キャンドルナイトと温暖化防止のトリック

ちょっと経ってしまいましたが、どうしても違和感が拭えなかったキャンドルナイト。なぜこれで温暖化防止になるのか当時サッパリ理解できず、色々と考えてしまいました。その後調べてみたところ、なんとなくからくりが見えてきました。まず

キャンドルナイトそのものには温暖化防止のメッセージは一切含まれない!

伝聞だといかにも温暖化防止のために電気消そう、というロジックのように思えたのですが、100万人のキャンドルナイトのホームページを見る限りそんなことはどこにも書いてありません。メッセージは

・でんきを消して、スローな夜を。


みんなでいっせいにでんきを消しましょう。
ロウソクのひかりで子どもに絵本を読んであげるのもいいでしょう。
しずかに恋人と食事をするのもいいでしょう。
ある人は省エネを、ある人は平和を、
ある人は世界のいろいろな場所で生きる人びとのことを思いながら。

ただ2時間、でんきを消すことで、
ゆるやかにつながって「くらやみのウェーブ」を
地球上にひろげていきませんか。

・なにをするかは自分次第
・ゆるやかにつながる「からっぽの時間」

といったところ。一言でいうと、でんきを消して夜を過ごすという、現代人にとっては非日常を、元々はとても自然なことを、楽しみましょうというイベントです。

ところがこれにかこつけて、意図的に温暖化防止と結託させたところがあります。

それはなんと環境省

環境省 報道発表資料-平成19年6月21日-「CO2削減/ライトダウンキャンペーン」について(第2報)

国民に対し広く温暖化防止の“気づき”を与える「CO2削減/ライトダウンキャンペーン」を、本年も6月22日(金)から24日(日)までの間実施します。特に、6月24日(日)20時から22時の間を、「ブラックイルミネーション2007」と題し、ライトアップ施設や各家庭の電気を一斉に消すことを広く呼びかけいます。なお、本キャンペーンへの参加施設数は、温暖化防止の関心の高まりから年々増加しており、今年は、昨年の約1.6倍の62,613施設が参加します。なお、このライトダウンによる削減消費電力は2,913,677kWh(参加施設の申告数値)で、CO2削減量は1,136.3[t-CO2](208世帯分の年間CO2排出量に相当)と推計しております。

また、本年も引き続き、NPOが提唱している「100万人のキャンドルナイト」と連携して6月22日(金・夏至の日)~24日(日)の間、ライトダウンキャンペーン」を実施しています。

さて、ここで何が問題かというと、環境省の言っている、

CO2削減量は1,136.3[t-CO2](208世帯分の年間CO2排出量に相当)と推計しております。

は数値だけで、実際にはほとんどCO2が削減されてないことです。一言でいうと、偽り。

なぜこれが偽りかというと、電力がどのように供給されているかをよく考える必要があります。

停電ってよくしますか? 日本の場合はあまりしませんよね。それはつねに需要を上回る十分な供給を行っているからです。発電した電力は貯めておけません。即座に使わない限りは無駄になります。各電力会社では、電力需要を上回る供給量を常に保証すべく努力しています。そのため常に電力供給は100%以上を保っているのです。

例えキャンドルナイトで電気を消し、僅かに電力需要が下がったとしても、それに合わせて電力供給量を即座に下げることはないです。なぜならその後需要が再び増大し、万が一供給量が100%を切ることにでもなったら、停電してしまうからです。

さらにいえば発電というのは小型発電機のようにエンジンをかけてたり、切ったりできるほど簡単ではありません。起動するのに時間がかかり、出力が安定するのにも時間がかかる。一旦停止すれば再起動までまた時間がかかる。小回りがまったく効かないのが大型の発電プラントの特徴です。安定した電力供給が最優先事項なので、実はCO2排出削減にはほとんど効果がないことが分かります。

ではCO2排出削減に効果的な方法は一体どんなことでしょうか。それは4年前のある事件が非常に参考になります。

4年前、東京電力では不祥事により原子力発電所の一斉点検を余儀なくされ、数ヶ月間は原子力発電ができない事態に陥りました。この際に出た「夏の節電への取り組み[pdf]」が、実際的に電力を使わない効果のある方法です。

夏期の電力需要の特徴をご説明した資料を活用し、ピークカットにつながる節電をご要請

もっとも注目しなければいけない単語が「ピークカット」。発電状況を考えると、ピークカットこそが重要なのです。

最大需要=ピークをカットすれば、供給の容量を下げることができます。原子力発電を主とし、火力発電で補うような運用であれば火力によるCO2排出を削減することも可能です。ですから東京電力の節電のお願いに、

「夜電気を消して、ろうそくを灯しましょう」

なんて意味のないことを書いてないのは当然のことです。

ではなぜこんなミスリーディングが起きるのでしょうか。

それはおそらく省庁の壁ではないかと推測します。東京電力など、エネルギーを管轄するのは経済産業省の資源エネルギー庁。エネルギーの安定供給を目的としたところです。一方、ろうそく灯すといかにもCO2削減できるかのように言ったのは環境省。環境省はおそらく、実際的に効果がある、なしに関わらず、推定でCO2削減量がいくら、と計算できればよかったのでしょう。そのため、100万人のキャンドルナイトを利用したのです。なんたることか。

実際に削減できるのはCO2じゃなくて、あなたの家の電気代だけなのです。

まあ、それはそれでオトクですけどw