都知事選挙、細川候補が本当に伝えたいこと

脱原発、脱成長ではないんです。「脱成長」という言葉尻をとらえられて不人気な殿こと細川元総理。本当に細川護熙候補が伝えたいこととはなにか。それは非常に簡単。

江戸時代の復活

これに他なりません。えっと思うかも知れませんけど、

「殿、出番です!」

という言葉にそれは表れています。殿ですよ、江戸時代に決まっているじゃないですか。なぜ都知事選挙にでるのか。そんなの決まってます、江戸時代の復活をするということはつまり、

東京を江戸に戻す

んです。だから東京都、じゃなくて江戸都になるんです。

名実ともに江戸時代へ

江戸時代は約270年も天下泰平の世が続いた、まさにサステナビリティソサイエティ、持続可能な社会を体現した体制です。安定した経済基盤と保護された国内では江戸文化が花開きました。ここに膨張する経済成長はありません。人口増加もありません。だからこそ外圧が生まれ開国が迫られるまで繁栄を謳歌されたのです。

明治体制になってから「富国強兵」をもとに経済成長、人口増加を行いました。なぜなら人口はすなわち技術力であり、国力であり、経済力の源となり、またそのまま兵力にも直結したからです。もちろん数だけではありません、質を向上させるために教育は知識面、体力面の両面を鍛えるために学校には軍事教練と同じく運動場が設けられました。

だから「脱成長なんてダメ」という論者はまだ気付いていないようですが、成長とは富国強兵の名残であり、行く末は戦争です。なぜなら経済成長にはエネルギーが必須だからです。またエネルギー施策と経済施策はセットで考えなければならないもので、資源を持たない日本はどうしても原発と経済政策が直結してしまうのです。

江戸時代はサステナビリティソサイエティのため、エネルギーが限られても国内で賄うことができました。木炭、つまり日本にある森林からエネルギーを調達可能なのです。七輪を使えば効率よく調理ができ、オール電化なんて不要です。

原発の不要な社会

原発が有利なのは24時間365日安定的に電気を供給できること。そのため深夜電力はむしろ使えば使うほどオトク、的なイメージでこれまでは安く使ってきました。ところが原発稼働率ゼロとなってこれは破綻します。深夜であろうとも、火力発電所がつねに地球温暖化へと貢献し続けているのです。

これは24時間社会が生み出した弊害、簡単にいえば眠らない街東京の原動力です。だから東京が24時間動き続けるには原発が必要なのです。でも江戸はそうではありません。夜は寝るもの、夜出歩くのは盗人だけです。

そもそも24時間営業のコンビニがエネルギー浪費型社会の諸悪の根源です。

コンビニは24時間オープンしているだけではなく、在庫をもたないが故に常にJIT、ジャスト・イン・タイムによってトラック輸送で商品を運んでいます。これは電気を使っているというだけではなく、さらにトラックを24時間常に走らせていることでこれまた地球温暖化に貢献する結果となっているのです。いまある利便性はこのエネルギー消費の上になりなっているものなのです。

そもそもセブン・イレブンは7時開店、午後11時閉店でした。だから7-11なのです。しかしこのエネルギー浪費社会、利便性のみを追求する東京に代表される都市が眠らない街の代表としてコンビニを生み出したのです。

例えば原発を否定し、自然エネルギーへとシフトしているドイツには24時間営業の店はありません。これは「閉店法」があり、法律で禁じられているからです。その理由はさまざまですが、夜は活動を休む、という人間らしい生活を大切にしているためで、眠らない街東京はブラック企業ならぬブラック都市といってもいいでしょう。

原発はこのブラック都市を支えるためにもっとも効率のよい手段だったのです。

しかし夜眠る江戸にもどれば不要。だから結果的に脱原発が可能になります。

熊本が天下をねらっている

細川候補の出身地は言わずと知れた熊本です。熊本では県知事も務めていますが、その時に行った施策は「くまもと日本一運動」です。この運動をもとに農作物や観光名所など整備・強化され、その結果名産品が多くなっています。

