トヨタ86がデビューしてから2年以上。2リッター200馬力クラスのFRスポーツクーペ、というちょうどニッチマーケットにはまり国内外から一定の評価と売れ行きを見せています。街中でも結構みられ、若者だけではなく、意外にもシニアな客層にも受けているクルマ。
でも漂うなんか違う、コレジャナイ感。
初めてのマニュアル車としてKP61スターレットに乗っていて、それまでの家のクルマはトヨタ・セリカ1600GTにはじまり全部トヨタ。当時の憧れはセリカXXにAE86、そうです本家本元のハチロクです。でも高くて買えなかった...
この頃はまだ経験が浅く、車のこと全然わかってなかったので結局買ったのはS13シルビア、CA18DEのQ'sという、これがまた微妙なエンジン、そしてビスカスLSDというこれまた曖昧な効きでなんともはや、という走りでした。
まあそれはともかく、ハチロク復活ときいてワクテカして待っていたのは事実でしたが、なんだか蓋を開けてみると心が動きません...
その理由を整理してみます。
デザインがコレジャナイ
コードネームがFT-86、車名が86に決まっておらず、コンセプトとしてはレクサスっぽい最近のデザイントレンドに沿ったもの。で出来たデザインが明らかに昔の私たちが持っているAE86ではなく、LFAに近くなっていました。
でも車名が「86」。えっ?
AE86はもはやあの3ドアハッチバック、リトラクタブルヘッドライトのパンダトレノというイメージがあったにも関わらず、2ドアクーペの固定ヘッドライト。まあよしんばそれをよしとしたところで、じゃあその2ドアクーペAE86に似ているかというと、まったく違う。こんなのハチロクじゃない!
世の中名車復活といえば、例えばVWビートル、BMW MINI、FIAT500にしてもどれもまったくデザインは昔のとは異なりますが、見事にそのデザインを昇華させて現代にマッチさせています。FIAT500に至っては駆動方式まで違うのに・・・なんというかオシャレ感とアバルトに見る走りへのこだわりは見事です。
FT-86は「横にトヨタ2000GTを置いてクレイモデルを作りました!」と自慢しますが、横に置くクルマを間違えてる...
エンジン・ミッションがコレジャナイ
水平対向エンジンについては、「パブリカ、トヨタスポーツ800をルーツとします」と言いますが、いや、どうみてもスバルだから、インプレッサだから。
インプレッサのコンポーネントを流用して安く早く作る、というのはいいアイディアです。縦置き水平対向エンジンはアウトプットがまっすぐ後ろに出てくるのでプロペラシャフトをつないでFRという流れは自然。でもなんでターボがなくなっちゃったの?
エンジンについて、ある人にきくと
「インプレッサのターボが壊れちゃった状態を想像してよ」
あー、それはキツイ。でも、ほら、ジムカーナとかモータースポーツでデビューウィンとか飾ったじゃないですか。
「エンジンフルチューンですよ、あれ。でも数戦して勝てなくなったでしょ、それはね、プライベーターが参加しはじめたらエンジン速いのがばれちゃうから、ノーマルエンジンに戻したの。すると勝てないわけ」
あー、それはグレーゾーン。でベンチにかけると170馬力そこそこ(カタログは200馬力)で、やっぱりトルクが薄いのはツライです。しかも高回転で稼ぐというのはいかにもオールドファッション、ここだけは昔の4A-G的かもしれませんが。
ミッションはインプレッサ用のものを使うかと思いきや、なんと昔懐かしいアルテッツァ用をもってきました。軽量コンパクトなのはいいのですが、耐久性には疑問符が。RX-8にも採用されていましたが、その後マツダ内製に切り替わった経緯があります。
もしエンジンをターボ化できたとしても、そのトルクには耐えられないので、事実上パワーアップ(トルクアップ)に対応することができません。ターボがないエンジンの最適解ですが、チューニング封じ、ともいえます。
タイヤがコレジャナイ
