過去を捨てる日本人、過去に目を向ける日本人:和田智著「未来のつくりかた」

元audiデザイナー 和田智さんの本。当たり前だけど絵がうまい!!w

11年間Audiデザイナーとして活躍した和田智さんが書いた本。車のデザインの話かと思いきや、それはほんの一部。一貫したテーマは「日本文化とは何か、日本人とはなにか、日本とはなにか」です。

「過去の全否定」をくりかえす日本

序章「はじめに」のテーマはこの「『過去の全否定』をくりかえす日本」です。これは「ベルツの日記」からの引用。

エルヴィン・フォン・ベルツ - Wikipedia

文化人類学的素養を備えていた彼は、当時の日本の状況を的確に分析・把握し、それを基にして、当時の日本の状況に無理解な同僚のお雇い教師たちを鋭く批判していたことがわかる。さらに、彼の批判は日本の知識人たちにも及ぶ。

不思議なことに、今の日本人は自分自身の過去についてはなにも知りたくないのだ。それどころか、教養人たちはそれを恥じてさえいる。「いや、なにもかもすべて野蛮でした」、「われわれには歴史はありません。われわれの歴史は今、始まるのです」という日本人さえいる。このような現象は急激な変化に対する反動から来ることはわかるが、大変不快なものである。日本人たちがこのように自国固有の文化を軽視すれば、かえって外国人の信頼を得ることにはならない。なにより、今の日本に必要なのはまず日本文化の所産のすべての貴重なものを検討し、これを現在と将来の要求に、ことさらゆっくりと慎重に適応させることなのだ。

無条件に西洋の文化を受け入れようとする日本人に対する手厳しい批判が述べられている。また、注目すべきは、外国人教師である彼が、日本固有の伝統文化の再評価をおこなうべきことを主張している点である。西洋科学の教師として日本にやって来たにもかかわらず、その優れた手法を押し付けるのではなく、あまりに性急にそのすべてを取り入れようとする日本人の姿勢を批判し、的確な助言をしていることは驚くべきことである。

ベルツ氏とは明治初期、西洋文化を性急に取り入れようとして明治政府が招聘した医学者。1876年東京大学医学部(東京医学校)教師として来日しています。

そして和田智氏はさらに同じことが太平洋戦争後にあったと指摘。

そして第二次世界大戦の敗戦。日本はまたしても過去を否定せざるを得ない状況、完全にリセット状態に陥りました。これまでのすべてを切り捨て、未来だけが日本人にとっての生きる希望になったのです。知識人の間では再び、戦前の日本文化に対する全否定的な評価が流行し、新しいものだけが最大の価値になりました。

和田智著「未来のつくりかた」 p.12

たしかに「新しいもの」に目をむけれれば「未来」につながるような気がするのですが果たしてそうなのでしょうか? 実際にはそうではなかったと和田氏はいいます。

日本はなにかにつけ、明日を急いできました。それはデザインや製造業だけに限らず、すべての分野について言えることでしょう。先を急ぐことによって、大切に持ち続けるべき何かをあちこちに落としながらここまで来てしまったような気がします。

和田智著「未来のつくりかた」 p.14

311後のエネルギー問題についても同じことがいえます。地震と津波によって原発は破壊され、いまなお放射性物質の漏えいと戦いつづけています。確かに怖いことで、危険なことです。

そして原発を推進してきた過去を全否定して、自然エネルギーに一気に舵を切ろうとしています。これは知識人、政治家はもちろん、我々日本人が後押し。

これまで原発に支えられた潤沢な電力を湯水のように使い、夜が消えて昼間同様に明るくなった日本。すべてが電化されエレベーターにエスカレーター、クーラーがんがんにつけて冷え冷えにした電車、そういった便利さを享受して文化的生活を謳歌したのは他でもない我々日本人だったにもかかわらず、です。

そして再び同じことを繰り返そうとしています。自然エネルギーへの急激なシフト、原子力発電を安全に収束させることをきちんとしないまま、新しい、未知の世界へと行こうというのですからまた何かをおとしまくり、欠落して偏った日本になりそうではあります。

そんな日本の傾向に、ドイツでドイツ文化について触れて考えされられた和田さんは日本の文化に目を向けます。

私も少ない留学経験で、同じようにアイデンティティについて、日本について改めて考えることができました。今ほとんどアクセスもされないにもかかわらず、石垣をフィーチャーしてブログするのはそんな「日本文化」「日本さがし」の旅の一環。

未来だけを見るのではなく、過去に対する敬意を持ち、今を解釈し、未来をデザインする。アウディで仕事をしていくうちに、「新しさ」とはそうのようなものであると解釈するようになりました。

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デザインとは、過去と今、そして未来をつなげること

和田智著「未来のつくりかた」 p.14

深いですね。日本の輝かしい未来を作るため、過去と今、そして未来をつなげていこうではありません。そのためにも過去に目を向け、本質を見抜き、日本人とは何か、日本文化とはなにか、日本はなにかをつきつめていきたいものです。

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次回紹介する本は日産のデザインの統括を行っている、中村史郎さんの「ニホンのクルマのカタチの話」です。お楽しみに。あら、こちらも「ニホン」がついてますね。