実は熊本は有史以来、日の目をみたことがほとんどありません。九州地方にあっては南の薩摩、北の福岡にやられっぱなしです。特に薩摩には恨み節しかありません。

というのも、江戸時代、徳川幕府との良好な関係を築き九州地方の中で肥後の国として君臨していたと思っていたものの、所詮は地方。明治維新の時に薩摩が突然天下をとり、明治政府の要職を薩長で占めた上、後に西郷隆盛が造反。西南戦争に突入しますがその戦場が熊本。特に熊本城は長期化し数カ月にも渡って激戦を繰り返し、その挙句に有名な天守閣が焼けおちました。一説には官軍が士気を高めるために自らが火をつけたともいわれていますが、真偽は不明。いずれにしてもこれも全部「薩摩のせい、西郷隆盛のせい」となっています。

それだけではなく、薩摩街道筋は敗走する薩摩軍を追い官軍と激しい銃撃戦、屍累々。とにかく熊本としては大迷惑で、薩摩・鹿児島は大嫌いなのです。

ようやく西郷隆盛が滅び、さあこれから熊本の時代だと思ったら今度は急激な工業化で一躍躍り出たのが北九州。そうです、八幡製鉄所です。富国強兵の原動力となる石炭や製鉄といった産業が福岡に集中し、これまた九州の中での覇権を握ることができなかったのです。

プライドが高い肥後もっこすは、オレたちが認められないのは回りが分かってないからだ、とずっと忸怩たる思いを持ち続けていたわけですよ、100年以上も。

そうしてようやくやってきました、熊本の時代。それが。

くまモン登場

熊本が全国区となったのはゆるキャラ、くまモン。今ではくまモンが一人歩きし、熊本よりも知名度があるほどになりましたが、その通りで熊本が全国的に有名になったのは実に西南戦争以来のこと、熊本有史で3回目です。それほど歴史の表舞台とは無関係だった土地なのです。

くまモン躍進の影に西郷どーんあり。今も残る薩摩と肥後の確執 - [の] のまのしわざ

しかしくまモンの啓蒙活動のおかげで熊本は今や知名度がアップ、そこに満を持して登場したのが細川候補というわけです。

元総理ではない、総理もやっていた元陶芸家である

細川候補は確かに元総理です。しかも初の上智大学卒業の内閣総理大臣、おそらく後にも先にも上智卒で総理になる人はいないでしょう。しかし総理をあるスキャンダルで辞任してからは政界から引退、それ以来陶芸家として暮らしています。総理の期間は約半年、陶芸家は20年。と考えるとやはり陶芸家といった方があっています。

そしてスキャンダルとは何か。佐川急便から1億円の献金を受けたという問題です。先に辞任した猪瀬元都知事とは額が違う、2倍です。しかし猪瀬元都知事という小物と比べてはいけません。細川候補はこの1億円の献金の使途は政治資金ではなく、なんと、

自宅の塀と門の補修に使った

というではありませんか。1億円です。家を立て直すわけではなく、門と塀の補修です、メンテナンスです...

一体どんなお屋敷なのか、城なのか、と言いたくなりますが、なにせ殿ですからね、ああ、そうかでみんな納得です。モノポリーでもあるじゃありませんか、調子にのって家とかホテルたてまくっていると突然カードひいたら「補修費用を支払え」となってうひゃあ、となるアレです。それをたまたま献金してもらっただけのこと。5000万円もらってバッグに入れた、入らないとかそういうレベルの話じゃないんです。

そんな殿が20年も陶芸をやっていたわけですが、くまモンで熊本も全国区になったし、このチャンスに熊本が天下をとろうと立ち上がったわけですよ。

だって陶芸ですよ、土こねて、ろくろ回すんですよ。そして窯で焼くんです。エコです。サステナブルです。夜は寝るんです。原発いらんでしょう。毎日毎日同じ生活。

だいたい経済成長しなければならないって、いまどきの20代、30代がいっているのをみると、お前たちどこのバブル世代、いざなみ、いざなぎ世代だ、とバブル入社組は思うわけです。いまどき右肩あがりなんてありえないでしょ、だって人口は減っていくんです、高齢化社会です。国民年金は崩壊したんですよ。奨学金だって返せないでしょ、返せるわけないですよだって経済成長しないんだから。

