舘内端さんが次世代自動車開発の背景、現状をまとめた書「エコカー激突 次世代エコカー開発競争の真実」を読みました。
これはいい本です。単純に電気自動車の開発だけではなく、エネルギー危機やエコブームなどの社会背景をうまく説明し、その上で次世代自動車の開発の歴史と将来の展望についてまとめてます。
まず舘内端さんについて。
舘内端 - Wikipedia
舘内さんはレーシングエンジニアにして自動車評論家。1994年、突然電気自動車に舵をきりそれ以来EV一筋15年という方です。私が自動車に目覚めて車雑誌を読み漁り、もっとも信頼できる自動車評論家として名前を覚えたのはこの方でした。
実は就職活動時、これからの時代はEVだろうと自動車メーカー、しかも電気自動車をてがけているところをリサーチしたのですが、当時は東京R&Dくらいしかなく、専門もちょっと違うので結局断念した経緯もあります。一応専攻は電気電子工学だったのですが、専門は情報工学だったので。
そんな舘内さんは、ある意味「EVに偏向している」人といってもいいのですが、この本ではそれを抜きにしても今後起きるドラスティックな変化を予言しています。
この本の面白いところは、エネルギーについての説明に8割を割いているところ。電気自動車の構造がどうとかというのは本当に瑣末なことで、産業革命以来、人類の発展とエネルギーがどれだけシンクロしてるかをきちんと説明しています。その上で現在の石油依存の体質、そして数年では枯渇しないが、数十年で枯渇または価格高騰により入手困難となる未来をデータを元に丁寧に説明しています。
舘内さん自身は「エコ」シンパでも、環境問題はウソだという立場でもありません。次世代エネルギー自動車の開発について、
「マーケットの要求だ」
とバッサリ斬ってます。つまり科学的に地球温暖化するか否か、石油が枯渇するか否かはいったん置いといて、社会的に「ガソリン車以外のエコカー」を希求している結果としています。自身は15年前から電気自動車に舵を切り、当然電気自動車の未来を信じているのですが、なかなかにしてドライです。
15年前といえばまだバブルの残光があり、自動車といえばNSXやGT-R、Z32にFD3S、S14とターボ車・スポーツカーが華やかな頃。軽自動車といえばビートにAZ-1、カプチーノといった趣味車が販売されて時代です。
さらにいえばオゾン層の破壊問題に対してまだフロンガスの規制が入ってない頃ですし、環境ホルモンについてはその名前すらあがっていません。ハウスシックの原因となる有機溶剤も規制が入ってない頃です。環八道路はディーゼルの黒煙でもうもうとし、向こう側が見えないほど。
そんな時代ですから地球温暖化やエコなんて、振り向く人はいませんでした。あるとすれば燃費やNOx排出ガスのクリーン化など。代替エネルギーについて真剣には論議されていません。
しかしついに時代はきたんです。いうなれば舘内さんの時代に。ですからこの書はまさに予言の書。
ダイレクトにはいいませんけど、舘内さんは本書で暗喩しています。
「もう生き残るメーカー、なくなるメーカーは決まった」と。
私が解釈するに、生き残るメーカーとはトヨタとホンダ。これはハイブリッド車の開発、販売を通して得られた「特許」が生きるというのです。トヨタのシリーズ・パラレルハイブリッドは構造が複雑で、高性能で中級車から高級車に向いています。一方シンプルなホンダのパラレルハイブリッドは安価で、小型車に向いています。つまりトヨタ、ホンダが張り巡らせた特許で、後発メーカーはハイブリッドを作る余地がない、もしくは特許料を払って作らざるを得ないのです。
この術中にはまったのが、富士重工であり、マツダです。もはやトヨタの軍門に下るほか生きる道がありません。
そして海外メーカー、BMWやベンツといったメーカーもハイブリッドを作るものの利益率の高い高級車でしかハイブリッドを展開できません。小型車では高い特許料を払うとリザヤがなくなってしまうからです。
そこでにっちもさっちもいかなくなった他のメーカーはEV(電気自動車)に活路を見出して、一気に舵をきったのが今年、2009年。
モーターショー必見の最新エコカーは・コラムニスト舘内端さんに聞く | NIKKEI NET 日経Ecolomy:インタビュー - インタビュー私のイチオシは日産の電気自動車「リーフ」です。その理由はまず電気自動車(EV)であること。次に量産するということ。しかもその生産規模がとりあえず5万台で来年秋か年末には発売され、2012年には20万台に拡大することです。まさに本格的なEV時代の到来といえます。
日産は現時点では世界のEV市場でトップメーカーだといえます。どこも追いつけない。三菱自動車はアイ・ミーブで先行しましたが、台数的には日産には追いつけませんね。
