八王子夢美術館で開催されている「押井守と映像の魔術師たち」を見にいってきました。
展覧会 | 八王子市夢美術館特別展 押井守と映像の魔術師たち
会期 2010.07.16(金)-2010.09.05(日)概要
八王子市夢美術館では特別展「押井守と映像の魔術師たち」を開催します。
今日、アニメや実写映画の世界で日本を代表する監督の一人として知られる押井守監督。代表作『機動警察パトレイバー 劇場版』、『アヴァロン』、『イノセンス』、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』など常に独自の視点で革新的な映像表現を試みる姿勢はこれまで国内外から高い評価を得ています。押井作品の特徴は何といっても見る者を圧倒する作品の世界観にあります。細部や質感にもこだわる「大胆かつ繊細」な作品は、架空の世界でありながら、現実世界にも通じるイメージを持つ不思議な感覚を見る者に与え魅了します。
こうした創作の背景にはアニメ・実写・CGを融合する技術的な側面が深く関わっていますが、なによりも押井監督と現場スタッフ(=映像の魔術師たち)による世界観の共有がその中心にあるといえます。緻密な作画によるキャラクターの演技、美しい背景、メカニックデザイン、音楽など、この独特の世界観を形づくってきたスタッフは今や押井作品にとって欠くことのできない存在といえるでしょう。つまり押井作品は、監督と現場スタッフが長年にわたり培ってきた世界に他ならないのです。
この展覧会の企画にあたり、押井監督は自らテーマを「造形を中心に展示したい。展示されたモノ自体が語ってくれる…」と示しました。これは監督が作品づくりにおいて現実のモノをイメージの出発点にしている故のテーマといえます。
本展覧会では押井監督のこのテーマに沿いながら、これまで数多くの作品の制作に使われた小物やプロモーション等で制作された造形物に加え、監督自筆の絵コンテ、現場スタッフたちの設定画、原画などを一堂に集めて展示します。それらから見えてくる細部への「こだわり」や作品イメージの出発点となったモノなどに触れながら、押井作品の創作の背景に迫り、それぞれの作品の根底に流れる世界観に焦点を当て紹介します。
夏といえば安彦良和展、大河原邦男展と毎年ツボな特別展を開催する夢美術館ですが、今回は押井守です。
「大河原邦男のメカデザイン ガンダム、ボトムズ、ダグラム」が素晴らしかった! ([の] のまのしわざ)展示は大河原さんの「メカデザイナー」としての半生を追うもの。ただ単純に時代順、作品を羅列するのではなく、作品の意味や位置づけを解釈し、整理しなおして展示されていたので物凄くよくわかるんです。
安彦良和原画展に行ってきた ([の] のまのしわざ)今回見て再度思ったのは、この方も人間の骨格を意識しながら、その上に筋肉、皮膚、衣服を着せて3次元の物体を2次元に投射するように描いているという点です。ですから人物の衣服のシワや筋肉の張り出し具合が写実的。しかもその手法をガンダムやザクといったロボットにも適用しているがゆえに、本来ひずむはずのない装甲を曲げてでも躍動感あふれるアクションを採っています。これなんかまさにそう。代表的なシーンではグフとガンダムの対決の際に、肩を落としてゼエゼエいいながら対峙しているかのような間合いがあります。ロボットなのに肩を落とすなんてこと、本当はないんですけどね。しかしそのちょっとした仕草がリアリティを増しているのもまた事実です。
展示はイノセンスから攻殻機動隊、パトレイバー、スカイ・クロラなどアニメーションを中心に、実写であるアヴァロン、立ち食い師列伝、アサルト・ガールズなど。またガルム戦記のイメージを実現するために作られた数々の造形物がズラリと並んでいました。
線画の設定資料集だけで何時間も費やせる私にとって、この展示は垂涎もの。しかし子供連れだったために僅かな時間しか過ごせなかったのが残念です。まあ設定資料は図録に収録されているので、図録をゲット、こちらで堪能したいと思います。
