映画「サマーウォーズ」は何故「夏の戦争」なのだろう


いいですか?


いいですね?


細田守監督といえばアニメ版「時をかける少女」やデジモンアドベンチャーで高い評価を得た監督。ところが私はお恥ずかながらどの作品もみておらず、正直今回もいしたにさんに誘われなければ見に行かなかった可能性が高いです。誘ってくれてありがとうございます!

細田守 - Wikipedia

TVも見なければ、ネットも見ない(?)私なのでこの「サマーウォーズ」、前情報まったくナシ、皆無といっていいでしょう。かろうじてあったのは15秒程度のトレーラーくらいで、設定からあらすじまでまったく知りませんでした。

そんな状態で映画を見始めたわけですが、いやあ、もうこれはキツい。約2時間の上映時間のうち、約1時間位は

目から汗がでまくり

キツいというのはいい意味で、もうハートにガンガンくるわけですよ。そんなに涙もろい方ではないので映画などをみて泣くことは、子供ができて子供絡みの演出で泣けてくる位(ガンダムでいえばミハルの回とか)なのですが、いやはや人生で最長の泣き時間でした。

篠原夏希につれられて健二が来たのは陣内家、武家の血筋を受け継ぐ旧家。 陣内家16代当主、夏希の曾祖母である陣内栄の誕生会で一族郎党が集まる。 (あらすじ。公式HPより)

一部では「大家族の物語」みたいなことが言われていますがそれは大きな誤解といっていいでしょう。誕生会という大イベントのために、散り散りになっていた一族がイベントのために一同に介しただけです。一年に一度会うというのは盆か正月か。たとえ核家族化が進んだとしてもGWや正月の帰省ラッシュをみればこれが日本のおいて未だポピュラーな風習といっていいでしょう。

その上でこの曾祖母、栄、齢90歳がとにかくすばらしい。他の登場人物なんて、ほんと、霞んでしまいます。そしてもう一つのポイントは、この栄が昨年亡くなった妻の祖母とオーバーラップすること。

妻の祖母ですので血のつながりはまったくないのですが、ここ数年毎週末のように昼食を一緒にし、たまに会話をする程度の交流だったのですが、人生95年の厚みでいつも圧倒されていました。

八王子の酒屋に嫁ぎ何不自由なく暮らせるはずだったのが、戦争で夫は兵隊にとられ戦死。八王子空襲で家財はすべて焼け、登記簿もなくなったため混乱の中、土地もずいぶんと横取りされたそうです。

そんな戦後の混乱期、酒問屋を一人で立ち上げ、男社会を相手に張り合ったバリバリのキャリアウーマン。生涯現役で、亡くなる直前まで会社に出社し、報告を受け、適宜アドバイスをするほど。

そんな義祖母と栄の姿は重なります。

健二を恋人(婚約者)として認めるまでの数秒間、健二を睨みつけますが、この眼光の鋭さ。人生十数年やそこらしか生きてない未熟者と90年間、しかも精鋭としてのキャリアとでは雲泥の差。アニメの絵ではそこまで出きらないのは厳しいところですが、とにかくあの数秒で栄はすべてを見通して、その上で話を合わせた、さらに期待したのでしょう。

と思ってからはもう涙腺爆発です。

映画といえば、いつもはトイレが近いため膀胱爆発寸前なのですが、今回はもう栄が何かするたびに感情移入しちゃって涙腺爆発。落ち着いたと思ったらまたこれだ、みたいな感じで泣きっぱなし。

私にとっての「サマーウォーズ」はこの曾祖母、陣内栄につきます。

実は見終わって、一番違和感があったのがこのタイトル「サマーウォーズ」。内容とタイトルに強い関連性がないように思えた、後付感、適当感が強いというか。なんでも良かったんじゃないかと。

一方で「人が死ぬかもしれない、これは戦争よ」といった栄の言葉。

結果的にこの混乱で死んだ人は、栄本人を除いていないことになっており、戦争という言葉の響きからは遠く聞こえます。ただそれ自身が、我々現代を生きる日本人が戦争オンチになっている証左とも言えます。

戦争とは結果として人命が損なわれます。目的は人命を損ねることではありません。

アメリカでは自国民の、将来を含めての人命を保護するために、積極的に軍事力を展開してきました。自国民、国内での戦争犠牲者といえば911事件が最初。これを最後にするために、国連の支持がなくとも軍事介入を続けるのです。

今回の事件も結果的に死人は出ていませんし、20世紀の国対国といった戦争様式にはのっとっていません。戦争様式は時代によって変化し、21世紀の戦争でも国対国の総力戦といった図式はなく、テロリズムとの戦い、悪の枢軸との外交戦と新しい図式となっています。

実はこの戦争様式の変化に一番敏感だったのは、この陣内家16代当主である栄だったというのは皮肉な限りです。しかしそれは戦国時代から続く「武家」の家系であり、時代の変化における戦争様式の変化に臨機応変に対応してきた文化をもつのがその理由かも知れません。

その意味でまったく戦争体験をもたない孫たち、つまり私たち世代へ警鐘を鳴らしているのです。

「今は戦争状態だ」と。

もう一つ象徴的なのが、今回の騒動のAIつきワームを開発した「侘助」と、一方で国防をつかさどる自衛隊に所属する「理一」です。

どちらも41歳。

さらにいえば、細田守監督も41歳。

さらに付け加えると、私も41歳、まあこれはどうでもいいですけど。

国を脅かしたモノと、国を守るモノが同族にいて、どちらも同じ年齢。直接的な戦争体験を持たない世代が、極端に振れた格好の例です。

日本の場合、太平洋戦争が最後の戦争体験となっており、しかもその印象が強烈なもののため戦争へのイメージが画一的で、絶対的な存在となってしまいました。

対するUnited Statesの場合、だいたい10年ごとに戦争をしているので「どの戦争?」と指定しないことには戦争について語ることができません。第二次世界大戦で日本と戦ったことや、原子力爆弾を使用したのは歴史上のことで、若い世代にその記憶や記録が引き継がれてません。そもそもその事実すら知らないのです。まるで5インチフロッピーディスクを若い世代に見せても、それが何か分からないかのように。

8月はおりしも日本における、最後にして絶対的な戦争体験である原爆投下と終戦(敗戦)記念日がセットである季節。この話が一族が集まるという設定だけでいえば、GWでも、正月でも、3月のお彼岸でもよかったはずなのに、8月なのはわざと選んだのでしょう。

「サマーウォーズ」が戦争を想起するように。

そして「今は戦争状態だ」と警鐘を鳴らすように。

今年4月には北朝鮮の弾道ミサイルが上空と飛び、日本、アメリカ、韓国が迎撃態勢を敷きました。この状況下において、「日本は平和だね」というのも面白い話です。これが平和であれば、平和というのは戦争状態において成り立つものといってもいいからです。

人が死ななければ、それは戦争ではない。

というのなら、人が死んでからでは遅いのではないでしょうか。

今月末には衆議院解散にともなう総選挙が行われますが、政権がどうなるか微妙のこの時期に、戦争をテーマにしたこの映画というのも、タイミングがよいです。

その意味で、夏に公開し、戦争をテーマに選んだ「サマーウォーズ」は色々な意味で戦略的だと思いました。つまり細田監督スゲーってことです。

まあ海外展開を考え、「スターウォーズ」を意識したのかも知れませんけど。よく考えるとスターウォーズもずいぶんとファミリーな話ですからね。

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