プロダクトパワーとマーケティングパワーの危ういバランス

最近トヨタが心配です。

▼ アクアCM: Perfume チョコレイト・ディスコ

ニコニコ動画の「演奏してみた」で人気の「まらしぃ」さんによるピアノ演奏で「Perfume チョコレイト・ディスコ」です。アクアは背景に出てくるだけで、これまで連呼していた燃費性能の数字が一切でてこない、美しいイメージCMです。

▼ トヨタ モデリスタ | オーリス | シャア専用オーリス


ご存じシャアがザクからオーリスに乗り換えて暴走するというオーリス。クオリティの高いアニメーション、声優はもちろん池田秀一さんによる本物です。

どちらもCMとしてはとても素晴らしく、話題にもなっており成果は上がっていることでしょう。

ただ心配は、このCMの素晴らしさに比例するほどプロダクトにパワーはあるのか? という疑問です。

というのも、往々にして、特に大企業ではプロダクト・パワーが足りない、停滞、むしろ相対的に落ちてきたときに予算をマーケティングに使う傾向があるからです。

そしてそのマーケティングが成功すると、プロダクトが売れてしまうために、プロダクト・パワーの相対的低下に気付きにくいのです。マーケティング・パワーは予算が尽きる、消費者が飽きたときに消滅します。その時真のプロダクト・パワーの低下に気付くのですが、時すでに遅し、となります。

アクアのCMがなぜ燃費性能をうたわず、イメージCMになったかというと非常に簡単な理屈で、数字の上では新発売になったフィット・ハイブリッドがアクアを上回ってしまったからです。数字はNo.1でなければ意味がありません。なので方向転換したのでしょう。

オーリスについては元々ヨーロッパ向けのモデル、日本においてこのタイプのクルマは余り人気がありません。極論すればシャア専用ほにゃららは、オーリスである必然性がないのです。別のヴィッツでも、それこそプリウスでもアクアでも、カローラでも良いでしょう。

ただそれらのモデルは売れ筋であるためにわざわざテコ入れする必要もなく、日本で実験的に行うとしたときに分かりやすいのは余り売れてなく、マニュアルもあってそこそこ走りにふれるオーリスだったという消去法だったのではないかと推測します。

特にこのシャア専用オーリスはただたんに赤く塗っただけではなく、ジオニックトヨタという架空のメーカーまででっちあげ、シャア専用カーナビを開発、案内ボイスはもちろんシャアこと池田秀一さんを起用するという徹底ぶり。そしてこのCMと完成度は高く、マーケティング・パワーを見せつけられます。

ただし、もともと「シャア専用」というのは量産型ザクが敵の高性能機(ガンダム)にやられまくる「やられメカ」に対するアンチテーゼであり、量産型でも改造することと操縦者の腕で最新型と互角以上に戦えるという本質はまったくもって顧みられていません。量産型と同じエンジン、ミッションでレクサスのVersion. Fのような高性能版という位置付けでもなく、走りに対するこだわりはありません。簡単にいうとメーカーが本腰を入れて作った痛車です。

痛車は数年前、流行の黎明期ではその存在自体が非常にレアであり、目新しい車種で発見されるたびに話題となりましたが、フェラーリなど高級車の痛車が出るに至りピークを迎えた後、ニュースバリューは低下。今ではコモディティ化して、ラッピングカーの1ジャンルとして定着しています。

シャア専用も最初はこのように話題となりますけど、二匹目のどじょうを狙って雨後のタケノコのように出てくるでしょうから、シャアの神通力もどこまで通用するのでしょうか。

本来予算やアイディアはプロダクトとマーケティングのバランスをうまく保ちながら高め合うといいのですけど、マーケティングパワーが強くなる過ぎると、だいたいそのプロダクト、ひいてはメーカーの弱体化が予想されるだけに、今後のトヨタの動向に注目です。

ヨーロッパが、VWグループがハイブリッド、EVに目覚めてしまっただけに、気になります。

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