前回までのあらすじ時間をさかのぼること数か月前。流しのミニヨン・レーサー北川は行方が知れなくなっていた。そして空白の時間を声、突如黒い服の男たちに追われながら浜田、学生、ユキの前に表れた。倒れる北川、そして逃走するよう言う。
北川は代々木の焼き肉屋の前に現れ、浜田、学生、ユキと再会した。しかしもう北川の体力は限界であり、追ってきた黒い服の男たちはだんだんとその距離を縮めている。
黒い服の男たちは胸元から拳銃を取り出すと北川たちを包囲しようと近づいた。
浜田「け、拳銃? まさか、冗談でっしゃろ?」
学生「僕たち何も悪いことしてませんよ!」
ユキ「ウチのジョージに何をするっちゃ、そんな物騒なモノ、しまいなさいよ!」
何をいっても動じない黒い服の男たち。リーダー格の男が近づいてきたところの後ろから、猛スピードで迫りくるクルマがあった。
キキキキー!
間一髪、黒い服の男たちは飛び退いて空間ができたところにクルマが割り込んだ。クルマは荒々しくアクセルターンをし、後輪から白煙をもうもうと立ち上げ、代々木の狭い路地は真っ白な煙に包まれた。そしてクルマは北川たちの真横で急停車し、ドアが乱暴に空いた。
サラ「早く乗りなさい!」
浜田「サラさん! え、どういうこと」
サラ「死にたくなかったら、すぐ乗りなさい、早く!」
浜田と学生は北川を抱えて後部座席に雪崩こんだ。そのあとを素早くユキが追い、サラはドアを閉めるよりも早くクルマを急発進させた。
キュキュキュ、ブワワワーーーン!
狭い商店街をすり抜けるクルマ。黒い服の男たちはヘッドセットを使いどこかに連絡をしている。
浜田「助かりましたよ~サラさん。闇の組織に襲われるなんて、危ないところでんな」
サラ「違うわ。あれは警察よ。」
学生「えっ! どうして警察が北川さんを?」
サラは何もいわず、クルマのTVをつけた。TVではニュースをやっている。
アナウンサー「では次のニュースです。本日、国会で『ミニ四駆競争法案』が提出され、全国のミニ四駆レースが公営化される見通しとなりました。公営レースは日本ミニ四駆振興会が運営し、収益金は国税となるほか、全国のミニ四駆レースの整備や健全な青少年の育成のための補助金として有効に使われます。このように法案が提出されレースが公営化されるのは昭和23年の競馬法、自転車競技法、昭和25年の小型自動車競走法、昭和26年のモーターボート競走法以来約70年ぶりのことです。この法案提出に関し、日本ミニ四駆振興会の会長・神山良一氏は次のようなコメントを寄せています」
学生「パパ!」
神山会長「今回ミニ四駆の法案が提出されたことは誠に喜ばしいことです。現在流行している違法な賭けレースは犯罪の温床となり、反社会的行為でしたがこの法案により健全なレース活動を運営、青少年の健全な育成していくことができます。日本ミニ四駆振興会はレース運営によって得られる収益金を全国のミニ四駆レース場の設置などミニ四駆の振興にとどまらず、模型業界や技術者養成のための教育プログラムにも利用します。また書道や武道といった日本古来の文化や精神性を重んじ、日本人がもつ本来の勝負強さ、心優しさ、真面目で忍耐強い心を養っていきます。一日一膳!」
浜田「どういうこっちゃ、賭けレースを堂々とできるってことかいな?」
ユキ「そういうこと、賭けミニ四駆が合法になるっちゃ!」
学生「すごい、すごい、パパすごい」
クルマを猛スピードで飛ばすサラが口を開いた。
サラ「貴方達、何もわかってないわね。全国ミニ四駆振興会の実体は闇の組織、ダーク・ゴーストそのものよ! そして今回法案を提出することで、警察がダーク・ゴーストを摘発することができなくなったばかりか、北川さんが追われることになったのよ!」
ニュース「次のニュースです。川崎で発生した警備員殺人事件、容疑者として逮捕された北川正治32歳が警察の取り調べ中、警察官を拳銃で射殺、現在逃走中です。凶悪犯のため、警察は発見次第射殺も止むを得ないと声明をだし、市民の皆様には情報提供を呼び掛けております。」
ユキ「えっ!」
浜田「なんでやねん!」
サラ「北川さんはダーク・ゴーストの金が政治家に流れていることをつきとめたのよ。でも、一歩遅かった。ダーク・ゴーストに買われた政治家は法案を提出、警察幹部を動かし、ダーク・ゴーストを知るものを全員処分しはじめたのよ。その筆頭が北川さん、そして貴方達よ」
浜田「うそでっしゃろ!」
学生「なんで警察がそんなことするんですか! おかしいじゃないですか。サラさん、あなただって警察なんでしょう! 正義はないんですか?」
サラ「警察にね、正義か悪かなんてのはないのよ、違法かどうか、ただそれだけよ。そして上長の命令は絶対。追ってきたあの連中は私の同僚、上からの命令があって北川さんを抹殺しにきたのよ。」
学生「じゃあサラさんは...」
サラ「そうよ、命令違反よ。懲戒免職じゃ済まないわね、命だって分からない...ってほらね!」
急ハンドルを切るサラ、車内の全員がもんどりうっている。トラックが急に進路をかえ、幅寄せしてきたのだった。
サラ「奴らは本気よ、わかる、戦後以来70年ぶりの賭博の合法化という意味。今は、戦後のドサクサと同じってことよ! 無法地帯ってことね!」
サラが運転するクルマは猛スピードで走り去り、そのあとを複数台のパトカーが追いかけていった。
(つづく)
この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。
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