オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(番外編)

のまのしわざ: オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(第1回)
のまのしわざ: オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(第2回)
のまのしわざ: オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(第3回)
のまのしわざ: オンラインゲーム、ネットワークコミュニケーションのビジネス構造(第4回)

【番外編】

前回の連載の中に含まれた内容で、まとめる最中に蛇足だと思われる点、内容が重複したために外した点をご紹介します。

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・オンラインゲームのサービスライフとクライアントハードウェアの商品サイクル
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従来の一般的なオンラインではないゲームの売り上げは数ヶ月がピークであるが、オンラインゲームの場合のサービス提供期間を4~5年とロングスパンで考えている。

PCは4~5年で性能が10倍以上になることとから、PCの性能の向上に見合ったコンテンツを提供しないと商品性が相対的に下がってしまうが、ゲーム専用機であればハードウェアの性能向上はモデルチェンジまでない。逆にゲーム機の定価が下がることで、ユーザーにとっての初期投資が少なくなり入りやすくなる。

またPCの価格はゲーム専用機に比べて高価であることからユーザーにとってはハードルが高い。そしてPCの性能はユーザーによってマチマチであることから、ソフトの互換性、接続性の確保などサポートコストがはらむ可能性を持っている。

以上から、PCよりもゲーム専用機の方が大規模で長期的なオンラインゲームビジネスに向いている。

それでもPC向けに開発されるのは、開発がしやすい(開発費が安い)ことと、クリティカルマス(損益分岐点を越える、ユーザー数)を小さく設定することが可能なサービス開発者だけであろう。

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・ネットワークコミュニケーションの競争力
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ユーザーの視点で捉えるとネットワークサービスは無料のものが多いため、無料のものに容易に移行が可能だ。そのため、ネットワークサービスは唯一無二のものとし、固定ユーザーを確実に囲い込む必要がある。実際はまると生活費のすべてをつぎ込む上顧客となりえる。それだけに特徴が必要だ。何が競争力があり、特徴になりえるかは次回からはじめる連載(予定)に譲る。

・クリティカルマスとユーザー
FFXIがユーザー数の目標を120万人においたようだが、一方でSCEIの久多良木社長のコメントとして
「i-modeが100万台を達成するまでにも6ヶ月かかっている。PS2のBB展開もはじめはなだらかに広がっていくだろう」
http://www.dengekionline.com/news/200202/13/n20020213ps2qa.html

「ブレイクスルーとなるのはクリティカルマスを越えてから」
http://pcweb.mycom.co.jp/news/2002/02/14/07.html

とあるからもわかるように、いずれにしても数百万、最終的にはPS2の普及台数までの広がりを求めている。

前述したように、FFXIの場合10万人ユーザーでは開発費すら回収できない恐れがある。大規模な数を目標とし、開発する理由は何か?

まず、ゲームソフトを500万本売った大企業にとり、BEP(break even point, 損益分岐点)を10万人ユーザーに設定するのはあまりにも低すぎる。


http://premium.nikkeibp.co.jp/sp01dst/sp01dst_square_1.shtml
この記事によるとFFXIの目標ユーザー数は2002年中に120万人。そしてそれに見合うインフラとして1000台以上のサーバーを用意したようだ。BEPを達成するために必要な目標ユーザー数もかなり多いと考えられる。しかし実際のユーザー数はそれを大きく下回ることから、インフラ環境が過剰となっていると思われる。

http://www.zdnet.co.jp/games/gsnews/0001/29/news02.html

(http://www.rbbtoday.com/column/report/20031002/
2003年10月現在、28万ユーザーいるようだ。)

・収入と支出

FFXIの例をさらに見ていこう。1年ずっとプレイし続けるユーザーが10万人いると仮定すると、2,436,000,000円、つまり売り上げは約24億円である。FFXIは1000台以上のサーバーを用意していることから、ホスティング費用を一台10万円/月と仮定しても、一月に1億円、12ヶ月で12億円にもなってしまう。現在のゲーム開発費から考えると、開発費を回収できる見込みは初年度は少なくともないだろう。

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・ネットワークサービスビジネスは誰にとってのビジネスか?
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まず、サービス提供者のうちのインフラ提供者にとっては明らかにbig bisunessである。企業のweb serverを置くのに比べると規模が1桁から2桁違う契約になるためで、これは完全にビジネスとして成立する。

