圏央道裁判にて思うこと

MXTVで放送された石原都知事の会見中、記者がこの件に触れると都知事いわく

「この裁判官はおかしな裁判ばかりしている」
「どうせ高裁で7,8割方ひっくりかえされる判決」
「東京の渋滞を知らないんじゃないか?自転車で通っているのなら知らないのも仕方ないが」

とバッサリ。ディーゼル規制により粉塵公害を劇的に減らした立役者の発言に注目していたのだが、法廷で争った内容とは異なる論点で話した都知事にちょっと幻滅。法廷の争点は

・騒音被害や大気汚染が予想される
・交通渋滞の緩和も具体的な裏付けを欠く
・事業の必要性は低く、事業によって得られる公共の利益の判断の過程には、社会通念上見逃せない過誤欠落がある

というところで、2行目の「交通渋滞の緩和も具体的な裏付けを欠く」が重要なポイントだと思います。大学時代で交通工学を勉強し渋滞シミュレータを開発した経験からいうと、圏央道のみ(外環)が完成した状態で都心の渋滞なぞ測定誤差以下の影響しか及ぼさないと思います。

ちなみに渋滞とは道路の交通容量を超えた(あふれた)ときに発生するものであり、一度渋滞が発生すると解消するまでの時間は通常の(渋滞していない状態)の交通容量よりずっと少ない交通容量で渋滞によって引き起こされた待ち行列を割った時間です。

交通容量の公式はこちらを参照のこと:「公道最速理論とその考察

結論を先にいっちゃうと、渋滞は引き起こされるのは簡単ですが、解消までには大変時間がかかるということです。例え車線を増やしたとしてもボトルネックが移動するだけで、渋滞は解消されません。渋滞を解消するには「完全に交通容量以下の交通しか受け入れない」ことで、これは事実上「不可能」です。なぜならば都内の渋滞は信号と駐車車両により交通容量の低下を引き起こされ、首都高速道路はそもそも設計上3車線でならなければならないところを2車線にし、設計速度も60km/hと低速に設定して建設したため、交通容量は最低レベルしかありません。首都高速で渋滞が起きないのは夜中の3時~5時の間しかなく、そのときの交通量は昼間の何分の一でしょうね?それくらい交通量を下げる効果が圏央道になければ、効果は認められません。

さて、その裁判官はというと、このような裁判で有名です。

黄昏5秒前:藤山裁判官左遷される

小田急訴訟の第一審で東京都側を敗訴させ、難民認定を次々認めるなど、「先例に縛られず」行政側敗訴判決を連発してきた名物判事が、行政訴訟専門部から医療訴訟集中部に異動することになった。

小田急については「いつまでも難民列車」で触れているように、下北沢が複々線化しない限り輸送力アップは有り得ません。そして下北沢は地下方式なのです。それならなぜずっと地下にしないんでしょう?

マンハッタンでは歩行者と車は地上、電車は地下と住み分けています。地下鉄はマンハッタンを抜けてブルックリンやクイーンズに行くと高架方式になりますが。これは都市デザインの中で交通を効率良くするために互いに影響しないよう配慮されたものだそうです。

ついでにマンハッタンの地下鉄事情ですが、1950年代にすべての地下鉄、そしてバスの経営を統合して現在のMTAを設立します。そして地下鉄は競合路線の廃止をし、現在の地下鉄網に至っています。一定料金$2でどこまででも乗ることができ、そして地下鉄からバスへの乗り継ぎはタダです。バスからバスへの乗り継ぎも同じです。つまり$2で好きなところへいけるのです。それに比べて国鉄、私鉄、公団、都営と経営は乱立し過当競争、乗り換えるごとに初乗り料金をとられる理不尽さ。公共交通機関がお粗末でなおかつ高い料金を支払わされるわけだから、自家用車を使いたくなるのも道理です。

そういった背景がある中、圏央道作って渋滞解消だという詭弁には乗れません。

さて、そんな裁判官ですがやはりというか、左遷されてしまった模様。そして3審制の日本では、地裁の判決なんて意味ないことを思い知らされます。

関連リンク:
藤山裁判官の最後のお仕事
MTAの歴史(英語)
交通容量拡大策