ホンダ最後のFR。S2000の袋小路と孤独

ホンダS2000はホンダ50周年記念車としてデビューしました。

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今現在S2000は生産終了し、後継車はありません。どうしてそうなってしまったのか、振り返りをしたいと思います。

FRの問題

もともとホンダという会社のDNAでいえば、S500/600/800があったからといってもそこからは分断された歴史の中で、改めて2000ccのFRオープンを出したことが、大きな矛盾を抱えてしまいました。簡単にいうとホンダはFFの会社です。100歩譲っても横置きエンジンの会社といってよいでしょう。なぜホンダがFRを作らなかったのか、それは本田宗一郎がプロペラシャフトを作る会社と大ゲンカして「プロペラシャフトなんて使わない!」と言ったからという伝説がまことしやかに言われていますが、確かにS2000に乗ると、実は大きな問題はこのFRレイアウトにあることに気付きます。

ホンダが得意としたMM(マシンミニマム、マンマキシマム)思想で具現化されたシビック等と対照的に、S2000はエンジンとミッションが中心的です。ビハインドアクスルレイアウト、いわゆるフロントミッドシップで前後重量配分50:50を実現するためにエンジンはフロントのアクスル(車軸)の後ろに搭載され、社内新開発の6速ミッションは大きく重く、車室内を圧迫しています。その結果2シーターにも関わらずキャビンは狭く、手荷物スペースもなく、MM思想とは大きくかけはなれたパッケージングとなっています。

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ミッションは当時として先進的な6速マニュアル。非常に出来がよく、シフトストロークはミニマムでカッチリとしたフィーリング、ただし高回転高出力に対応するため容量を大きくする必要があり結果として大きく重くなってしまっています。S2000の重量のうち、実は大きなファクターを占めているのですがセンターにあるため問題となっていません。ただ、2000ccのエンジンに組み合わせるには体積が大きすぎるというのが隠れたデメリットです。

エンジンの問題

2000cc VTECエンジンとして、1800ccの B18C 200馬力、1600ccのB16B 185馬力の上位に君臨する250馬力を発揮。レブリミットは9000回転と驚異的な高回転型エンジンとなっています。このエンジンも珠玉の出来栄えで、6速ミッションと組み合わせてパワーバンドである6000-8500回転を駆使すれば、まさにカミソリの上の走りを楽しめます。

しかし一方でトルクが不足します。2000cc NAエンジンのため、どうがんばっても220Nmほどしかトルクが出ませんし、6000回転以下ではトルク不足に悩まされ、街乗りの常用回転域ではもっさりとした印象となってしまいます。

またベースとなったF型エンジンは1990年代初頭のもの。後に出てくるK型と比較すればどうしても古臭く、可変バルブタイミング機構(VTC)がなく、限界までチューニングしたエンジン自体の出来栄えは素晴らしいのですが、インテグラなどFFと比べて重く大きなボディとプロペラシャフトをもつ駆動系を組み合わせた時にはその素晴らしさが半減するのも事実。特にK20Aを搭載するDC5インテグラやEP3シビック、FD2シビックの方が俊敏という印象です。

もともとS2000のコンセプトカー、SSMではVIGOR/INSPIRE系の5気筒G型エンジンを搭載しており、こちらは後に2500ccのG25型まで発展。トルク面では有利だったと思われます。のちにストロークアップし2200ccのF22C型としますが、結果的にはトルクは向上したもののレブリミットは8000回転に制限、242馬力とパワーダウンしたことでS2000らしさがスポイルされることとなりました。

オープンボディの問題

S2000の最大の特徴であり、弱点でもあるオープンボディ。

FRということでもボディ作りははベースがなく、さらにオープン、しかもサーキットを走れるほどの高剛性ボディを目指してオリジナルで造りこまれました。9000回転回るエンジンに目がいきがちですが、実はS2000の最大の特徴でありコストはこの高剛性オープンボディにあるといってもいいでしょう。

もともとベースとなるクローズドボディがないことから、オープンボディで剛性を確保するべく、センタートンネルを中心にフレームを通して作られたボディは、モノコックボディというよりフレームボディといっていいほど、ボディ剛性のほとんどをこのメインフレームに依存しています。

サーキットを走れるボディ、そしてレーシングエンジンといってもいい高回転型エンジンで走りを極めたS2000はある壁にぶちあたります。それがサーキット走行の欲求です。

一般的なサーキット、特に国際サーキットでは屋根のないオープンカーは走行ができません。走行には別途ロールバーが必須となります。

ところがロールバーを入れると本来のオープンカーである景色や爽快感はスポイルされると同時に、利便性と居住性はさらに失われ、なによりエレガントなフォルムが台無しです。クローズドボディがあれば、ということで クローズドボディの type Rの計画が持ち上がります。

しかし type Rは発売されることはありませんでした。

色々な理由があると思われますが、まずは販売が見込めないことからコスト面、そしてデザイン面、最後にホンダの考えるSシリーズの立ち位置からクローズドボディはないと判断されたのでしょう。

確かに本来オープンボディとして十分な剛性を確保してデザインされたボディですから、もしクローズドにしたいのであればハードトップを装着すればいいだけのこと。わざわざフィックスドルーフを溶接して作ることもなかろうという論理です。

ただこの判断、そしてSの立ち位置の不明確さがのちのちも尾をひくことになりました。

サスペンションの問題

ボディがオリジナルならば、当然足回り、サスペンションもオリジナルにならざるをえません。当時ホンダが得意とした4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションを当然S2000にも投入しますが、なにせ流用するベースがないためこちらもオリジナルで設計。参考にしたのはマツダのロードスター、RX-7であり(特許を使用との情報)、リアデフに至ってはほぼ同じ仕様で出してボンゴのギアを流用可能なほどです。

