納豆の起源、大豆文化圏の分布を探る

日本にとってなくてはならないのは米。一方で味噌や納豆など大豆の加工食品も忘れてはならない存在。その代表的選手である納豆はどこからやってきたのでしょうか?

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視点・論点 「納豆の起源を探る」

実は、1972年に植物学者の中尾佐助先生が『料理の起源』という本の中で、「ナットウの大三角形」という納豆の起源と伝播の仮説を提示しています。

インドネシア・ジャワ島の「テンペ」、ヒマラヤの「キネマ」、日本の「納豆」を結ぶ三角形の範囲に納豆のような食品が分布しており、それは中国南部の雲南省付近で生まれ、そこからインドネシアと日本、そしてヒマラヤに伝播したという学説です。

中尾先生は、1960年代後半に日本文化の起源として注目された「照葉樹林文化論」の提唱者の一人です。照葉樹林とは、西日本から東南アジア大陸部を通りヒマラヤに至る地域に広がる常緑広葉樹の林で、そこには、類似の植物利用が見られ、また共通の文化が存在しているというのが「照葉樹林文化論」です。「照葉樹林文化」の中心地も中国南部の雲南省付近とされました。納豆の起源地も同じ場所です。要するに、これまでの学説では、納豆は照葉樹林帯の食べもので、その起源地は中国南部の雲南省付近とされてきたのです。

東アジアの基層文化-照葉樹林文化圏-の納豆

大豆は現在,世界で一億三千万トン生産されている人類にとっての最も重要な作物のひとつであるが,その原種は今も東アジアの山野に自生する「ツルマメ(学名Glycine hispida)」である。

中國の黄河文明の成立に先立って存在した長江文明は,長江の源流域に発生したイネと大豆の栽培化による農業の誕生にその起源を求めることができる。近年,文化人類学者達が東アジアの基層文化を形成する,いわゆる「照葉樹林文化圏」のネパール,シッキム,ブータン,雲南,ミャンマー,タイの山岳地域に足を踏み入れるにつれ,この地域に共通の食文化として,大豆を納豆菌で発酵させる納豆様発酵大豆があることが明らかになった。

このことから翻って,我國の基層文化である縄文時代の後期に大豆はすでに大陸から渡来して,納豆として食べられていたことを容易に想像させるものがある。魚醤やなれずしも「照葉樹林文化圏」の共通の食文化であった。東アジアで数千年の昔栽培化された大豆は,東アジアで先ず納豆菌で発酵して食べられていたと考えられる。納豆は,実は人類の最古の発酵食品なのではないか。

海を渡ったトウフ ~ 豆腐からTofuへ (前篇)

豆腐発祥の地は中国とされ、明の時代16世紀の「本草綱目」の中に、紀元前2世紀、前漢の准南王・劉安の創作になると記載されています。しかし、豆腐に関する記述が他の文献では唐の時代以降まで見当たらないことから、准南王説は後代の創作で実際の起源は唐代の中期以降ではないかという説もあり、はっきりしていません。また、そもそもの豆腐は、北方遊牧民族が持ち込んだ乳加工品、乳の保存形式である「乳腐」をまねてその代用品として作られたという説もあります。いずれにしても豆腐が中国で一般的になったのは宋代になってからのようです。

日本への伝来の時期もはっきりとしませんが、12世紀末の奈良春日大社神主の日記に「唐符」の記載があり、平安時代の院政期までには恐らく僧侶の手によって伝えられていたようです。同様の時期に、大陸内の人の往来によって豆腐は東アジア、東南アジアに広まりました。

豆腐の製法は古来あまり変わりません。大豆を水に浸漬してふやけさせてから加水しながら磨砕して呉汁をつくり、これを濾過して豆乳をとって凝固剤を加えて固める、というものです。もともとの中国の製法は呉汁を搾って豆乳をとってから加熱する「生搾り法」で、アジアでもこれが一般的でしたが、日本では呉汁を煮てから搾る「煮搾り法」(加熱搾り法)が独自に発達、江戸時代には煮搾り法が一般化していたという違いがあります。

また、日本では豆腐を素に近い状態で食するのを好むためか豆腐には白くて柔らかいイメージがありますが、中国・アジアの豆腐は炒める、揚げる、発酵させるという調理・加工法が一般的で概して日本の豆腐より堅めだったようです。この食べられ方の違いは、日本は水が豊富でかつ軟水だったということも起因しているように思います。水がきれいだったので素で食べても美味しかったということではないでしょうか。

ところで、豆腐は東南アジアには伝わりましたが、陸続きなのに中央アジア・ヨーロッパに伝わることはありませんでした。何故でしょうか。理由はいたって単純で、大豆がなかったからです。かつて大豆の産地は、中国、日本、朝鮮から東南アジア、ヒマラヤ中腹地帯まででした。

当然なのですが、大豆がなければ豆腐も納豆もできません。しかし中南米にいくと豆だらけなのですけど、こちらは豆腐や納豆というのはあるのでしょうか? ちょっと気になります。

榊原英資の食卓の向こうに

世界でも、多くの豆類を食べているのが、ベジタリアンの多いインド。 このインドを境に、豆の文化、食文化が東西に分かれます。 インドの東側、アジア全域に広がっているのが大豆文化圏。 その食生活は、米を作り魚を食べ、畑の肉といわれる大豆を栽培。それを発酵させ、納豆、豆腐、味噌、醤油といった加工食品を作りました。 一方の西側はレンズ豆文化圏(番組で命名!) 麦が主食で肉を食べ、発酵食品はチーズやヨーグルトといった乳製品です。

食物を探ると人の流れも分かるというもので、豆が好きかどうかでルーツが探れそうです。ちなみに私は豆、好きではなく、味噌も納豆も豆腐も苦手です。米は大好きなのですけどね。

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