だから福祉税なのです。

細川内閣が崩壊したもうひとつの理由はこの唐突の福祉税でした。20年後の未来を見据え、高齢化社会になり年金が崩壊することを見越して導入しようとした税金です。メディア、国民の総反発を受けましたが、さて20年後の現在どうなったでしょうか。細川候補のいったとおりです。

いまや国民年金は税金と一緒です。滞納すると督促され、財産を差し押さえするのですよ。そんなわけないでしょ、とお思いでしょうが、私はつい先日差し押さえ予告を受けましたから本当です。その時「年金は税金と同じですから、支払い義務があります」とまで言われてますし、しかも滞納した分、年率14%前後の延滞金が科せられます。どんなサラ金よりも、奨学金の利息よりも高いです。これはまさしく税金と同じ。

熊本は急速に高齢化社会を迎えています。人口分布をみる限り、全国平均の約20年先をいっています。

つまり日本の20年先が現在の熊本なのです。熊本県知事として熊本日本一運動を行った経験は伊達ではありません、高齢化社会を迎える熊本をどうしたらいいのか、そしてこれから日本をどうすべきなのか、ろくろを回しながら考えたその結果が

東京江戸化計画なのです。

だから殿、出番なのですよ。

東京を江戸に。

真のサステナビリティ社会を到来させるために。これがゴールであり、脱原発や脱成長とは方法論にしかすぎません。

学ぶべきは凋落した国

日本が今後高齢化社会となり、労働力が減少することで経済的に凋落するのは当然のことです。問題はこの凋落していく様を先延ばしにすることではなく、いかに緩やかに衰退していくか、という方法です。そこにはいいお手本が世界にあります。それはスペイン、ポルトガル、イギリスです。

スペインが最盛期だったのは無敵艦隊で世界をまたにかけていた16~17世紀。そこから基本的には凋落する一方で、今では見ての通りです。ポルトガルも19世紀まで交易で栄えていましたがその後は凋落しています。

イギリスは第二次世界大戦までは世界のリーダーでしたが、戦争には勝てたものの世界のリーダーの座をアメリカに譲渡し、その後は軽やかに衰退し、失業率も高く、あれだけ隆盛を誇った自動車産業もすべて外国資本となりました。イギリスの植民地だったインドがジャガーを傘下にするというのはなんとも皮肉なものであります。

凋落したとはいえ、これらの国は今もゆるやかに生活をしています。つまり学ぶべきはこの国なのです。経済成長、右肩上がりというのはもはや中国や発展途上国にしかありえません。戦後の日本が発展途上国であったと考えれば分かりやすく、ステージはもう2つくらい先にいったのです。

スペインではレストランであっても夏休みがあり、しかも7月中旬から9月中旬までの2ヵ月休むのがザラです。空いている店であってもシエスタのため昼と夕方しか空きません。だから昼の時間を過ぎるとぱたっと店が閉まり食べ損ねてしまうのです。

簡単にいうと労働時間の短縮です。

これが東京の、そして日本の明るい未来像です。ブラック企業だなんだといっていますが、富国強兵策や右肩上がりの経済成長をベースにした日本社会全体がブラックなのですから治りようがありません。だからこそ、ここで殿がでばってきて、東京を江戸に戻し、来るべき超高齢化社会、労働力不足、ゆるやかな衰退を経て、人口減少といった、天下泰平の世へとシフトする準備をする必要があるのです。

正直なところ、この人だけですよ、20年~50年後を見据えているのは。

あとは一人一人の判断です。とにかく国民年金は税金になりました。ということは細川内閣の見通しはやはり正しかったということです。

余談

殿の問題は、どうも自分が分かっていることを説明するのが苦手なようで、福祉税のときも唐突だし、理解されないし、総すかんでしたが今回もそんな気配です。たまたまですが私は同じ熊本出身、同じ中学、大学出身ということで、育った環境がある程度似ているから、なんとなくこのように殿のメッセージを読み解いたのですが、実際にはどうでしょうね。