前回までのあらすじ流しのミニヨン・レーサー北川のマシン『ブラッディ・マリー』を使う浜田と幻のキラーマシン『ホワイト・ブリザード』のユキが決勝戦で直接対決。勝負は両者リタイアでいがみ合う二人。そこへサラも加わり、現場は大混乱となった。
ショールームの2Fからレース会場を見つめる男がいた。
神山「ふふふ、すべては私の計算通りだ...」
その男は他の誰でもない、学生の父であり、レッド・ホイールの元リーダーであり、闇の組織ダーク・ゴーストに囚われている神山本人であった。その神山の後ろにそっと忍び寄る男が一人。
北川「神山、やはりお前だったのか」
神山はゆっくりと振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
神山「北川か、久しぶりだな。今日のレースは楽しめたかな。」
北川「...全部見ていただろう、あれがすべてだ。ユキのあのマシン...『ホワイト・ブリザード』はあんたの差し金か。」
神山「さあてね。ユキの実力は北川、お前がよく知っているだろう。私が手を出すまでもない。いずれにせよ『ブラッディ・マリー』は血に染まる運命だったのだよ。くっくっく...」
苦々しい表情の北川と対照的に、神山は心の底から楽しそうだ。
北川「なぜ学生をおいて、闇の組織ダーク・ゴーストに入った! お前が囚われているはずがない、そこで何をしている、何を企んでいるんだ!」
神山「家庭のことだ、お前に説明する義理はないがな...いいだろう、教えてやる。私がダーク・ゴーストにいる本当の理由を。」
神山は北川を連れて、ビルの外に出た。運河にかかる橋の上には海からの風が気持ちよく吹いている。
神山「...北川、お前はミニ四駆が好きか?」
フイをつかれ、北川は戸惑った。
北川「何をいっているんだ、好きに決まっているだろう」
神山「そうだ、お前はミニ四駆が好きだ。好きすぎて、愛しすぎて、大人になれない中途半端なガキだ。」
北川「...」
神山「いいか、これだけは覚えておけ。私はミニ四駆が好きだ、大好きだ。一生ミニ四駆を極めていきたいと思っている。ミニ四駆がこの世界に生まれて40年、その間続いてきた。続いたがどうだ、この世の中は。未だにミニ四駆のことを子供が遊ぶオモチャだと思っている。最初の30年はそうだったかも知れない。しかしこの10年を見てみろ、大人がメインユーザーとなっているじゃないか。子供から大人まで、世代を超えて楽しんでいるんだ。
ミニ四駆は大人が真剣に極めるに値するものになっているのに、認知は進んでいない。それはなぜだ? わかるか? お前に答えられるか?」
北川「...」
神山「そうさ、お前には答えられるはずがない。お前はミニ四駆が好きだが、それ以上に自分が好きだ。自分が楽しくミニ四駆ができさえすればそれでいい。自分のことさえ良ければあとは何も考えていない、自己愛が強い人間なんだ。自己愛の結晶がお前の作るミニ四駆だ、だからミニ四駆を壊せない。自分を殺すことになるからな。そんな偏狭な人間にミニ四駆の置かれている社会的立場や将来、未来のことなど考えるはずもない。」
北川「自己愛のどこが悪い! ミニ四駆は、ミニ四駆はオレ自身だ! オレがミニ四駆だ!」
神山「だからいったろう、お前は中途半端なガキだと。私がレッド・ホイールを何故脱退したか分かるか? わかるはずもないだろうから、教えてやる。あのままだと、ミニ四駆を殺すことになるからだ。誰が殺すか分かるか、お前だ。お前自身だよ。」
北川「な、なんだと!」
神山「先鋭化しすぎたミニ四駆は間口を狭め、ピラミッドの足元から崩れていく。年月とともに年齢層は上がり、高齢化、老眼になり、ミニ四駆が作れなくなる。マーケットは縮小し、ミニ四駆は廃れていくんだよ。その原因がレッド・ホイールであり、お前なんだ。だから今私はダーク・ゴーストにいる。」
北川「ばかな...」
神山「狭い世界しかみてないからそうなる。世間をみろ、世界をみろ。ダーク・ゴーストの理念は高い。ミニ四駆を遊びとして、競技としてとらえてない、ひとつの文化として考えている。文化にならなければ、この先50年、100年の歴史を作ることができないのだ。そのためには...」
神山はビルの出口から浜田と学生が出てきたの見つけた。
神山「...また会おう、さらばだ!」
神山は足早に立ち去り人混みに紛れていった。北川は呆然と立ち尽くしている。
学生「北川さん、こんなところにいたんですか!」
浜田「兄貴ィ、兄貴がいないからオレ負けちゃいましたぜ。賭け金もミニ四駆券も全部パー、大損こきましたよ、オレ、どうしたら...」
大男なのに、今日は小さくなっている浜田。
しかし北川は遠くを見つめたままだった。
北川はビルの出口から、喧々諤々を続けているサラをユキを見つけた。北川の表情がさらに曇った。
北川「...」
浜田と学生を置き去りにし、北川も人混みに紛れて立ち去った。ダーク・ゴーストの理念とは、神山の言い残したことは?
(づつく)
【ミニ四駆小説は平日、12:00更新予定です】
この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。
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