ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第29話 川崎 #mini4wd

前回までのあらすじ

流しのミニヨン・レーサー北川は失踪した学生の父、神山と会う。そこで神山が闇の組織ダーク・ゴーストにいる理由を聞き、ミニ四駆の未来を殺すのは北川自身だという言葉にショックを受ける。

駅員「川崎~、川崎~」

北川が横浜から乗った京浜急行は川崎駅に止まった。

北川「川崎か...厄除けにでもいくか...」

女難、そして思ったようにいかないことが続いた北川は大師線に乗り換えた。大師線の車窓からは工業地帯と、工場跡を利用して作られた巨大なショッピングセンターが見えた。車内にはたくさんのギャンブルの広告が吊下がっている。競馬、競輪、競艇...


駅に降り立ち、駅前を眺めるとそこは昔の景色のままだった。小さなパチンコ屋が軒を並べ、参道にはだるま屋がひしめきあっている。参道を抜け、公園に出た。ベンチに座っていると、遠くからフラフラと近づいてくる汚い身なりの男がいる。いわゆるホームレスだ。

昼間から酔っ払っているらしく、どす黒い顔は少し赤みがかっている。日焼けと見分けがつかない。一時は少なくなったホームレスだったが、ここ最近の景気の後退や公的年金の崩壊により急激にその姿が増えてきている。ホームレスはニヤニヤしながら、北川に声をかけてきた。

ホームレス「にぃちゃん、オレとひと勝負しないか?」

北川「勝負? 何でだ」

ホームレス「もちろん、これに決まっているだろ」

ホームレスが紙袋から取り出したのは、ボロボロになったミニ四駆だった。タイヤは凸凹のスパイクタイヤ、ボディはガリガリに削れ、ローラーも使い古されたいかにも年季の入ったマシンだった。おそらくどこかのゴミ置き場から拾ってきたのだろう。

北川「...いやオレはミニ四駆を持っていない」

北川が断るとホームレスは残念そうに、砂場の方に向かっていった。砂場では小学生たちがミニ四駆で遊んでいた。

小学生「うわ、ルンペンだ! ルンペンがきたぞ!」

小学生はホームレスをルンペンと呼んで蔑んでいた。

ルンペン(るんぺん) - 日本語俗語辞書

ルンペンとは様々な理由で定住地を持たず、公園や道路、(無許可で)公共施設などに生活をしている人のこと。ダンボールやブルーシートを使ったテントで生活する、これらルンペンが急増し、社会問題にもなっている。
ルンペンはドイツ語の"Lumpen"からきており、下村千秋の新聞小説『街のルンペン』が評判となったことから一般にも広まった。

ホームレス「なあ、ミニ四駆で勝負しないか? お前らが買ったらお小遣いやるよ、だけどオレが買ったら1000円くれよ」

小学生たちは嘲り笑った。

小学生「オレたちがルンペンになんか、負けるわけないじゃん! やろうやろう、買ったら小遣いくれよな!」

小学生が持っているミニ四駆はいずれも最新型で、綺麗にまとまっている。カーボンパーツやベアリングなど高価なパーツもふんだんに使われていて、明らかに速そうである。

砂場の壁面を利用した即席コースで、小学生数人とホームレスはミニ四駆勝負をはじめた。

北川「...所詮は酔っ払いのやることだ」

北川の想像を裏切り、ホームレスのミニ四駆は物凄い勢いで小学生の綺麗なマシンを蹴散らしていった。ホームレスの勝ちだった。

ホームレス「オレの勝ちだな、1000円くれよ」

小学生「うるさい、ルンペンのくせに生意気だぞ。どうせイカサマやったんだろう、ふざけるな!」

小学生たちはホームレスを取り囲み、お金を払うどころか罵倒した挙句に石を投げつけ始めた。

ホームレス「危ない、い、いてっ!」

北川「お前ら、やめろ、やっていいことと悪いことがあるんだぞ!」

さすがに見かねて仲裁に入った北川。小学生たちは舌打ちしながら去って行った。

北川「大丈夫か?」

ホームレス「あ、ああ、ありがとう。助かったぜ」

北川「しかしなんでまた小学生になんかに賭けレースを」

ホームレス「最近のガキは金回りがよくってなあ、意外と金もってんだぜ。いいよなあ、オレなんて食い物にも困っているのにさ。」

ホームレスは赤ら顔をさらに赤くしながら毒づいた。

ホームレス「仕事もない。行く場所もない。金がないから、ギャンブルをするしかないんだよ。この川崎はギャンブルに溢れている、競輪、競馬、競艇、パチンコ。全部ある。だからこの街にきたんだ。でも下手でいい鴨になるからさ、結局自分の好きなミニ四駆に賭けたいんだ。」

北川「ミニ四駆が好き、か...」

北川は改めてホームレスのマシンを見た。確かに外観上はボロボロだが、砂場用に組まれた駆動系はトラクション重視で、セッティングがされていた。

ホームレスは自分語りをはじめた。その昔、ミニ四駆で腕をならし、年間チャンピオンをとったこともあるという。ところが働いていた会社が倒産。その後は細々と日雇い人夫として重労働に耐えていたが、体を壊し、日雇いすらもできなくなった。そこで毎日ミニ四駆の賭けレースで生計を立てているという。腕前は相当なもので、あまりに勝ちすぎて裏組織に痛い目にあわされたり、警察の摘発を受け留置所暮らしをしたことからここ最近は賭けレース場には近寄らず、もっぱら学生相手に賭けを続けていた。

北川「なるほど、それは分かるがミニ四駆でギャンブルするのは違法だ...」

ホームレス「なんでだ。ここ川崎は競馬も競輪も、競艇だってあるんだ。どれも同じギャンブルだろう、ミニ四駆でギャンブルして何が悪い。オレはオレが好きな、一番得意なものでギャンブルする、そうでないと...ゴホッ、ゴホッゴホッ」

ホームレスは急に咳き込んだ。どうやら呼吸器系の疾患による発作らしい。

北川「...大丈夫か? 無理しないほうがいい。」

ホームレス「(ぜぇぜぇ) お前みたいな若造に何がわかる、オレは、オレはミニ四駆をしたいんだよ、一生ミニ四駆をしたかったんだ。しかし、もうこれまでだな...」

ホームレスはゆっくりと立ち上がった。そしてつぶやいた。

ホームレス「なんで、賭けミニ四駆は違法なんだよ。競馬だって、競輪だって、競艇だって同じ賭けじゃねえか、何が違うんだよ・・・賭けミニ四駆が合法だったら、オレはその中で一番になって、今頃は大金持ちになって楽に暮せたのによお...ゴホッゴホッ」

ホームレスはよろよろと数歩歩き、そして崩れ落ちた。

北川「どうした、大丈夫か、しっかりしろ!」

北川はホームレスを強く揺らしたが、ホームレスからの返事は無かった。

(つづく)

【ミニ四駆小説は平日、12:00更新予定です】

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。

ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。

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