いよいよハチロク(AE86)の後継となるFT-86が発売間近です。
スペックや価格帯もおぼろげながらも、だんだんと絞り込まれてきていよいよな雰囲気を醸しています。ただこのFT-86が本当に売れるのか、そしてスポーツの起爆剤となるのか、まだよく分かりません。そこで今回検証してみたいと思います。
【スポーツ性能】
スポーツ性は物理的制約からある程度決まってきます。それはエンジンであったり、車重であったり。
ディメンジョンは
・全長 4160mm
・全幅 1760mm
・全高 1260mm
と広く、低く、短いといっていいでしょう。
・ホイールベース 2570mm
・車両重量 1200kg前後(1200kgを切る?)
車両重量についてはまだ不確定要素が強いですが、1200kgを切るスパルタンなモデルがある、という噂です。
【エンジン】
ニューヨーク国際オートショーに小型FRスポーツカー「FR-S concept」を出展 | ニュース今回のニューヨーク国際オートショーで、トヨタは、小型FRスポーツカーに搭載するスバルの水平対向エンジンに、筒内直接噴射とポート噴射を併用するトヨタのD-4S*2を採用することを公表した。世界唯一のD-4S採用の水平対向エンジンにより、高出力と高い環境性能の両立を図る。
新開発水平対向4気筒 2000cc エンジンに直噴 D4-Sを組み合わせ 200馬力を発生。車両重量が1200kgとするとパワーウェイトレシオは約 6kg/psです。
【4シーター(2 by 2)クーペ】
リアの居住性はおいといて、とりあえずシートがついている 2 by 2タイプの4シータークーペ。ハチロク(AE86)は2ドアクーペと3ドアハッチバックの 2種類ラインナップされていましたが、FT-86にハッチバックモデルはありません。
【デザイン】
なかなかカッコイイデザインだと思いますが、あとは人の好き好きでしょう。ただ一つ気になるのは、ハチロクと共通するアイコンはひとつもない、という点です。
【ターゲットユーザー】
トヨタ「FT-86 Concept」、新ハチロクの開発目標はドリフト性能世界一 - トレンド - 日経トレンディネットメインターゲットは40~50代の男性。つまり80年代の若いころに、かつての「ハチロク」に乗っていた、あるいは憧れていた人々だ。「目指すのは、オヤジがカッコよく見えるクルマ。運転するお父さんを見て、息子が自分も乗ってみたい、運転したいという憧れや夢を抱くクルマにしたい」と多田氏はいう。そしてオジサンたちの楽しそうな姿から、若い人にも関心が広がってほしいと考えている。
アラフォーからアラフィフ、我々「オッサン」世代がターゲットです。
【疑問点】
とまあスペックやデザインなどを見てきたわけですが、多少疑問点がでてきます。違和感というか、心配というか、こうなんとなくしこりがあるんです。それを振り返ってみましょう。
・運動性能
まずエンジンと車両重量の関係から。200馬力 1200kg、パワーウェイトレシオ 6kg/psというスペック。歴代FR車と比較してみましょう。
RX-7 280馬力 1280kg 4.57kg/ps
MR-2 GT 245馬力 1260kg 5.14kg/ps
S2000 242馬力 1250kg 5.16kg/ps
シルビア(PS13) 205馬力 1150kg 5.61kg/ps
RX-8 235馬力 1350kg 5.74kg/ps
FT-86 200馬力 1200kg 6.00kg/ps
アルテッツア 210馬力 1350kg 6.42kg/ps
マツダロードスター 170馬力 1100kg 6.47kg/ps
AE86 120馬力 900kg 7.5kg/ps
86の再来と期待されたアルテッツァよりも加速性能は良さそうですが、現行RX-8の他 FD3S、SW20、S2000、S13などには及びません。オプション装備をつけて重くなるとさらに不利です。
・重量バランス
