レクサス暴走事故:暴走するとブレーキは効かない。Nレンジにも入らないかも。

レクサス暴走事故の対応にみる、トヨタの闇の深さと暗さ ([の] のまのしわざ)」の続報で、トヨタがようやく重い腰を上げたようです。

米マット問題でトヨタ 車両本体改修も(産経新聞) - Yahoo!ニュース

約380万台を対象に改修に踏み切った場合、数百億円の費用が掛かる見通し。ペダルの形状を変える改修のほか、暴走などの緊急時に確実に停車させるための制御システムの変更などが検討課題になっているとみられる。トヨタは米道路交通安全局(NHTSA)と対応策を協議中で「車両本体に欠陥はない」との立場。改修に踏み切るとしても欠陥は認めず、自主的な措置として実施する方向で協議している。

暴走の防止策だけでなく、暴走した時のハード側対応がようやく検討されるようです。

マットを取りはずせば、マットにアクセルペダルがつっかかって(スタックして)、アクセル全開になり暴走することはありません。しかし暴走の原因はマットだけではありません。暴走したときのフェールセーフがあるべきでしょうし、ドライバーとしては対処方法を知っておきたいです。

まずAT車の暴走事故ですがレクサスに限らず、また原因は原因不明を含めて発生しています。

REPORT: Judge orders Toyota not to not destroy car crash information ― Autoblog

Reports state that people have tried turning off the car, putting the transmission into neutral and/or even park and trying to get off the highway and still took some several miles before finally being able to stop the car. Some customers have stated that they did not have a floormat at the time of the incident in the driver's footwell.

訳)

報告書いわく、車を止めようとしてNレンジ、またはPレンジにシフトを操作、高速道路を降りて最終的に止まるまでに数マイルもかかった。またあるカスタマーはフロアマットを使っていなかったにも関わらず、(暴走)事件にあったと述べている。

つまりフロアマットだけが原因ではなさそうです。

次はホンダ・アコード V6 2002年モデルでの事故例。

Toyota "Recall" Will End Up Being a Positive For Brand - BusinessWeek

In early July I also had an unintentional acceleration event occur while driving my 2002 Honda Accord, 6 cylinder car, on a major highway in NJ. As I entered the highway and accelerated, I felt the engine gun artificially and thought perhaps my cruise control was engaged, but it wasn't, and I haven't used the CC since I purchased the vehicle, I never use it. Immediately I realized I was traveling at 55MPH and could not slow the car down in spite of what I intuitively tried to do...ease off gas, hit the brakes (with both feet!), use the hand brake (lots of smoke, no slowing of the car), put transmission into first gear (still 55 mph, just like nothing happened)...nothing worked. Now I realized that I was probably going to die. I saw a traffic light with many cars sitting in the road not far ahead. The last thing I wanted to do was to take someone else out with me! I maneuvered onto the shoulder, still barreling down the road at 55MPH and realized that if I put the car into park or reverse, the car would have to stop. I slammed the auto-transmission into park and pulled up again on the hand brake and the car finally stopped just short of the traffic at the light. All of this took place within 2 minutes.

要点だけ訳) (中略)

購入してから一度としてCC(クルーズコントロール)を利用したことがないにも関わらず、勝手にCCが作動して突然加速をはじめてしまった。55MPH(約90km/h)で走行していて、すぐに気づいてすぐさま両足を使って思いっきりブレーキを踏んだが効かず、サイドブレーキを使ったが煙がでただけでスピードダウンせず、ローギアにシフトを変更したが55mphだったので(当然だが)何もおきず。何をやっても無駄だった。

(中略)

PレンジやRレンジに入れることを思いつき、Pレンジに入れて思いっきりサイドブレーキをひきあげてなんとかぶつからずに止めることができた。この間約2分。

この事件はアメリカ車のほとんどに標準装備されているクルーズ・コントロールが勝手に動作して加速を続けたケースです。アクセル全開までいかなかったと思われるので、Pレンジに入れることで難を逃れました。

この車種ではたまたまPレンジに入って駆動力をカットできたわけですが、高速走行している場合にNレンジやPレンジに入れるとトランスミッションが壊れます。

Is it ok to put an automatic transmission in neutral while going downhill? - Yahoo! Answers

modern transmissions have only a front pump. when it,s in neutral the lubricating oil is only circulated via what is "splashed". It is best to leave the transmission in drive when desending a hill.

