SFC OPEN RESEARCH FORUM: 坂村健vs村井純

木曜日はSFC RESEARCH FORUM 2003へ行ってきました。非常に興味深く、面白かったので色々とご紹介します。

まずは今話題沸騰中のこの二氏による対談。


慶應大村井教授と東大坂村教授、ユビキタス社会をテーマに対談

さらに、「(技術を理解しない人は)WindowsやLinuxとTronを比べるが、仕組みそのものがまったく違う。・・・


この点補足したいのですが、TRONはRealTime OS(event driven)で、Linux, Windowsは TSS(time sharing system) OS (round robin)だということです。まったく違うアプローチで当然のことながら強み、弱みが各々あり、用途が違うわけです。コンピュータサイエンスの初歩の常識です。これは「いい悪い」ではなく「違うもの」なわけですから、単純に比べるものではないです。

(坂村氏が出した例)。
具体的にいうと、RT OSの場合、タスクの切り替えはハードウェアレベルのマイクロセカンドの世界で切り替えが可能ですが、TSS OSの場合はミリセカンドでしか切り替えできません。1000倍違うわけです。制御系に使えるのはRT OSしかありえません。なぜなら生命がかかっている制御、例えば宇宙船などの生命維持装置が、他の通信制御に優先して処理されなければいけないからです。

身近なところでいえば、車の制御系もそうかなと思います。例えばTSS OSではエアバッグの展開がMP3の再生に処理がとられてて遅れて展開するようなことになっちゃうわけで、それだと逝っちゃうでしょう。

坂村氏は激昂しながら「技術への無理解」を嘆いていましたが、同感しました。さらにはそれを無理解のまま伝えるメディアもあてにならないなと感じました。人の声は生で聞かないと解釈が全然違ってきますね。

坂村氏は「日本は政治のネゴシエーションがまず不得意。国家の施策として、IBMに500億円の国家予算を投じるような米国とは違いすぎる」と政治的土壌の違いを指摘した

これについては、政治土壌というより、国家を案じていました。つまりアメリカと日本とで国家の果たす役割のレベルが全然違います。アメリカでは自国の利益を最優先するため、たとえITUやISOといった国際標準があったとしても自国に不利益がある場合は断固採用しません

日本はまったく逆で、国際標準に従うためなら、どんな不利益でも被り、犠牲を払うのです

それに加えての技術への無理解。そのため坂村氏は政治力に期待するのではなく、技術力でそれらをカバーする以外選択肢がないと主張していました(これは諦めですね)。だからISOとUSで使う周波数が違ったとしたら、1チップで両方サポートするようなものを作りましょうと。

坂村氏はユビキタスコンピューティングの今後について、「ここ10年で立ち上がってくる。今が大事。今、貢献しないとやれることがなくなる。『組み込みやユビキタスで日本は貢献した』と言われるように私は全力でやっている。広く言えば、日本のステータスにも関わる問題。日本が儲かる・儲からないの問題ではなくて、日本人として世界に貢献できたと言えるようになりたい。

これもさきほどの国家の取り組みの違いや、歴史的なものを踏まえないとなかなか理解できないところです。この発言の裏には、1980年代のスーパーコンピュータ紛争が底辺にあり、その後のPCの発展に対して日本は技術的になんら貢献できてないことを悔やんでいます。

Uviquitas, embeddedに貢献しましょう、技術はgive&takeですよと。giveすることで日本のstatusがあがり、ひいてはrespectも上がるでしょう。それが真の国際化です。その場合にアジアのパワーを活かしていきたいと言っていました。

また学術、教育機関の役割については、次世代への教育はもちろん、「知りたがっている人」への「知識distribution」が大事だというように指摘していました。これは今の若い人、大学を志望する際に理系離れしている傾向も憂慮し、また政治家やメディアなどcurrent generationの技術への無理解も含めて考えると教育機関の役割は重要でしょう。そして技術者はもっと発言するべき(技術者 speak out!)と村井氏も指摘していました。

最後に印象に残ったのが多様性(diversity)という言葉。USですらひとつの国独自で出来る状態ではない環境下では、色々なものがあってはいいでしょう。OSだって適材適所で使えばよく、「自律性のあるdiversity」でより強くなるんです。

それがゆえにT-Engine Forumはオープンで、linuxのディストリビューション企業も、マイクロソフトも受け入れることが出来るわけですね。

この対談の続きはTRON SHOW 2004でやるので、是非聞きに行きたいです。これはTVなんかより面白いですよ!?

関連リンク:

T-Engineフォーラム

SFC Open Research Forum 2003 レポート
村井純×坂村健 対談:「ユビキタスは日本が貢献できる少ないチャンス」

ZDNet:SFC OPEN RESEARCH FORUM 2003レポート