もちろん他のRX-7, RX-8, ロードスター、S2000、ちょっとユーザー層は違いますがBMWのFRと同じく50:50を実現すると思いますが、問題はそのエンジン搭載位置。
水平対向エンジンの重心が低いのはいいのですが、左右に別れたヘッド、排気をとりまわすために取り付け位置を低くできない点、車軸(アクスル)より前にでている部分があることなどが懸念点です。
▼誠 Style:技術コンセプトモデル「SUBARU BRZ PROLOGUE」出展
RX-7, RX-8は軽量コンパクトなロータリーエンジンをなるべく後方にマウント、ロードスターやS2000では2シーターとしシンプルな直列4気筒エンジンを完全に前車軸の後ろ側にマウントするフロントミッドシップ(アクスルビハインドミッドシップ)とするなど、各車エンジン搭載位置を気にしています。
FT-86でもなるべく後方にマウントしたといっていますが、はたしてその効果はいかに。BMWはバッテリーをエンジンルームじゃなくてトランクに配置したりしますから、そういう小技にも期待したいところ。
・サスペンション性能
フロントストラット、リアマルチリンクとなっています。RX-7, RX-8, ロードスター, S2000、さらにアルテッツアまでもがフロント・リアダブルウィッシュボーンを採用するのに対してフロントがストラットなのはどうしてでしょうか。
もともとラリーに出ることを考えたインプレッサの場合は構造がシンプルで整備しやすいストラットを採用していますが、それをベースにしたからというのが大きいでしょう。またダブルウィッシュボーンはアッパーアームの取り付け位置の制約が大きく、左右に広い水平対向エンジンでは取り付けることができなかったのかもしれません。
・デザイン
ハチロクを持っていた、憧れていた世代にとって今回のFT-86のデザインは余りにもかけ離れており、昔の面影をみることができません。もちろんカッコイイのですけど、40代50代ともなると派手で目立つことよりも羊を被った狼の方が良いことも。もう少し落ち着いたデザインか、ハチロクを彷彿とさせるネオクラシックなデザインの方が無難だったかもしれません。
このデザインは20代、デート向きでしょうかね。そのためか、アメリカでは若者向けブランド、サイオンでFR-Sとして発売予定です。
ニューヨーク国際オートショーに小型FRスポーツカー「FR-S concept」を出展 | ニュースなお、トヨタは、米国では小型FRスポーツカーをScionブランドより、販売する予定である。
・クーペボディ
デートといえば、クーペ。リアシートはついていますが、実質物置です。さてハチロクが出た頃は「スペシャリティカー」「デートカー」というジャンルがあり、ソアラを筆頭にプレリュード、シルビアなどがそれに当たりました。そういう意味ではこのFT-86もその流れを汲んでいるのかも知れません。
しかし時代は移り変わり、いまや平均乗車率は1.5人。デートとかそういう話は抜きにして、実際問題クルマは一人で乗ることがメインとなってきたのです。
そう考えると4シーターにこだわる必要はなかったのでは? という疑問が。一人で通勤やドライブ、たまにデートで2名乗車する位であればリアシートは排除してユーティリティに回した方が、室内の設計の自由度が広くなり重量配分を改善したりできたはず。
特にハッチバックでなくトランクにしてしまった点が残念。ハッチバックであればシートを倒して2シーター化でき、荷物がたくさん載せられます。昔と違ってタイヤそのままで峠にいってドリフト、という時代ではありません。いまやドリフトのメインステージはサーキット。
ドリフトやサーキット走行をすることを考えるとタイヤ搭載能力は大事。最低でも1セット4本、できれば6本から8本は載せたいところ。しかし現状ではよくて室内に2本、トランクに1本で3本くらいでしょうか?
(追記)通常サイズのタイヤが4本載せられるとのこと。
見えた! FT-86 数々の新事実 【Fuji86スタイル2011】 | clicccar クリッカー・全幅とタイヤサイズは?
