軌道エレベータ

本書では研究の歴史と原理の解説が記述されているだけでなく、材料や工学的に見た実現性、そして発展形技術である「非同期軌道スカイフック」や、さらに先を行く「軌道リングシステム」までが紹介されている。

軌道エレベータもかなりトンデモであるが、さらにその先をいく、非同期軌道スカイフックとか、軌道リングシステムとか紹介されていて、面白かった。スカイフックなんて、軌道エレベータがクルクル回っていて、その縁は約10km/hで地表すれすれをかすめてその隙に物資を乗っけるというものらしい。イメージ的には空から紐がするすると降りてきて、地表すれすれに達したあと上に戻るイメージ。ということは蜘蛛の糸といったところが。

軌道エレベータの存在意義なのだが、やはりアイディアが60年代ということで、宇宙開発前提のSF発想だなと感じた。というのも、軌道エレベータの建築は静止軌道からはじめる必要があるという。つまり、軌道エレベータの材料はすべて静止軌道へ載せる必要があるのだ。この材料をすべて地球からロケットつかって運んでいたのでは、本末転倒はなはだしい。そもそもロケットを使うのが効率悪く、環境破壊であるからこそ軌道エレベータの発想が出ているからである。

それを解決するのが、小惑星をひっぱってきて静止軌道上にのせ、そこから材料をとる方法だ。これがエレガントなのは、小惑星の推進力にはあのマスドライバーを使う点。小惑星上で材料を生成し、不必要になった廃棄物をぽいっとマスドライバーで送出するとその反動で推進するという。そして静止軌道に載せるときに一発核爆発を起こして止めるという。なんとも、現実的と思えるアイディアだ。

軌道エレベータは、上下にとても長くて、下はたまたま地表にくっついちゃった静止衛星とみなせる。上は下との質量バランスをとるためのおもりにしかすぎないので、長く伸ばさずに大きな質量がかさむもので代用することが可能だ。さきほどの材料がクリアできたところで、重力バランスにより静止衛星であるはずの軌道エレベータはやはり移動してしまう。これを修正するのにはスラスター(ロケットエンジン)を使う。そしてその重力バランスが一番とれる箇所は地球上限られているという。つまり、ひとつは作れるが、複数は作れないということ。

ひとつであるとすると、このような世界情勢の中では強国がひとつ独占することにより軍事バランスが大きく崩れてしまうので現実的ではないという。となると、軌道エレベータは複数必要、というか結果的に複数になるであろう。しかしその複数は重力バランスがあまりとれない場所に位置するであろうから、維持が非常に大変だ。

そこで考えられたのが、軌道エレベータを地球を取り囲むようにネックレス状につなげてしまうアイディアだ。これなら軌道エレベータのフレを最小にできるという。でも、さきほどの国家間で争っている状態で、このような構造物を国家間で連携させるというのはありえないのでは。少なくとも安定した世界情勢の中で一度構築をして、その後お互いに壊せない状態なので攻撃しないような均衡が必要そうだ。

このネックレス状の構造物の中に居住スペースを作ることで、多くの人口が収容可能だという。

当時の世界情勢で考えると、残された開発地域は宇宙だけであり、宇宙の開発こそが人口爆発や資源枯渇の解決策だと思われた節がある。だからこそ、こういった発想が連携して出てくるのであろう。

SF的な発想であったとしても、物理的で現実的な実現方法や、コスト、そして政情まで考えないと実現できるとは言い切れないところが面白いところだ。たとえ材料だけがクリアできても、他の要因がクリアできなきゃ実現は難しい。

自分としては21世紀の考え方として農耕中心の資源低消費型の生活を推進する必要があると思っている。人口を収容したり、食事を供給するためには広大に広がる砂漠を緑化することがひとつの解決策であると考える。そもそもアフリカの砂漠は森林だったといわれているので、この緑化により地球に大きな影響を与えるとは考えにくい。

少なくとも一歩外に出ると真空、重力はない、日なたは数百度で、日陰は絶対零度というような宇宙になんて住めない。しかし砂漠なら空気はあるし、重力あるし、日向はせいぜい60度、日陰はマイナス数度くらいで済むからまだマシでしょう。

それはおいといて、ガンダムSEEDにおける軌道エレベータの使われ方だが、キラは負傷をおい、地球からプラントのラクスの場所に運ばれた移動手段は軌道エレベータだと言われている。なぜならロケットやマスドライバーでは数Gかかるため、病人の搬送には向いてない。エレベータであれば、ほとんどGもかからない。
科学の小箱:軌道エレベータ(1)

仮に軌道上までの距離の半分を1Gで加速し,のこり半分を1Gで減速したとすると,静止軌道上までの所要時間は62分となる.1時間後には,あなたは無重力の世界にいるのだ

なるほど、これならあっという間にキラはラクスのところに行ける。

こういった数値的な裏づけをこの本はやっているので、一度読む価値はあるかも。結構面白かった。

関連リンク
科学の小箱
RYOBLOG: 軌道エレベーター計画