最初行くのを嫌がっていた子供ですが、数々の造形物には興味津津。特に押井守のアイコンともいうべき犬がお気に入りでした。
毎回美術館に子供を連れていくことに関して、邪魔だとか、うるさいとか、分からないのに無駄だと否定的な意見が多いのですが、私は逆だと思っています。子供の感受性は大人と変わらない、特にアート的なものは既成概念が強く感受性が鈍くなっている大人よりも、子供の方が自由奔放で鋭敏であるから積極的に見せるべきだと。
美術館が静寂に包まれていなければいけないというのは、世界的にみてどうでしょう。私が知る限り海外の美術館、博物館はもっと来場者の会話があり、意見や議論をしあいながら見るところだし、そもそもツアーが組まれてゾロゾロと団体を連れた司書が大声で説明をしたりしていて静寂とは真反対です。その説明を横からきいて、フムフムと納得することも多かったり。
確かに展示物と自分と1対1での対話をしたいというときはうるさく、邪魔かもしれませんけどそれは何度もきて、人が少ない時間に堪能しているようです。
そんなわけで子供ももう毎年きていて、来るたびに成長。今回はとても大人っぽく観賞できてました。これならもう日本の美術館でも安心です。
さて押井守と映像の魔術師たち展ですが、まさに魔術師。アニメという何も存在しない、それこそ白い紙一枚に構成する実在世界。そのひとつひとつを監督をはじめキャラクターデザイン、美術など手を使うことだけで紡ぎだすのがまさに魔術的。
実写も手掛けていますが、CGを通すことでアニメ同様、現実ではない実在世界を新しく作り出すという点では共通した手法です。アヴァロンは今でも通用するテーマで個人的にお気に入りの映画ですが、その系統のアサルト・ガールズは未見なのでぜひ次回みたいと思います。
さらに昨年は舞台もてがけています。
梅田芸術劇場太平洋戦争の末期、大日本帝国陸軍の決戦兵器として開発された巨大ロボット「鉄人」。 その試製28号が戦後民主主義の守護神として蘇った。 そう、ビューンと空を飛び、正義も悪もリモコン次第の巨人「鉄人28号」だ。 2008年、東京湾岸の埋立地――聞こえるのは、吹き抜ける風か、野犬の遠吠えか。 一人の盲目の老人が遠い日の思い出を歌い上げる…。 時は移り、1964年。戦後の終焉を告げる国家イヴェント――東京オリンピック前夜。 首都には野犬狩りの嵐が吹き荒れていた。警察署長の大塚は、戦後的なるものの一掃に狂奔。 それを支持する敷島博士と、戦後的価値として純粋培養された美少年・金田正太郎は、テロリスト集団「人狼党」がたくらむ、東京オリンピック阻止計画に巻き込まれる。 正太郎、敷島博士、そして人狼党の首魁・犬走一直との怪しい思想的三角関係。 果たして、テロリストの仕掛けた阻止計画とは…。正義と悪の狭間で今、鉄人が飛び立つ。
まったく知らなかったのですが、何この面白そうな押井ワールドは!!
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舞台「鉄人28号」 [DVD]
9月15日発売予定なので、これは要チェックです。
さて展示のキャプションで面白かったもの。それは押井守のエピソード。
攻殻だかイノセンスで犬が出てくるシーンのセル画が展示されているのですが、この犬の登場シーンのセル画(だけ)は、
「押井守監督自らが自宅で保管している」
とのこと。それってカリパク?いや職権乱用?どちらにしても犬、本当に愛しているんですね。
そしてアヴァロンの射撃音の録音時のこと。リアルな射撃音を録音しようとマイクの側で実際に実弾を発射するのですが、この射手を押井守監督自身が担当。
音響監督が「絶対にマイクは壊さないでくださいね!!!!!」と念を押すなか、
「見事1発で撃ち抜いた」
とのことで、その撃ち抜かれて破壊されたソニー製マイクが展示されていました。これはひどいw
と随所でニヤリとさせる展示があり、押井守ファンは必見ですね。未見の方はぜひ八王子までどうぞ!
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アヴァロン [Blu-ray]