・ホスティング会社、サーバーメーカー以外のインフラ提供者から見た場合の収益

すでに示したように、ホスティング会社やサーバーメーカーなどインフラ提供者から考えると非常に魅力的なビジネスである。一方例えばYahooBBやSo-netのようなインターネットサービスプロバイダにとっても魅力的なビジネスといえる。

インターネットサービスプロバイダは通常大規模なインフラ、データセンターを確保している。しかし全部が全部を使い切っているわけではなく、やはりある程度の余裕を持っているはずだ。オンラインゲーム・ネットワークコミュニケーションサービスはその余剰スペースを有効利用することが出来る。

インフラ提供者が主体となりサービスを提供する場合キーとなるのは、サービス開発者のソフトをいかに安く手に入れるかである。昨今は成功した海外ソフトを導入するケースが多いが、これはサービス開発者にとってはすでに採算が取れているものである。それならば売り上げがそのまま利益に直結することが可能で、サービス開発者、インフラ提供者両者にとって「ボーナス」的なビジネスとなりうる。

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サービスレベル、ユーザーからの期待とのギャップ
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・ユーザーにとっての価値と対価

ユーザーからの視点で考えると、支払い先がどこだろうが同じ財布から出ているという点を忘れてはならない。例えば電話代がNTT東日本なのか、NTT communicationsなのかなんて預かりしらなかったり、ガソリン代のうちいくら税金で、いくらが元売に入り、いくらがスタンドに入るかなんては知らないし、興味もない。興味があるのはサービスに対価を払えるかどうかだ。

さて、今何も持ってない1ユーザーがオンラインゲームのFFXIをはじめたいと思う。その場合は以下を準備する必要があろう。

- クライアントハードウェア
"PlayStation BB Unit"搭載モデル- "PlayStation 2" BB Pack 35,000円
キーボード3980円(またはネットプレイコントローラ 7800円)
(チャットするには必須のため)

- クライアントソフトウェア
プレイオンライン/ファイナルファンタジーXI ジラートの幻影 オールインワンパック2003
7800円

- 月ぎめ料金
PlayOnline用 1380円/月
(利用料金1280円+テトラマスター:100円/月)

NTT (電話代に含むこととし、除外)
ADSL 例:YahooBB 2280円/月

つまり初期投資で46780円、月々に3660円かかる。1年プレイすると仮定すると90,700円となる。ユーザーはこの値段と、ゲームの価値を天秤にかけて購入を決意する
(※ここではPS2で他のゲームが出来る、インターネットをブロードバンドにしたいといった動機付けは除き、純粋にFFXIをプレイするためだけと仮定する)。

ところがよく考えると、費用はSCEI, square enix, YahooBBなどの各企業に分散化しているのだ。つまり、サービス提供者のsquare enixに入るお金だけで考えると初期費用で 7800円、月々1380円で、1年プレイして24,360円となる。全体の額、90,700円の約27%に過ぎない。つまり、ユーザーの払った費用に対して、実質3割しかサービス提供者に入らないことを意味する。そのうち、運営費としてインフラ提供者へと流れるため、サービス開発者にはかなり少ない金額しか入らない。
(※上記のお金のフローはあくまでの推測であり、実際にはもっと複雑である)

ユーザーは支払った金額分のサービス内容、品質を期待する。しかし上記の理由により実際には大きなギャップが発生していると考えられる。

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・インフラ品質をサービスに見合ったレベルに落とす
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今のデータセンターはfinancial qualityであり、24h/7days落ちないことを前提にしている。しかし、entertainment qualityにはオーバースペックである。関東大震災クラスの地震があったときユーザーの家が倒壊するのに、サーバーが落ちない保証をする必要はない。元々サーバーはソフトウェアのバグが原因で落ちたり、頻繁のバージョンアップのためのメンテナンスがつきものだから、ハードウェアやインフラ環境を厳重に保証する必要はないのだ。


・次回予告

今度こそオンラインゲームとチャットなどのネットワークコミュニケーションの違い、tele-communication論や、ユーザーからの視点についてを書く予定です。

・リンク

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