昨年2010年までF1にタイヤを供給していたブリヂストン。その統括である浜島さん、愛称「ハミー」による本です。世界を制した人が書くF1の世界、タイヤ競争の世界、そしてF1ドライバーの実情の話が面白くないはずがありません。一気に読了してしまいました。
すべての話が興味深く、それこそ全文引用したいほど。その中から特に印象深い話をいくつかピックアップ。
【ラップタイムから楽しむ、F1観戦の仕方】
タイヤのタレ、交換タイミングによる戦略を楽しむのもF1の醍醐味のひとつ。そこで鍵となるのはラップタイムとラップタイムの変化。
フレッシュタイヤでスタートした場合3周目くらいがピークで、15周位でタイムが落ち込みます。そこでタイヤを交換するわけですが、このラップタイムの変化、オチ方をみてピットインするタイミングを決めるのですが、それはラップタイム、区間タイムを見ていればある程度予測できるとのこと。
そうなるとラップタイムを知りたいわけですが、そんなとき便利なのが iPhone/iPadアプリF1™ 2011 Timing App - Championship Pass - Soft Pauer です。
このアプリ、ちょっとお値段ははりますがシーズン後半ということもあって値下がりしていますので今からでも買ってもよいですよ。
ラップタイム、区間タイムはもちろん、どこを走っているか、お気に入りの選手をマークして前後選手の差を表示したりなど機能てんこもり。浜島さんのいうラップタイムの変化が手に取るように分かります。
FIAの公式アプリで、解説の人が見ているのとまったく同じデータが手に入るんです!
昨年のF1鈴鹿では iPadを片手にラップタイムを見ながら観戦。そうです、カンガルーTVいらず! まあ映像はありませんが。
ピットインしたかどうかもリアルタイムで分かるので、「あれ?」ということもなく状況を把握できますよ。これを使ってチーム戦略を予測したり、誰がどうなるのか予想するのも楽しいです。
【タイヤにやさしい運転とは】
タイヤの限界値を100とすると、105は行き過ぎで、95では足りません。パッとステアリングを切ったときに100にピタッと合わせられるとラップタイムが速く、摩耗も少ないとのこと。
摩耗が進むのはタイヤの限界を超えてしまったとき。縦方向の摩耗と横方向の摩耗があって、筋状(波状)にあとが出るので、それでタイヤのつかい方がだいたいわかるそうです。
そして面白いのがダウンフォースの使い方。ダウンフォースが足りないとリアタイヤが空転してラップタイムは落ちるし摩耗も進む、という悪循環に。適正なダウンフォースだとリアタイヤがグリップ、ラップタイムはいいし、摩耗も少ないというんです。グリップしている方が摩耗が少ないだなんて、不思議ですけどそれが現実みたいです。
その摩耗ですが、タイヤのゴムは減っても1.5mmほどだといいます。盛大にタイヤカスが出ているので相当ゴムが減っている印象でしたが、たったの1.5mm。ずいぶんと少ないです。
タイヤにやさしいドライバーはタイヤが摩耗してグリップ力が落ちたところでも、うまくコントロールしてラップタイムの落ちを食い止めることができるとのこと。そうなるとさきほどのピットイン戦略に幅が出てくるので、より有利になるんですね。
つまりタイヤのグリップがあるときに速いのは一流、グリップが落ちてきたときに速いのは超一流というわけです。
【コミュニケーションが一番大事】
もう最後はテクニカルな話ではありません。人と人とが通じるにはコミュニケーションだもっとも大事と。それは流ちょうな英語が必須、というわけではなく、いかに相手に伝えたいか、情熱を持つことだといいます。英語力が足りなくても、情熱が伝われば相手がきちんと聞いてくれると。
確かに語学力が足りないとつい喋らないで済ませようとしがちですが、それでは心は開けません。
相手の懐にとびこみ、仲間と認めてもらうためにはコミュニケーションしかないのです。
特にF1という狭い特別な世界。そこに極東のタイヤメーカーのサラリーマンが飛び込んでいくのは並大抵のことではありません。
ヨーロッパで認められ、栄冠を勝ち取るまで。努力と実績が認められて「ハミー」の愛称で呼ばれるようになったサラリーマン。まさに日本のサラリーマンの星ではないでしょうか。
F1が好きな人、クルマが好きなひと、そしてマネジメント、海外進出を考えている人にもお勧めです。