サスペンションにも当初問題がありました。まずフロントサスペンションは強度不足でサーキット走行では付け根がはがれてしまう点、ナックルが破損してしまうなど。リアサスペンションはサスペンションアームの短さに起因するトーイン変化が激しく、乗り手を選ぶとまで言われて後期型では設計変更、改善されています。

このリアサスペンションの設計自由度を狭めたのがスペアタイヤ問題です。

当時まだパンク修理材は一般的ではなくスペアタイヤの搭載義務がありました。もちろんランフラットタイヤなんてまだまだ先の話です。スペアタイヤはトランクルームに半分はみ出す形で幌の下に収納できたのですが、問題は交換後のタイヤです。このタイヤを収納するため、トランクの底に半円状のくぼみを作りました。このくぼみに合わせて交換したタイヤを1本だけ縦に入れようというのです。

実はリアサスペンションの付け根、サブフレームのサイズはこのタイヤ収納用の窪みを避けて作られているため、これが間接的にサスペンションアームを短くさせた原因のひとつです。後期型で多少アッパーアームが長くなっていますが、それも限定的な効果。傾向的にはどうしてもアームが短く、アライメント変化が大きくなってしまいます。

収納力の問題

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すでに体積の大きなミッションがキャビンに大きく張り出しているためキャビンが狭く、トランクもスペアタイヤの問題から容量が小さいことは指摘したとおりです。その上幌が収納されるわけなのでシート裏にも空間はなく、手荷物の置き場にも困るほど。グローブボックスもドアポケットも装備されません(後期型では不格好なドアポケットを装備)。

改善のしようがない袋小路

S2000は限界で出てきてしまったが故、改善の余地がまったくありません。それはボディしかり、エンジンしかり、パッケージングしかり。デビュー時が完成形であり、最高峰だったのです。

ですから時がたつにつれ、競合他車が進化するにつれ性能が陳腐化していく中、有効な手が打てませんでした。

大きな変更は2000ccから2200ccへの排気量アップですが、それも高回転を犠牲にすることでようやく成り立ったもので、本来もっていた性能とのひきかえです。

他の変更が出来なかったのは、そのすべてがFRの専用設計だったためで、量産メーカーであるホンダのメリットを活かすことができませんでした。FR専用エンジン、FR専用トランスミッション、FR専用ボディ、サスペンション。オープンボディ。これらすべてが高次元でまとまっていたからこそ、その高い性能が評価されたものの、性能向上の手段がなくなっていたのです。

その結果10年生産し、フルモデルチェンジすることなく生産終了しました。最終モデルの type Sはエアロをまとったものの、そもそもオープンボディでエアロを装着しサーキットを走るというのは自らの出自を自ら曖昧にした行為でもありました。ならばなぜクローズドボディはないのか、と。なぜ type Rはないのかと。

もしあの時、こうしていれば

歴史にIFはありません。しかしホンダがなぜあの時、FRを作ったのか。もうこれは血迷ったとしか思えません。ホンダは本田宗一郎の遺志を汲み、FRを作るべきではなかったのです。しかしSSMが1995年の東京モーターショーに出展され、その斬新さに打たれたのは事実であり、その結果私自身 S2000を購入することになるわけですが。

もしIFが許されるならば、ホンダはNSXの下のクラスの横置きエンジン・ミッドシップを作れば良かったのです。NSXが1000万円ならば、仮にNS2000としますが、それは500万円、というように。2Lクラスの横置きエンジンなら、後に最新のK型も使えたでしょう。ミッションもマニュアルだけではなく、オートマも用意できたはずです。一番大事なことは、時間が経過したときに他車種の最新エンジンやミッションといったものを流用可能になったはずということです。

単一車種で単一部品、というのはいまやスーパーカーでしか成立しません。

どのクルマも流用してようやく成り立っているのですから。その点これだけの専用設計部品で構成されたクルマが350万円しかしないというのは、非常に安かったというべきでしょう。このプライスも一つの問題でした。

2008年当時、新型NSX(HSV)もV10 FRで発売予定だったものが、世界経済の冷え込みと経営状態を理由に急遽キャンセルとなりました。HSVはスーパーカーのジャンル、価格帯のためFRでも成立したと思いますが、逆にいえばその価格帯でなければ成立しないのです。

来年デビュー予定の新型ビート改めS660は、Sの名前を冠しているものの、ミッドシップリア駆動(MR)で登場予定です。これはN-ONEやアクティといったエンジン、プラットフォームを流用するため横置きエンジン・ミッションを使うためですが、高値が付けられない軽自動車においては非常に賢明といえるでしょう。そうです、Sの名前はオープンを継承するだけで良いのです。駆動方式やエンジンの向きにこだわり過ぎるとまた袋小路にはまってしまいますから。

S2000の価値

デビューした瞬間から袋小路に入っていたS2000ですが、だからといってその魅力は褪せていません。おそらくホンダ最後のFRとして、その乗り味と爽快感は何物にもかえがたいものです。たとえ同じ価格帯、300-400万円クラスのハイパワーFFが一般的となりそちらの方が速かろうとも、あのカミソリのようなコーナリングはS2000唯一のものです。また同じFRでいえば FD3Sや86よりもホイールベースが短く、回頭性が高いことも魅力です。

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1999年のデビューから15年を経過し、後継車がないことから、現存するS2000は大切にしたいものですね。

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