本当にAmazonのお勧めメールは末恐ろしいです。
ぴょーんとメールが入ってきてお勧めされたのが、ケルベロス・サーガ20年史を1冊にまとめたこの「ケルベロス 東京市街戦 首都警特機隊全記録」です。押井守監督のある意味ライフワークともなったケルベロス・サーガを1冊にまとめた、マニア垂涎のアルバムといっていいでしょう。とはいえ3秒も長考して、ポチっとしました。
架空、フィクションの戦後史なわけなのでまあ絵空事といってしまえばそれまでなのですが、60年安保、全共闘時代といった世相に深く影響された世代の厭世観、日本社会に対する姿勢というのものが伺いしれます。
しかしこの本のもっとも重要なのはそこではありませんでした・・・
特別収録「押井守ロングインタビュー」
これが非常に読み応えがあり、しかも発見がありました。ケルベロス発祥の原点がまさかアレだったとは(以下ネタばれあり)
最初の実写映画「赤い眼鏡」からして、もうそのボタンの掛け違いは明白でした。
押井守監督なわけなので、そりゃあもう素敵にすべてが用意周到に計画されているかと思いきや、どうも様子が違うのです。もちろんある意味「冗談企画」といった側面や、本業の息抜きで作った、自主制作映画だったのでしょうが面子が凄い。ようはかかわった全員がプロで、その道の一流だったわけです。一流が遊びにせよやった仕事は一流。その中でもっともヤバかったのが、ケルベロスのプロテクトギア(ボディスーツ)。
発想の原点は「うる星やつら」に出てきた、千葉繁演ずる「メガネ」が自分で作ったパワードスーツ。それがチーム編成になった瞬間に、ゴレンジャーなどの戦隊モノにシフト。戦隊モノだった名残はキャラクターの名前にでていて、それぞれ色にちなんだ名前になっています(紅、翠など)。
ところがここに出淵裕氏が入って路線変更。イメージはドイツ親衛隊とミリタリー色が入ってあのデザイン、そして色は黒になって、従来のパワードスーツ、戦隊モノの色は払拭されてしまったわけです。
逆にこのデザインに世界観が大きく影響されたそうです。だからプロテクトギアのデザインありきの作品が、このケルベロス・サーガをかたどっているわけです。つまりこのプロテクト・ギアが登場、活躍する世界観をあとづけて考えてまとめあげたのが、押井守監督ということになります。
発祥は本当に偶然で、行き当たりバッタリで行き着いた先がこれだった、という感じ。しかもその完成度が意外にも高くなってしまったわけです。
さてもうひとつ。先日『「新世紀メディア論:新聞・雑誌が死ぬ前に」はメディア再生の福音となるか ([の] のまのしわざ)』でご紹介した、「新世紀メディア論」の出版記念パーティ「こばへんの変」に行ってきました。
著者小林弘人さんの愛称が「こばへん」なのですが、パーティには出版界、ネット界の重鎮がずらり。さらにはパール兄弟で有名なサエキけんぞうさんもいらしており、小林さんと一見区別がつかないほど似てることを再確認しました。それはともかく、出版界とネット界のハブになっているこばへんさんの人脈の広さと、影響力の大きさに改めて驚いたしだいです。
さてそのこばへんさんが立ち上げた月刊誌「サイゾー」で<異色対談>として押井守X大鶴義丹さんの対談が掲載されています。
そこで興味深かったのが、大鶴義丹が出演している「安寿子の靴」を宮崎駿、高畑勲さんと一緒に別荘にいったときに持っていって見たところ、三つ巴の大喧嘩になったというエピソード。
ある企画を一緒にやっていたときの参考作品としてもっていったのに、
そしたら宮さん(宮崎駿)はボロクソでさ。小さな女の子を連れて回る話自体は宮さんにぴったりなんだけど、ああいう俗っぽいものは宮さんは一切やらない。きれいなものはきれいに語って何が悪いっていうのが宮さんだから。
そこに高畑さんまで交えて三つ巴になったと。さらになぜかその現場に宮崎監督の息子さん、「ゲド戦記」の宮崎吾郎監督までいて、
彼は当時高校生くらいだったんだけど、すごく夢中になって見ていて、どっぷりはまっちゃった。その後「あの続きはないの?」って父親の宮さんに聞いたらしくて、宮さんはそれでショックを受けた(笑)
ちなみに宮崎吾郎監督は私と同じ年。
ここで浮き彫りになってくるのはやはり世代というもの。宮崎親子は当然親子なので1世代違い、押井守監督はだいたいその中間くらいで0.5世代違うと考えてよいでしょう。上の世代は極端なはなし同じようなものをみて、同じように感じているのではないかと、私なんかは考え勝ちなのですが、さきほど出した、60年安保と全共闘時代というのは実は10年ほど違っていて、こういった活動に参加、影響されたのはたとえ0.5世代であっても明確に違うのではないかと。
現代社会でいえばバブル世代であったり、就職氷河期、76世代であったり、ゆとり世代など色々世代に細かく分類できます。これをいっしょくたにすることも、もちろんできますけどやっぱり乱暴なのかなと。とすると戦後世代を60年安保だ、全共闘時代だというのをいっしょくたにするのもきっと乱暴なのでしょう。
そしてそれが明確な形で現れているのが、宮崎駿、押井守、宮崎吾郎という監督であり、作品なのかと。
この対談はさらにケルベロス・サーガにも触れます。
大鶴 僕は10代の頃に押井さんが原作を書かれた、「犬狼伝説」という漫画を読んで、親父(唐十郎)に「これ、好きな世界じゃない?」って勧めたことがあるんです。ケルベロスのプロテクトギアとか戦後の世界観に、親父と似た匂いを感じて。親父は「これは面白い。芝居で使わせてもらおう」って喜んで読んでました(笑)。
押井守監督は尊敬する唐十郎さんにまさかケルベロスを読まれているとは思ってもみなかったらしく、
押井 あちゃあ・・・それはキツイな・・・。
と言葉を失っていました。それもそうですね、まさかあんな適当でいきあたりばったりで、辻褄あわせの作品が尊敬する人に評価されちゃったわけですから。
とはいえ、その完成度はやはり高いわけですから今一度ケルベロス・サーガを復習、押井守監督の辻褄あわせの妙を知りたい方はぜひどうぞ。
ケルベロス東京市街戦首都警特機隊全記録 (Gakken Mook)