押井守と宮崎駿の愛憎と確執

「崖の上のポニョ」が公開されましたが、来週末には押井守監督作品「スカイ・クロラ」が公開されます。もはや20年以上に渡る因縁の対決、押井守監督と宮崎駿監督のガチンコ映画公開バトル勃発です。

『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』押井守監督記者会見 - 押井守監督最新作 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト

それとあのジブリの巨匠(宮崎駿)の話なんですが、どうしても昔からの巡り合わせとして、結構バッティングするんです。思い起こせば『ビューティフル・ドリーマー(うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー)』も『パト2(機動警察パトレイバー2 the Movie)』もそうでしたね。節目節目になると必ずバッティングするんです。昨今は、あの人と喧嘩するのも疲れてしまうのでほとんど会ってないのですが、僕は縁だと思っています。何だか知らないけれど、お互いが転機になったときに必ず映画の公開がバッティングするんです。漏れ聞くうわさによると今やっている『ポニョ(崖の上のポニョ)』も宮さん(宮崎駿)にとって転機の作品のようです。僕はバッティングすることに関しては構わないし、面白いと思っています。競合するとも思っていないし、お互いにまだやっていたのねという感じです。

押井守監督は「空中戦」に自信をもっていて、宮崎監督を挑発してます。

『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』押井守監督記者会見 - 押井守監督最新作 映画「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」公式サイト

恐らく今まで誰もやったことがない空中戦が見られるだろうと思っています。空中戦に関しては、宮さん(宮崎駿監督)よりも自信があります。あの人は自分が一番上手いはずだと主張しているけれど(笑)。

宮崎駿の空中戦といえば「紅の豚」ですが、この空中戦については押井守はこう評しています。

押井:だってさ、あれ(「紅の豚」の飛行艇)が本当にかっこいいかって話だよね。あのイタリアの戦闘飛行艇ってやつ。サボイア・マルケッティだかなんか知らないけどさ、あれは大嫌いだもんね。

あれで空戦するという発想自体むちゃくちゃ、あんなのあり得ないよ。水上飛行機のほうがまだまし。

「戦争のリアル」 押井守・岡部いさく p.298

そもそも押井守監督はアニメでデザインされた戦闘機で、実在する戦闘機よりかっこいいものはないという持論をもっています。特にジェット戦闘機。

押井:あれ(複座のハリアー)はね、アニメーションでデザインしているあらゆる戦闘機よりかっこいいよ。アニメの戦闘機って絶対ダメだね。

だから「スカイ・クロラ」ではレシプロ戦闘機で勝負に出たんだからさ。「しかもプッシャー(機体後部にエンジンを搭載、プロペラの推進力で機体を押すかたちで飛行する方式)だぜ」って。最近、誰もやってないから。「王立宇宙軍」以外誰もやってないから。誰もやってないところで勝負するから勝てるんだよ。ジェット戦闘機で勝負に出ようなんてバカのやることでさ。河森正治だってロボットに変形するからやってたんで、変形しない「マクロス」を始めたとたんに「なにこれ?スホーイやトムキャットよりかっこ悪いじゃん」。

--- ということになっちゃうんですね。

「戦争のリアル」 押井守・岡部いさく p.271

戦闘機による空中戦だけではなく、作品性に関しても押井守監督が吠えています。

「スカイ・クロラ」を「崖の上のポニョ」と同時期に公開 押井守監督に聞く : 100人のジブリ : ジブリをいっぱい : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

押井 (中略)映画はよこしまな気持ちを持った瞬間から駄目になる。プロパガンダにしたらいけないんだ。「もののけ姫」(97年)のキャッチコピー「生きろ。」がいい例。あれは僕に言わせればコピーじゃなくてスローガンだよ(笑)。

――ともに2004年公開だった「イノセンス」と宮崎監督の「ハウルの動く城」は、方や人形、方や年齢というフィルター(外見)を通して、自己と他者の在りようを描くという共通の問題意識があったと思います。それが今度は、どうやら両者とも「生きる」ということの根底を描こうとしているようで興味深い。

押井 映画監督というのは、誰でもある年齢に達すると死を思いながら生を語るもの。だから、同じテーマになっても不思議はない。棺おけに片足突っ込むと、生きるということはすべて死生観の裏返しになるんだ。

 宮さん(宮崎監督)は、「千と千尋の神隠し」(01年)あたりからその傾向が顕著になったと思う。あの作品は、死生観だけで作ったと言ってもいい。だって、千尋が電車に乗って行く場面というのは、要するに三途の川を渡るということでしょう。あそこはすごくワクワクした。その先の展開にはがっかりしちゃったけど(笑)。でも、死生観と向き合ったことで作品にも色気が出てきた。やっぱり、死を覗くことで出てくる艶というものがあるんだ。

映画の公開時期だけでなく、お互いの作品の解釈や表現手法にいたるまで、二人の確執は遡ること数十年前から起きています。

宮崎:ついさっき、「うる星やつら」の劇場用(オンリー・ユー)を見てきまして、いくつか聞きたいなと思うことがあったんです。まず、パロディについてなんですけど、パロディというのは二番煎じでしょう、二番煎じで意味を変えるということですね。だから二番煎じに甘んじるけど、そのかわり違う見せ方をします、という、なんていうか、斬られて斬るというところがあるわけなんだけど、斬られていないと思うんですよ。設定を楽にしているという印象しかない。

