オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(第1回)

オンラインゲームビジネスをわかりやすく説明している記事

ネットワーク上のチャット/コミュニティとオンラインゲームビジネスの
立地・相対位置・関係をどういう風にお感じなのかな、と思ったりもしました。

このコメントを受けて、オンラインゲームとチャットなどのネットワークコミュニケーションの違い、tele-communication論や、ユーザーからの視点はちょっとおいといてビジネスとしての側面を考えてみました。かなり長くなったのでまずは全4回の連載ではじめます。

【第一回】

・コスト

まず、サービス提供者(サービスプロバイダー)側の視点として考えるとオンラインゲームとネットワークコミュニケーションの差はほとんど違いはないといえる。どちらもサーバーを用意するネットワークサービスであり、サーバーソフト、クライアントソフトの規模が違う点だけだ。それは人件費、インフラ等の固定費の規模に直結する。

一番の問題はビジネスとして、どうやって収益構造(profit model)を組み立てていくかにかかっている。

まず、サービス提供者単独での収益構造は簡単にするとこうだ。

(開発費+サービス提供コスト) / ユーザー数 = 料金
開発費=人件費
サービス提供コスト=サーバー代+ホスティング費用+運営費用
運営費用=人件費

開発費はだいたいone timeであり、サービス提供コストはサービスを提供し続けていく期間中ずっと発生するものを仮定している。

・サービス提供コスト

ここで注目しなければならないのはサービス提供コストである。というのもこれはサーバー代、ホスティング費用、人件費がユーザー数の増加に伴い増加する性質がある。さらに例えユーザー数が少なくとも、ある程度を最初から確保する必要があり、それはすなわち過剰投資になりやすい。

インターネットの場合定常的にアクセスがあるわけではなく、1日の中で特定の時間帯に集中してのアクセスがあるため、設計上ピークタイムで十分なクオリティを確保するようにインフラ(サーバーの台数、ホスティングの契約トラフィック量)を設計する。

このインフラがアクセスに追いつかない場合は、例えば接続できない、接続が切れやすい、レスポンスが悪くなるなどのサービス品質が落ちてしまう。そうなるとユーザーは離れやすくなってしまう。

・インフラ設計

それを避けるために多くのサービス提供者はユーザーが増える毎にインフラを増強するのだが、これがコスト増大に拍車をかけることとなる。過剰な投資は収益構造を悪化させる。そしてどこまでが適正で、どこからが過剰なのかはやってみないと分からない。というのも、サービス品質は事業者が決めるものではなく、ユーザーが感じるものであるからである。

通常のwebサービスやストリーミングサービスと異なるのは少ないパケットを頻繁に、遅延もロスもなく伝える必要があるところだ。実はBBの恩恵をもっとも受けないインターネットサービスともいえる。ナローバンド(モデム)と比較し、ブロードバンド(ADSLやFTTH)にしたからといって上記の条件が向上しないことがすでに明らかになっている。last one mile(ユーザーの近くの伝送経路)の回線の太さよりも、サーバーまでの配送経路の方が重要なのだ。

これが通常のホームページであれば、キャッシュサーバー。ストリーミングサーバーであれば、マルチキャストといったように分散化することで品質を確保することが可能だ。しかもキャッシュサーバーやマルチキャスト専門の業者と契約することで、過剰投資のリスクを冒す必要がなくなる。akamai(日本ではNTT communications)は全世界に数千台のキャッシュサーバー(彼らはこれをedge serverと呼ぶ)を配置して、必要に応じてキャッシュサーバーの数を動的に変化させて対応する。特にバーストと呼ばれる突発的なアクセス増加があった場合でも、サイトはダウンすることもなく、レスポンスを確保することが可能だ。計画的なものでいえば、新製品発表や車メーカーの新車発表などがあった場合は通常の数十倍のアクセスが殺到する。また突発的なものでいえば昨今のウィルスの発見にともないパッチを配布するなどがこれに相当する。バーストする帯域にあわせて通常からインフラを自前で持つことは過剰投資以外の何者でもなく、かといって通常のアクセスしかこなせないサイトではバーストした場合にレスポンス悪化、最悪はサイト停止に至っては機会損失(oppotunity loss)もはだはだしい。

ところがオンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションにはこういったバースト対策の効率的な解決案が今のところ無いのが実状だ。つまりインフラはすべて抱え込む必要が出てしまうのだ。これはビジネス上の大きな制約である。

(第二回に続く)