この時代だからこそ、改めて取りたいマニュアルトランスミッション(MT)免許

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今この時代にマニュアル(トランスミッション)に乗る意味なんてあるのでしょうか。いや、この時代だからこそ、意味があり、価値が際立ってきています。

その昔、ATは非効率的であった

オートマティックトランスミッション(AT)はそもそも身体障害者や操作に必要な筋力が足りない人への弱者救済の意味がありました。ATは重く、大きく、燃費は悪く、加速も悪いというのが当時の常識。またMTに比べてギアの数が少ないのが一般的で、MTが4から5速の時代にあっても3速か4速といった具合でした。

1980年代、エアコン、パワステ、パワーウィンドウといった快適装備が普及するのに合わせ、ATが普通の人、特に高齢者や奥さまを中心とした女性に受け入れられるようになり、日本ではいち早くMTとATの比率が逆転。その後みるみるうちにMTが少数派となっていった次第。

利便性だけではなく、効率性が高いATの登場

さて長らくATはMTに燃費や効率性で後塵を拝していましたが、それも2000年代後半となり、デュアルクラッチトランスミッション、多段化が進むとその立場は逆転します。MTが6速がHパターンで操作できる限界に達してしまったのにたいし、シーケンシャルともいえるATは6速でほぼMTにおいつき、7速、8速、9速と多段化をすることでMTを突き放します。MTの多段化はポルシェの7速が最高で、Hパターンによる操作性に関しては微妙なところ。

そしてマニュアルはクラッチを切って、シフトチェンジして、つなぐを行うことからタイムラグが発生しますが、DCTはそのタイムラグが短くできるために結果として0-100km/hなどの加速においてパフォーマンス面でもMTを凌ぐ結果を叩き出せます。

またDBWとあいまって、エンジン制御、シフト制御を統合的に行えるために燃費向上も可能、またドライビングモードをスポーツ、ノーマル、エコと切り替えることができるなど、きめ細やかなコンピュータ制御により、人間の制御を越えることになりました。

必要不要でいえば不要なMT

この状況下ではMTは必要不要でいえば不要、切り捨てていい非効率なものです。実際ポルシェ911であってもMTはラインナップから消えたほど。ポルシェをもってしても、マーケットの数パーセントのためにわざわざMTを開発、搭載する意義はないと言ったほどです。

しかし一方で、MTを求める声、ユーザーは確かにいます。では彼らは一体何を求めているのでしょうか?

馬なのか、牛なのか

MTを求めるユーザーは、騎馬民族が祖先にいてDNAに混じっている種族です(多分)。MTで車を操ることは、手綱を使って馬を自分の思い通りにコントロールする騎手に近い感覚です。そのため、単純に移動や運搬をするのではなく、コントロールすることそのものに価値があります。

一方、ATでいいじゃない、と思うユーザーは、高貴な民族が祖先にいてDNAに混じっているか、それに憧れている種族です(きっと)。車なんて広くて荷物が一杯つめて、安けりゃいいじゃないと思っているため、どれほど安価に移動、運搬ができるかどうかが最大の価値です。いわば牛車みたいなもので、遅くてもいいから、誰かに運転を任して、自分は乗っていたいというタイプ。

衝突軽減ブレーキを含む自動運転技術がもてはやされるのも、牛車タイプだからこそ。車が勝手にとまっても、引車の窓をそっとあけて「おや、何があったのだい?」と問いかける高貴なお人の手にはスマホが握られているに違いありません。

復権するMT

ATが当たり前となり、自動運転技術が矢継ぎ早に投入されることで、移動・運搬が目的である牛車が際立った結果、少数民族である騎馬民族がようやく蜂起しました。オレたちにMTをよこせ、オレたちは3ペダルでMTを操りたいんだ、と。

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そうして、日本市場でもトヨタ86/スバルBRZ、マツダ・ロードスター、ホンダS660、ダイハツ・コペン、スズキ・アルトワークスとお買い求めやすい価格帯、車格でMTを投入してきています。これほどMTが投入され、スポーツカーラインナップが充実したのはいつ以来でしょうか。それほど珍しい、MT怪奇、いや回帰現象が起きているのです。

改めて取得したいMT免許

いまや運転免許は不経済、とってもAT限定が当たり前。そんな風潮の中、MTをあえて取る意味はどこにあるのでしょうか?

乗馬ライセンス、と考えればいいでしょう。乗馬だけに、馬の機嫌をとりながら、馬と対話しなければ思い通りになりません。乗ってすぐに自由自在に操れるはずもありません。練習と対話、それが上達の秘訣。

MTも同じ。相手が血の通っていない機械であっても、問いかけ、対話し、うまくその能力を引き出してあげる、それが運転技術のうまい、下手として明確にあらわれてくる面白さがあるのです。

特に昔のクルマはMTが多く、同年代のATと比べると多段化され、効率的、燃費性能も高いことがあるため、昔のクルマを運転するならMTを選べた方が経済的です。そのためにはMT免許が必要なのです。


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