評価されている日本の技術です。
あなたの言うとおり確かにロータリーは熱に弱いです。 前面面積は小さいです。
しかし1992年にあれ程美しい車を日本が作れたのが凄いと思いませんか?
それに、きちんと車両を管理していればロータリーエンジンでも熱だれやオーバーヒートは無理をしない限り起きません。
起きたとしたら車両が悪いのでは無くあなたの管理がズサンなだけです。
ここを勘違いしている方がおおすぎるんですよ。
そして、ロードスターにロータリー?
この意見を言っている時点であなたが本当にFDに乗っていたのか疑問に思います。
FDの初速度遅いです。ローターは重く、最初からガンガン回せる訳ではありません。
一方でロードスターはレシプロエンジンの特性を活かしてFRとしてでも初速度はスムーズに動きます。このレスポンスの違いがロードスターにロータリーを載せない理由の一つです。
ロードスターは40kmでも楽しい低中速を得意とする。
ロータリーは速度では無く回転数を高く維持しパワーバンドを当てながら回して行く中高回転型、ロードスターにロータリーを載せたらコンセプトの人馬一体が無くなります。
ロードスターターボもありますが、あのターボはあくまでもBP、B6エンジンをアシストする位のターボをわざわざ使っています。
ロードスターはパワーで走る車では無いのです。あくまでも自己満足の世界で輝く車です。
あなたはロータリーだけでなくロードスターもキチンと勉強し、そして長く乗り続けてからこのような記事を書くべきです。
何も知らないで知ったような事を書かないで頂きたい。
マツダや、私たちのように心からロータリーやロードスターを愛している人に失礼です。
そして、このような記事を見て鵜呑みにする他の人にも同じ事を言いたい。
あなた達はマツダの車の何を知っているんですか?と…
tnoma
> 悠さん
長文のご指摘、ご意見ありがとうございます。私を含め、読者の方にも大変に参考になると思います。
ひとつだけ言うとすると、感情的になる余り言葉が過ぎていませんか。私だけではなく、読者の方に対してもあなたたちは何を知っているんだ、との言葉は、例えば面と向かって言えるのでしょうか。
一般的な社会生活において、言えない言葉、言いにくい言葉はネットであったとしても言うべきではないと思います。
私は文章を書いた責任において甘受せざるを得ませんが、面識のない一般読者に対しても、同じ厳しい言葉をかけるのはやめて頂きたいと思います。特にここは私のブログです。もしそういった言葉を使いたいのであれば、ご自身のブログなり、ツイッターなりソーシャルメディアで、ご自身の責任において発言していただければ幸いです。
西川善司
RX-7(6型GF-FD3S)を10年間乗り続け、エンジンも3基載せ替え、サスペンションも3セット変えて、サーキットもよく走っていた自分の立場からいわせていただくと、RX-7(FD3S)は良くも悪くもカルトな車です。
いわゆる弱点があることを理解してそこを愛でるタイプの車ですね。
決して万能性はありませんし、利点は「それが特徴」という言葉で片付けられてしまうので、むしろ欠点の方が目立ちます。だからカルト的な人気を誇るんでしょう。
あらゆる自動車に乗った経験のある野間さんの指摘はある意味、冷静かつ正論で、マツダは「なるほど」と受け入れないまでも(笑)、噛み締めるくらいの姿勢は必要でしょう。
まぁ、野間さんのことだから、「お前は分かってない」というファンからの反応を待ち望んでいたフシはありますがね(笑)
RX-7(FD)の一番の問題点は、経済的な理由もあって1991年のFD最初期型発売以来、大きなテコ入れができず、時代の要求に対応できなかったことでしょう。
1991年当時は、あのパワーとあの軽量性、総合性能がありながら、2+2レイアウトは、むしろ迷走というよりは、「いいとこ取り」として受け入れられていたのでした。
時代が進むにつれて、スポーツカーどころか、一般自動車に対する基礎快適性能に対する期待感が上向いてきますが、FDは、ほとんどそうした期待に応えられませんでした。
最終型でも、最上グレード約400万円の車でオートエアコンも、自動開閉ミラーもなかったので、2000年代の新規のお客さんを開拓するのは難しかったんでしょうね。
まぁ、あの頃、マツダがFDにテコ入れできる財政事情でも、スポーツカーマーケットが上向いてもいなかったので仕方ないんですが、冷徹に見れば、そうした事情からFDは進化を1990年代で止めた「旧きよき化石な車」だったんです。
ECUやABSのユニットがモデルライフ中に何度かアップグレードされたじゃないか…とも言われそうですが、あれは性能追求のグレードアップというよりは、旧来のシステムが必然的に世代交代しただけでした。そもそもFDの走行会系オーナーが挙動不審なABSをキャンセルしてしまっていたことからも分かるように、FDのハイテク装備は性能が低かったのでした。いわゆる自分の腕前を信じてABSをキャンセルするというよりは動作が怖いからキャンセルするという後ろ向きな動機でしたから。
ただ、生きた化石…シーラカンスが大事にされ、物珍しがられるように、今後も、FDは大事にされる名車にはなり続けることでしょう。それは間違いないでしょう。それは、伝説となるほどの魅力と、現在から見ればほほえましい欠点が各所にある、愛すべき存在だからです。
それと、海外での評価ですが、一部の海外のオーナーズクラブの熱狂的なファンからの支持を除き、FDは市場では90年代後半からは辛らつな批判を浴びています。
特に言われたのがまさに室内空間の狭さで、身長185cm以上の欧米人が乗り込むとルーフに頭が付いてしまうことが多く(彼らがヘルメットを装着すると絶望的)、シートの変更は必須でした。また、ステアリングポジションもチルトテレスコに対応していないことも叩かれました。
さらに言えば、操作ペダルが車体内側にオフセットしているため、ドライバビリティが良くない点も海外では指摘されています。
もともと、日本市場ローカルのためのマシンで、日本人のために設計されていたので仕方ないのですが、ただ、まさにこのブログの野間さんの指摘のようなことが言われていたのはたしかです。
結局、北米ではRX-7は日本よりもだいぶ早く、日本で言うところの3型で90年代にモデルライフを終了しています。4型以降はイギリス、オーストラリアなどの右ハンドル地域で継続販売はされましたが、セールスはあまり芳しくはありませんでした。
「生ける伝説」を大事にしていくのも重要ですし、旧車ライフとしては楽しいのですが、マツダには、21世紀のスポーツカーとしての提案をして欲しいと思っています。ロードスターにロータリー。いいと思いますよ。ロードスターロータリーが合わない? …そりゃあ、もうそれこそ固定イメージに毒されてます。ロードスターに合う特性のロータリーエンジンをがんばって作ればいいだけのこと(やらないだろうな、と思う…という点については同意しますけど(笑))。
自分は、10年連れ添ったRX-7から降り、今はR35 GT-Rに乗り変えました。
ただ、GT-Rのキーにはロータリーエンジンのローターのキーホルダーを付けてRX-7(FD)愛を極めています。
しかし、もう一度、FDに戻りたいか…というと答えは「NO」です。
新しいRX-7が出たら分かりませんが。ね。あるいは買い足しとか。
ちなみに、ボクはRX-7(FD)大好きっ子ですが、マツダは好きでも嫌いでもありません。中立。
長文失礼しました。