日産がそれだけEVの量産に踏み切るにはかなりの投資が必要になります。電池工場だけでもかなりの金額を投じる必要が出てくる。おそらく5000億円近い投資を決断したのではにないかと私は見ています。これはすごい。その日産のEV戦略を代表するのがリーフです。
いままで日産はトヨタ、ホンダと比べるとエコカー戦略に遅れていた印象が強かったのですが、この明確なEV戦略でハイブリッドのトヨタとがっぷり四つの戦いとなるでしょうね。日産ブースが「ゼロ・エミッション」を前面に出していることも、エコカー市場に本気で打って出ることを印象付けています。
電気自動車であればまだブルーオーシャン、これからでも巻き返せるのです。ハイブリッドはもはや雌雄は決してしまいました。
さてディーゼルはどうなってしまったのでしょう。2000年前半はディーゼルが脚光を浴びていましたが、それはヨーロッパでの軽油の値段が安かったから。それがガソリンと同様の値段となってしまうとコストメリットが薄れ、燃費向上も限界が見えて打ち止め。そういった背景もあってヨーロッパメーカーも一気に電気自動車に舵をきっているのです。
現在VWグループが直噴ターボにDSGを組み合わせて、ダウンサイジングによる燃費向上を行い目覚しい性能を発揮しています。しかしこのDSGも舘内さんによると、
「あと10年の技術」
とバッサリ。電気自動車ではトランスミッション、クラッチなどいらなくなり、部品点数の削減、軽量化ができるからです。今はいいけど、未来がない技術とのこと。
確かにあの「他のメーカーのやらないことをやる」ホンダが、直噴エンジンに手を出さず(1つエンジンを出したがすぐにディスコン)、ツインクラッチオートマをいっさい出してないのが不気味でしたが10年先を見通せば自明だったんですね。そんなことよりもやることがあるだろうと。そして今回ハイブリッドだけではなく超小型電気自動車の展開も暗示しています。
そんなことを考えつつ、今年の東京モーターショー2009を見ると非常に面白いでしょう。メーカーの枠組みが、ハイブリッドや電気自動車の新しい勢力図で塗り替えられていくからです。海外メーカーがでてきていないのがひとつの表れ。アメリカのビッグスリーはいくらあがいてもトヨタの後塵を拝し、電気自動車で巻き返しをはかっても浮上できないおそれだってあります。
さて、最後の方でようやく電気自動車について触れています。
日産TMSのツイッターへの一般の方の質問をみていてもよく分かるのですが、結局我々は未だガソリン自動車の延長線上でしか電気自動車をとらえていません。よくきかれる質問が、
・充電時間はどれくらい(ガソリンなら数分で満タンになる)
・充電はどこでできるの?(ガソリンスタンドなら全国各地にある)
・1回の充電でどれくらい走れるの?(ガソリン満タンなら400kmは走れる)
といったところ。しかしガソリンスタンドは100年前はどこにもありませんでしたよね。
ガソリン車が今こうやって快適に走れるのは、ガソリン車自身の話だけではなく社会インフラが整っているから。逆にいえばガソリンなんて火気厳禁で、ポリタンクに入れて火災発生とか、ガソリン携行缶に入れて保存するとか意外と不便なものなんです。匂いはきついし、手は汚れるし。
よくいわれる航続距離についても、今時行き先も決めず、数百キロも途中給油するポイントなく走ることなんてないでしょう。夜のドライブに洒落込み、
「これから朝日を見に行こう」
なんて女性を口説いて、明け方まで走るなんて90'sなことしないでしょう? 今は必ず「目的地を入力してください」とカーナビに言われる始末ですよ。
そういったパラダイムの変化、電気自動車を前提とした社会インフラの整備、われわれ利用者のマインドセットの転換も求められているのです。
電気はいいですよ。だって安全だし、爆発しないし、貯蔵もできるし、日本全国どこいってもどこにでもあるんですから。ちょっぴりピリピリすることもありますけど、アースさえとっておけば大丈夫。
そんな世界を強力に推進するのは日産自動車。
[ #tms09 ]Giz Explains:ゼロ・エミッションってなあに? 電気自動車の作る未来 : Gizmodo Japan(ギズモード・ジャパン), ガジェット情報満載ブログ
自動車は交通機関のひとつ。と割り切って考えれば今以上に便利な乗り物になる可能性を秘めています。特に自然エネルギーとの親和性が高く、グーグルも注目してます。グーグルはあくまでもクラウドサーバーの電源としてですけどね。
不況に地球温暖化にと、従来内燃機関を使った自動車の先行きは暗いですが、次世代自動車の未来は面白いですよ。是非そんな未来をかいま見たい方にオススメします。
NIKKEI NET 日経Ecolomy:連載コラム - 2012年次世代車爆発――生き残るメーカーは(舘内端)