2リッタークラスのタイヤサイズとして205/55R16サイズというのはファミリーセダン。しかも組み合わせるタイヤがエコタイヤというのは、ちょっとモノ足りません。確かにドリフトするにはいいのでしょうけど、今の時代、限界が低すぎるのも多少考えもの。
ではオプションの215/45R17サイズではどうでしょう。幅的には変わりませんが、かちっとしたフィールや見た目的にはこちらを選びたいところ。
エコシステムがコレジャナイ
ハチロクといえば、車高も高くて、エンジンはしゅんしゅん回って軽量ボディを回転でひっぱりあげるクルマでした。なのでみんなこぞって車高落として、ポテンザRE71やアドバンHF-Dにタイヤかえて峠に繰り出したものです。そんな中でダウンヒル最速伝説が出てきたわけですね。
さて現代の86はどうかというと、実車が出る前におかかえのショップには実車が配備されてと、チューニングパーツ供給にも余念がありません。
ところが困ったのが街のショップ。オリジナルパーツを出そうにも、すでにTRDや大手ショップから一通りパーツが揃ってしまいました。知名度でも販売力でも敵わない上に先行されたのでは、まったくもって太刀打ちできません。
街のショップはこれでまたハチロクのような盛り上がりを見せるかと期待してたのに関わらず、結構白けてしまったというのが実情。
メーカー主導の盛り上がり戦略もいいのですが、エコシステムまで作りあげられると、その中に入って行けない草の根ショップはツライ・・・
細かいことですが、ウィンカーの位置が低過ぎて、車高を落とすのも車検で認められている目一杯まで下げられず制限されていることもその一端。ウィンカー位置を下げているのは「わざと車高を下げられないにしている」ということで、車高を下げれば下がるほどいいジムカーナ競技で使う車両としてはBRZ一択となってしまいました。なにもそこまでお仕着せにしなくとも、そういうのを「余計なお世話」と言います。
[トヨタ86は車高があまり下げられない? トヨタ86、スバルBRZ 詳細スペック&価格 - [の] のまのしわざ]
綺麗なジャイアン
トヨタとして「いいクルマ」を作る、という命題がありその中で作った結果、非常にまとまったクルマとなっています。ところが余りに洗練されすぎて、余白がないというか、結局箱庭に小さく収まってしまった感があり、昔を知るものとしては残念。
例えば昔のハチロクはもっとボロくって、でもそんなボロいところをみんなの知恵と工夫、そして情熱がカバーしていかようにでも進化していくベースとなっていたような気がします。だからこそみんなそれぞれの「理想のハチロク像」というのを投影できたんでしょうね。夢のクルマです。
86に足りないのはその投影機能で、結局どれにしてもゲーム「グランツーリスモ」のメニュー画面でオプションを選択してるのと同じで、その範疇からでられないんです。
公道ドリフトやチューニングってもともと不良が好んでやることで、本来反社会的行為です。特にドリフトは闇夜の峠にいって危険運転、騒音公害をまき散らすものですからね、どんなに美辞麗句を並びたてても正当化なんてできないんです。
粗野、乱暴な側面をもつ公道ドリフト。その立役者がハチロクです。でも86はそれがありません。86で峠でドリフトしている人なんて、あの全盛期の峠ブームと比べたらほぼ皆無です。
ジャイアンは粗野で乱暴です。だからこそジャイアンなんです。
綺麗なジャイアンなんて、まさにコレジャナイ、わけです。
だから一番の問題は、やっぱり名前なんですよ。BRZはここまで「コレジャナイ」と感じないんです。インプレッサからターボを抜いて、FRに最適化したパッケージのBRZですよ、と言われれば素直に受け入れられるんです。じゃあまあしょうがないよね、これもアリだよね、と。
でも「ハチロク伝説」を知る一人のオッサンとして、強い憧れを持っていたからこそ、ハッキリ言えば「これは僕らの知っているハチロクじゃない」となるんです。
トヨタ・スポーツ2000とか言えば良かったのになあ。
マーケティングが強過ぎるとこうなっちゃうのかな。まあ成功しているからいいんだろうけど。
以上、個人的見解でした。