訳)

昨今のトランスミッションはフロントポンプ(?)しか装備してないため、Nレンジに入れるとオイル(ATフルード)がいきわたりません。トランスミッションはDレンジにいれたまま、坂を下るべきです。

質問は燃費走行をするため、下り坂でNレンジに入れていいかという質問だったのですが、Nレンジに入れるとトランスミッションが壊れる恐れが指摘されています。AT車を牽引するとトランスミッションが壊れるのと同じ理由です。

「AT車の牽引について」

AT車を牽引しようとしたら、「トランスミッションを壊してしまうからダメだ」と言われました。本当なのですか? 理由を教えてください。(SYさん)

A お答えします。AT(オートマチックトランスミッション)は、エンジンが停止しているとトランスミッション用のフルードポンプが働かないため、AT内部にオイルを送れなくなります。ギアの潤滑ができなくなるのです。したがって、エンジンがかかっていない停車中のAT車は、牽引してはいけないと言われるのです。

またもう一つ、見逃せないポイントがあります。それはブレーキブースターの負圧の問題。

【国際】「アクセルが動かない!」 トヨタ車が190キロで暴走、一家四人死亡のリコール問題で事故の交信記録を報道-米テレビ★13/ニュース速報+板

15 :名無しさん@十周年[sage] 投稿日:2009-10-03 16:32:37 ID:TMc4vICW0
431 名前:名無しさん@十周年[sage] 投稿日:2009/10/01(木) 16:27:12 ID:dRw0+AS60
ちょっと試しに乗ってきた。車は先代B4の6亀頭のAT
アクセル全開状態からブレーキ → 少しずつだが減速するが、踏みなおすとペダルが重くなる
→ 2回ほど踏みなおすと、殆どブレーキが利かなくなった → 全力で踏んでるのに加速していく
Dでアクセル全開からNへ → なんか制御があるのか3秒後ぐらいにNへ入ってレブまで吹け上がった
→ もちろん空走 (ごく僅かだが減速) → レブ当てながらブレーキ踏んだ → やっぱり止まらないで走っていく
ここでテスト終了
アクセル全開だと負圧がかからないので、ブレーキブースターは機能しない
最初の一踏みだけが負圧が残ってるので普通に効く
もし焦ってポンピングブレーキしたら、負圧を使い切って人力で油圧を掛ける事になる
60km/h 程度だったけど、B4の1.5トンの車体は全然止まらなかった
もしECUが暴走して電子スロットル全開になったら簡単には止まれないだろうな

PやNレンジに運良く入ったとしても、アクセルが開いて負圧ができないとブレーキブースターは効きません。すると重い現代の車を人間の足の力だけで止めることになるので、先ほどの例でもあったように、

報告書いわく、車を止めようとしてNレンジ、またはPレンジにシフトを操作、高速道路を降りて最終的に止まるまでに数マイルもかかった。

と止めるのにかなり大変なわけです。

以上の前提を頭に入れた上で、暴走した際の対処方法をみると合点がいきます。



Toyota recalling 3.8M vehicles over floormats, its largest ever in U.S. ― Autoblog

If this occurs, Toyota recommends the driver take the following actions:

First, if it is possible and safe to do so, pull back the floor mat and dislodge it from the accelerator pedal; then pull over and stop the vehicle.

If the floor mat cannot be dislodged, then firmly and steadily step on the brake pedal with both feet. Do NOT pump the brake pedal repeatedly as this will increase the effort required to slow the vehicle.

Shift the transmission gear selector to the Neutral (N) position and use the brakes to make a controlled stop at the side of the road and turn off the engine.
If unable to put the vehicle in Neutral, turn the engine OFF, or to ACC. This will not cause loss of steering or braking control, but the power assist to these systems will be lost.

-If the vehicle is equipped with an Engine Start/Stop button, firmly and steadily push the button for at least three seconds to turn off the engine. Do NOT tap the Engine Start/Stop button.

-If the vehicle is equipped with a conventional key-ignition, turn the ignition key to the ACC position to turn off the engine. Do NOT remove the key from the ignition as this will lock the steering wheel.


訳)

toyotaが推奨する、暴走時の対応方法。

まずフロアマットを外して、ペダルを戻すこと。

フロアマットが外せない場合、両足で思いっきりブレーキを踏むこと。何度もポンポンブレーキを踏まないこと。そうするともっと車を止めるにはもっと努力しなければならなくなる。

シフトをNレンジにいれ、ブレーキを使って路肩にとめ、エンジンを切ること。

もしもNレンジに入れられない場合、エンジンをOFFかACCにする。この場合ステアリングとブレーキは使えるが、アシストがなくなる(重くなる)。

Engine Start/Stopボタンを装備した自動車の場合、ボタンを3秒以上力強く長押ししてエンジンと止める。ちょんちょんとボタンを押してはいけない。

通常のエンジンキーを装備した車の場合、ACCへキーをまわしエンジンを停止させる。キーを抜くとハンドルロックがかかってしまうので絶対に抜いてはならない。

まずブレーキブースターが効かないことは、レガシィの実験と同じですね。

そしてここで重要なのはこの操作方法で

Nレンジに入れられない場合がある

ということ。

さきほど走行中にNレンジやPレンジに入れた場合、トランスミッションが壊れるおそれを指摘しましたが、おそらくトランスミッションを保護するために走行速度から判定しNレンジに入らないように制御されているのではないでしょうか。

