自分の足で無限に歩けるVR「無限回廊」を体験したぞ

こんにちは。1990年代にVRといえば、VRML。Web上でVirtual Realityを表現するModeling Languageですが、それを使ってVRコンテンツを作っていたのがボクです。なのでVRには一家言あり、VRといえばボクです、なんていいそうなものですがそんな拘りはありません。その理由はまた今度。。。

ということで、Unityのヤナセさんのお誘いでこちら、無限回廊 Unlimited Corridorを体験してきました。

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体験前のテンション。MAXです。

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無限回廊、体験中。めっちゃビビってます。さてこのコンテンツ、一体どんなものなのでしょうか?

空間知覚をハック

これを研究・開発したのは東京大学院情報理工学系研究科の鳴海さんらチーム。
(ちなみに「ら」は複数人数を指し、学生が作った場合だいたい「ら」に含まれます)

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詳しい技術内容はこちらの動画に詳しいです。


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簡単に種明かしすると、知覚情報をハックすることで本当は円周上を回っているのをまるで直線を歩いているように感じさせることで、無限に歩けるという仕組みです。知るとなーんだという感じですが、実際にはこの曲率がどこまできつくできるのか、というところに実験と検証が必要で、ノウハウの塊といっていいでしょう。

コンテンツ自体はこの「壁を片手でなぞりながら歩く」という制約条件を自然に見せるために、工事現場の足場という設定になっており、高所恐怖症の人にはかなり怖い設定に。私はさほど高所恐怖症ではありませんが、VRゴーグルに映し出される映像が時折不穏な動き、映像乱れのような状態になると自分の三半規管とズレて体のバランスをとりにくくなり、それが恐怖感につながりました。

さらにはSEとしてつねに「びゅぅーーー」という風の音がしており、それが高度感をうまく演出してより恐怖心を煽る結果となります。

この技術に応じてコンテンツを作り込む、というのはまさにVRML時代に私がやっていたことで、実際「サーカスパーク」というVRMLコンテンツ内に観覧車をおいたときは、上に上がった時だけこの風のSEをつけていたので、なかなか懐かしい思いでした。

課題は常に同じ

そのVRMLコンテンツを作ったのは1996年、つまり20年前。3Dのモデリング自体はコンピューティングパワーの増大の恩恵を受け、さらにUnityの出現により、簡単に作ることができるようになりました。

ここ昨今は3Dモデリングだけではなく、さらにモーショントラッキングやジャイロといったセンサー技術の進化が目覚ましく、没入型のゴーグルが大盛況です。

Thetaなどの360度パノラマ撮影可能なカメラの出現でVRゴーグルでコンテンツを気軽に楽しむことができますが、これはいわば QuickTime VRのようなもの。こちらも意外と歴史が古いです。

今回の技術は Redirected Walkingと呼ばれ2001年にその概念が初出なのですが、VRゴーグルの普及で急速に家庭やアミューズメントパークに普及しそうです。

一方で課題もあります。360度パノラマは確かに周りが見渡せていいのですが、VRゴーグルで足元見ても足はありません。空中に浮いている状態なのです。

この無限回廊では手を目の前に差し出すと、その位置に手のひらだけが出てくるのですが、それも限定的。まだ位置関係が把握できるのみで、身体の一体感という意味では不十分。そもそも体がないことが、没入感を削いでいます。

やはり必要なのは20年前同様、アバター(分身、化身)です。映画のことではありませんよ。

3rd person viewではなく、1st person viewのときに自分の体をバーチャルワールドで知覚する、一番簡単な方法は鏡です。「サーカスパーク」を作ったあと、いろいろな課題を解決して作ったのが1997年の「さぱり」です。ここでは鏡を置きましたが、大人気の場所になるためにあえて鏡は空中に浮かぶ島の上に配置し、滞留させないようにしました。そうでないと1箇所に集中して大変な騒ぎになりますからね。「さぱり」では動物中心に31体のアバターを用意しましたが、そこで鏡をみながらみんな色や体の各パーツの大きさを変えたりと、いわば化粧台の前で化粧する女の子のようにアバターをカスタマイズしていました。

映画トロンではあのトロンの世界に入った時に、コスチュームが変わることでアバター化していました。それと同様に、その世界の中の自分の姿が必要なのです。実は現実世界でも自分の姿をみることは鏡以外方法はなく、そういう意味でもアバターと鏡は欲しいと思いました。

コンテンツの完成度という意味では多少荒削りですが、そのコンセプトは非常に面白く、今すぐにでも富士急ハイランドに入ってもおかしくないし、ICCで展示していいレベルでしょう。

なかなか文章では伝わりにくいコンテンツなので、どこかでみんなが体験できるとよいですね。


廣瀬・谷川・鳴海研究室