押井:たぶん実写映画「卒業」のことをいわれていると思うんだけど…。

宮崎:いや「卒業」のということより、映像のひとつひとつなんです。たとえば(省略)

このあと延々とオンリー・ユーのパロディ、表現手法についてやりとりが続きます。

そして宮崎作品として「名探偵ホームズ」の話になったときのこと。

宮崎:・・・ホームズのような探偵は最悪なんですよ。自分で人生を体験していくのはむしろ犯罪者のほうなんですよ。自分の欲望とか怨みとか情念とか、いろんなことで動いていく能動性を持っているんです。探偵は、人がかくしたいものを白日の下にあばいているだけ、いやな人種ですね。

押井:うちの父親が探偵でしたけど……(笑)

宮崎:そうですか(笑)。なんのためにやっているのか・・・素朴な人助けというだけではちょっと恥ずかしい。そこらへんのみきわめがむずかしくて。

”動機付け”と”思い入れ”対談者/押井守 アニメージュ1983年5月号
「出発点1979~1996」宮崎駿 p.331

探偵最悪、いやな人種ですねといった次の瞬間、押井守監督の親が探偵だったということが明かされるという罠。この二人の溝はこれで決定的になったと思われます(笑)

一方で押井守監督作品が常に「オレって誰だ」と自分調べを続ける探偵のような展開になる理由も氷解した瞬間でもあります。

そしてこの対談後、宮崎駿監督による大きな陰謀(?)が。

「うる星やつら」の映画第二作目「ビューティフル・ドリーマー」をヒットさせた押井守は次の作品でさらなる飛躍をしようとしてました。そこへ降ってきたのが「ルパン三世」の映画。「カリオストロの城」の作品性の高さを評価され、再び宮崎駿監督に話がきたのですが断り、押井守監督を紹介したと言われています。

そして押井守監督が考えて考えたルパン三世のストーリーは、なんと「変幻自在なルパン三世が、自分は一体誰なのか分からなくなり、現実と虚構の合間に自分を探すというストーリー」。まさに押井守らしいストーリーだったのですが、これがエンタテインメント大作を求めていた発注元の逆鱗に触れて、映画は没。その余波でなんと数年間干されてしまったのです。

押井版ルパン三世 - Wikipedia

押井の構想が『ルパン三世』という作品からあまりにもかけ離れていることから「訳が判らん」と一蹴され、ルパン三世を「完結」させたくないという企業側の意思もあってNGを出された結果、押井は監督を降板した。結局この企画は潰えて、日の目を見る事は無くなった。

その後、新たなスタッフで残された短い制作期間の中、劇場作品を完成させなければならなくなった。それが『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』になった。一方、押井版ルパンで使われるはずだった様々な設定は、後の『天使のたまご』『機動警察パトレイバー the Movie』等の押井作品に散りばめられる事になる。押井曰く「攻殻でやっとルパンを吹っ切ることができた」という。

なお、一部で語られている『ルパン三世の映画でありながら、ルパンを否定する』、『世界中にもう盗むモノが無くなり、怪盗としてのアイデンティティを喪失したルパン』という描写は断片的ではあるが、『ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!』で、ルパンが自分のデータが世界中にインプットされてしまい、やる気を無くして引退する、という描写に生かされている。

これに対して押井は、「若すぎた、なんでもできると思ったらそうでもなかった」と話している。

押井守 - Wikipedia

『天使のたまご』以降は作家性の強いマニアックさが災いして5年ほど干された(本人談)。最初の1年目は毎日ゲームをして過ごして、2年目は貯えも底をつきさすがに危機感を覚え企画書を書いては断られ…と言う毎日だったが、そこに「ヘッドギア」への参加依頼を受け押井曰く「しょうがなく」参加する。

おそるべし宮崎駿(なのかな?)。押井守の自業自得という気もしないでもないですが(笑)、カリオストロに潜入した若い頃のルパンみたいですね。

そんな押井守監督も今では57歳。当時の暗く、無口な監督も今ではすっかり生まれ変わりました。

押井守監督に聞く 新作アニメ「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 : 話題 : 映画 : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

――製作委員会にも顔を出して、宣伝プランも一緒に話し合っているそうですね。 押井 一人でも多くの人に観てもらいたいと思っているからね。今までは、作ったらそれで終わりみたいなところがあったけど、「イノセンス」で、敏ちゃん(スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー)のやりかたを目の当たりにして、映画を作る醍醐味は社会的行為を伴った時に生まれるとよく分かった。だから今回は、逃げも隠れもせず、作品を届けるところまで付き合おうと思っているよ。

『スカイ・クロラ』で生まれかわった押井守監督 : Gizmodo Japan(ギズモード・ジャパン), ガジェット情報満載ブログ

なんだか僕らの押井監督が別人のようですよ!?

『攻殻機動隊』や『パトレイバー』でお馴染みの押井守監督の最新作、『スカイ・クロラ』の特別試写会の舞台挨拶に登場した押井監督はよく喋るし、笑顔は振りまくし、奇妙な動きはするし、いつの間にか「ひょうきんもの」になってました。しかも昼にはあの笑っていいとも」に出演しているっていうんですから、昔の「無口で無愛想」というイメージとは大違いですよ。

当時を知るものとしては、ほんと考えられないです。

ポニョもスカイ・クロラも見に行きたいですね。

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