追記)続報⇒レクサス暴走事故:Nレンジにしても止まらなかったとの証言 ([の] のまのしわざ)

いわゆるフールプルーフ(fool proof)です。

フールプルーフとは 【fool proof】 - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典

フールプルーフとは、工業製品や生産設備、ソフトウェアなどで、利用者が誤った操作をしても危険に晒されることがないよう、設計の段階で安全対策を施しておくこと。正しい向きにしか入らない電池ボックス、ドアを閉めなければ加熱できない電子レンジ、ギアがパーキングに入っていないとエンジンが始動しない自動車、などがフールプルーフな設計の例である。

つまり先ほどの坂道の例のように、下り坂でわざと(または間違えて)DレンジからNレンジにいれて走行し、トランスミッションを過熱させて破壊してしまう愚か者がいます。さらにクレーマーとなってディーラーに駆け込んで、「壊れたぞ、直せ」ということが想定されます。

そういったことがおきないよう、高速で走行中Nレンジにシフトを操作しても、実際にはニュートラルに入らないよう制御をしているのではないでしょうか。

小林昭人の徒然ブログ - Yahoo!ジオシティーズ

あと、できることはといえば、シフトレバーをニュートラルに放り込んで、それからブレーキを掛けることだが、新型プリウス同様の「シフト・バイ・ワイヤー」を搭載したこのモデルの場合、変速機とシフトは機械的に繋がっておらず、全てジョイスティックの電気信号なので、この方法を採ることもできず(シフトしても一定速度以上では後退やニュートラルに入らない仕組みかもしれない)

この設計思想はフールプルーフの観点からは十分理にかなっていますし、これだけをもってどうというのはありません。しかし、今回のレクサス暴走事故のような状況下で、トランスミッションを保護している場合じゃないと思うのです。

ですから、ES350がなんらかの制御により(高速)走行中Nレンジに入らないようにしていると仮定すると、

・190km/hで暴走(おそらく速度リミッターまで272馬力で加速、エンジン回転数はレブリミッターでホールド)

・アクセル全開のためブレーキブースターは効かない

・シフトを操作しても速度が出ているためにギアも落ちず、N/Pにも入らない

そして最後の頼みの綱はエンジンを切ることですが、Start/Stopボタンを3秒長押し。これだけしかありません。普通の人が普通の道路で190km/hでるのにも緊張するのに、さらにブレーキは効かずでパニックにならないはずがなく、そこで3秒は長すぎです。

asahi.com(朝日新聞社):レクサス時速190キロ「アクセルが…」 通報直後衝突 - 愛車

最近の自動車では、アクセルが戻らない非常時の対処法が、わかりにくくなっているとの指摘もある。高級車を中心に普及してきたボタンでエンジンを始動・停止させる車では、走っている最中にエンジンを止めるには、ボタンを3秒以上押し続ける特殊な操作が必要だ。キーを回せばよかった従来の車に比べると、事前に知らなければ実行しにくい。この点が問題だという。

レースの世界やバイクでは「キルスイッチ」がついていて、瞬時にエンジンを止めることができます。そのようなエマージェンシー用のスイッチが必要でしょうし、そもそもニュートラルに入れられないこと自体、人命救助の観点からいうと欠陥設計といえるでしょう。トランスミッションを守っている場合じゃないんです。

トヨタ・レクサスがNTHSAに構造的検討を迫られているのは、たとえばVWやBMWなど他のメーカーがフェイルセーフ機構を組み入れているからです。VWやBMWではアクセルを踏んでいるときにブレーキを踏まれると、自動的にエンジンがストールする(スロットルがオフになるか、燃料噴射をカットする)ようです。

これまではNレンジにいれてブレーキ踏めばとまるじゃない、と思っていたのですが調べてみて

・ブレーキブースターが作動しないため、ブレーキはほとんど効かない

・Nレンジには(おそらく)入らなかった=駆動力がカットできないため加速しつづける

ことが分かってきました。

追記)続報⇒レクサス暴走事故:Nレンジにしても止まらなかったとの証言 ([の] のまのしわざ)

メーカーはそういった制御をしている、どんな条件でそうなるか当然わかっているはずなのですが、この点についてはまったく触れられていません。はやく真実を明らかにして欲しいものです。

ドライバーとしては、どのメーカーの車にしても、エンジンを停止する方法だけは知っておいた方がよいでしょう。

【関連エントリー】

レクサス暴走事故の対応にみる、トヨタの闇の深さと暗さ ([の] のまのしわざ)