⇒ AE86はサーキットへ行く際のスペア・パーツもちゃんと載せれたので、FT‐86でもレーシングタイヤが4本載るように配慮している。タイヤサイズは世の中に多く出ている通常サイズの物で特別大きい物では無い。ちなみにFT-86Ⅱに履かせたタイヤは18インチサイズ。
・・・
とまあ色々と考えてみると多少チグハグ感がなくもないんです。ピュアスポーツというほどパワーがあるわけでもなく、ドリフトという割にはタイヤが積めるわけでもなく、86というわりにはハチロク(AE86)には似ておらず、ターゲットユーザーは40代50代の「オッサン」という割にはサイオン(若者向け)ブランドでの販売。
流麗なデザインでクーペボディ、FRでハチロクの後継と考えると・・・どちらかというとS13シルビアの再来です。
そうです、ハチロク(AE86)をリメイクしたら、なぜか日産シルビアになってました。な、なぜ?
実際ハチロクよりもパワフルで流麗なデザイン、デートにもドリフトにもいいS13シルビアは大ヒット。そういう意味では悪くないのですが時代が違います。当時ハチロクやS13に乗っていた、憧れていた我々ターゲットユーザーは今や「オッサン」世代なんですよ。
いくら「アラフォー」っていってもオッサンはオッサン。体力的にも衰えがあるし、子供もそれなりに大きくなり家族の目に世間の目があります。かつてエンジンルームの中身はもちろん、外見を派手にしたこともありましたが、いまやお小遣いでコツコツとチューン、いや現状維持するようなクルマライフに移行していくお年頃。
そうなるとちょっとこの若若しいのはどうなんでしょうねえ。
そうなるともうお値段の問題じゃないんですよね。アラフォーにとってクルマとは
欲しければなんとしてでも買う!
というものであり、250万円だと高い、220万なら買う、200万なら絶対買うといったようなものじゃないんですよ。だって貧乏学生なのにアルバイトしてお金ためてクルマ買うほど。それに比べれば今の収入はアルバイトとは異なるレンジで250万でも300万でもさほど違いません。いやいいものが安ければそれに越したことはないんですが、経済力が学生時代と圧倒的に違うので、200万円切らないと買えない、という話ではないと思うんです。
値段のファクターよりももっと他に気にしなければならないファクターが多い、というのがアラフォーの悩みのはず。
それが家族の目であったり、世間の目であるわけです。その点、この「若すぎる」デザインはちょっと荷が重いかも。
【買うの買わないの?】
現S2000オーナーで、RX-7(FD3S)元共同オーナー、KP61・S13元オーナーとして注目してないはずはありません。で、その立場からいうと
・絶対的パフォーマンスが足りない
サーキットタイムアタックをするにはパフォーマンスが不足気味。FD3Sは255ps、S2000は250ps、他2L NAエンジンでも200psオーバーは当たり前。ドリフト時は大トルクが欲しいのですが、NAだと心許ありません。
・3HBではない
サーキットタイムアタック、ドリフトしにいこうと思った時にタイヤがつめない、積みにくいクーペボディは不利。
・屋根があかない
パフォーマンスやドリフトじゃない、じゃあワインディングを楽しくドライブだというときにオープンカーはやっぱりいいものです。その点ロードスターやS2000はオープンで気分爽快。
と考えると意外にも微妙なんですね。たとえばパフォーマンスを追求してターボで200~250psだったり、3HBで2シーター、タイヤがたくさん積めるとか、もう少し振った形ができたように思いますね。なんでもやろうとして欲張って、詰め込んでみたらこうなった、みたいな落とし所っぽいです。
でもやっぱり一番の問題はどこからどうみてもハチロク(AE86)に似てない、という点かと。
ハチロクに似て一見すると古いクルマなんだけど実は最新という、いわゆる「VWビートル」や「BMW MINI」「FIAT 500」といったネオクラシックなデザインだったらよかったんですけどね。
MINIは上手く新しいユーザー層を取り込んで1車種でカブリオレ、クラブマン、クロスオーバー、クーペとバリエーションをどんどんと増やしています。
心配事は多いのですが、あとはもう実車をみて試乗してみないと分かりませんね。もしかしたらハンドリングが極上かもしれませんし。でもなあ、やっぱ形がハチロクっぽかったらよかったのになあ。
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ますます派手になってる??
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