下流社会と車社会

最近読んだ本の中でもっともインパクトがあったのが「下流社会」です。街を歩いたり、何かを考えるたびにこの「下流社会」で指摘した傾向をまざまざと認識させられます。

下流社会 新たな階層集団の出現
三浦 展

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1955年体制とレクサス

自民党が誕生したのが1955年のこと。それを「55年体制」と呼んでいますが、今年は2005年で50周年を迎えました。そして奇しくもトヨタクラウンが誕生したのが1955年、そしてLEXUSブランドを国内投入したのが2005年の出来事でした。これは本当に偶然なのでしょうか?

実はこれはたまたまではなく、必然のことだったのです。55年体制は高度成長期を向かえ、国民全体の所得向上(所得倍増計画)や日本全土の工業化、都市化の促進(日本列島改造計画)を推進することになります。一方トヨタクラウンは有名な「いつかはクラウン」のキャッチコピーの通り、年功序列社会により収入が安定的に増加する社会を反映してのヒエラルキーの頂点にたつ車という意味です。この両者の共通点は国民の多くがサラリーマン化し、年功序列と高度成長により年々所得が増えることです。この社会体制であればサラリーマンは毎日満員電車で揺られスポーツ新聞と大衆紙と夕刊紙を読み、タバコをふかしてパチンコと賭けマージャンと赤提灯で日頃の憂さを晴らし、大相撲と野球をビール片手にTVで観戦していればいつかはクラウンに乗れるくらいになれたわけです。

しかし時代は2005年。年功序列は(トヨタ以外では)崩壊を向かえ、成果主義の導入や即戦力を求める求人体制に移行しています。今までのように漫然とサラリーマンをやっているといつかはクラウンどころか、今の年収さえおぼつかないものとなるのです。そして税金はますます上がり、一方で治安は悪くなっていく。そんな社会で売れている車は「ビッツ」「フィット」に代表される小型車、そしてミニバンと呼ばれる安い5ドア7シーターです。

最近の売れすじ車種を見ると、明らかに低価格車が上位を占めています。これは売り上げを圧縮し、車ディーラーを圧迫していることでしょう。普通のセダンから小型車に乗り換えるケースも多く、今までは200万円クラスの2Lセダンに乗っていた家族が、100万円前後の小型車にしてしまいます。確かに最近の小型車は中も広く快適で、まさに昔のクラウン並といってもいいでしょう。しかし所詮は小型車であり、それ以上でもそれ以下でもありません。そのためこういったシフトを「下流化」といっても過言ではありません。

一旦下流化してしまうと上の階層には上がるのは難しいです。なぜならば車は「下取り」というのがあり、小型車は価格が安いため下取りの絶対額が少ないからです。一度マツダ車に乗ると、マツダ車にしか乗れないというジンクスが生まれるのもこの下取り価格が安くなってしまうためです。マツダでしか高価格な下取りをして貰えないため、マツダを買うしか選択肢はありません。

ではLEXUSはどうか。LEXUSは「いつかはクラウン」といった階層を登っていくことを前提としていません。いや、ありえません。社会がこのように下流化している現状、そういったユーザー層を狙っても無駄だからです。LEXUSは上流階層の高級車マーケットのみに照準を合わせ、狙い撃ちする作戦なのです。そのため、私のようなユーザーはまったくもって範疇の外だということがよく理解できました。いわゆる「ポテンシャルユーザー」という言い方をしますが、これは「いつかはクラウン」という仕組みの上でこれは機能しますが、狙い撃ちの場合はポテンシャルではなくすでに「高級車ユーザー」のみが対象なのです。つまりLEXUSに相手してもらうためにはBMWかベンツなどに乗っていなければならないだけではなく、そもそも上流階層でなければいけないのです。

そう考えるとすべての謎が解けますし、諦めもつきます。orz