ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第31話 蟹工船 #mini4wd

前回までのあらすじ

流しのミニヨン・レーサー北川はサラに競馬、パチンコはギャンブルではないのかと問う。サラは競馬は合法であり、パチンコは遊技であり、特殊景品もグレーではあるが法に触れないという。

北川がサラにひどい目に合わされているその時、浜田と学生、ユキは代々木の飲み屋で飲んでいた。

首をかしげる浜田。

浜田「ユキさん、兄貴ィ、電話にでんわ」

ユキ「何それ〜浜田さんたら、ダジャレ〜?」

ケラケラ明るく笑うユキ。何度浜田が電話しても北川に電話は通じない。それもそのはず、北川の電話はサラにミルクの底に沈められ、壊れてしまったのだった。


浜田「兄貴ィ、呼べなくてすまないっす」

ユキ「ほんと、残念だっちゃ。でもいいっちゃ、こないだの仲直りをしたかっただけだし。浜田さん、相当負けたのよね?」

浜田「もう、へこみますわあ。賭け金全部パーですもん。ダブルでっせ、賭けレース分と、ミニ四駆券分と両方」

ユキ「なんでまた自分にかけるっちゃ、私にかけておけば良かったのに。リスクは分散するのが普通だっちゃ」

学生「今回、ユキさんにかけてもダメでしたけどね」

浜田とユキのマシンは空中で接触、両者リタイアとなりいずれにかけても負けていたことになる。

ユキ「そうだけど、ミニ四駆券があったら普通は自分以外に賭けて抑えるものだっちゃ。」

学生「ユキさんはよく賭けするんですか?」

ユキ「えっ...いや、そんなにしないっちゃ。一般論よ、一般論」

ユキはオレンジジュースをストローで吸った。

浜田はまだうなだれている。

ユキ「...ミニ四駆券、どのレースも普通の人が賭けで参加できたらいいのになあ」

学生「えっ、どういう意味ですか?」

ユキ「今の賭けミニ四駆レース、参加しなきゃいけないっちゃ。でもそれってミニ四駆を作ったり、他のレーサーから出来上がったミニ四駆を買ってこなきゃいけないでしょ、手軽じゃないっちゃ。だからミニ四駆を作ったりしなくても、レースに参加できるミニ四駆券が一般的になればいいなあって思っただけだっちゃ」

学生「うーん、それって競馬や競輪、競艇と同じってことですよね、レースをするレーサーと賭けをする人が別々という。」

ユキ「そういうことだっちゃ。そうすればたとえレーサーは少なくても、一般の人が参加できて、もっとミニ四駆の裾野が広がるっちゃよ」

学生「そうかもしれませんけど、ギャンブルじゃないですか、アングラ、違法ですよ」

ユキ「だーかーらー、それは法律がないからでしょ、法律を作ったらどうっちゃ」

学生「えっ、どういう意味ですか?」

ユキ「競馬は競馬法、競艇はモーターボート競争法、競輪は自転車競技法で決められている合法ギャンブルだっちゃ。つまりミニ四駆も、そうね、例えばミニ四駆法というのを決めれば合法化できるちゃよ」

学生「えっ、そんなこと、できるんですか?」

ユキ「日本は法治国家、三権分立の国なのよ。司法、立法、行政。国会が立法する機関で政府が行政、裁判所が司法という三すくみの構造になっているっちゃ。だから国会で立法すればそれは可能だっちゃ。」

学生「ということは議員を動かすということですか?」

ユキ「そうだっちゃ。国会議員しか法案提出できないっちゃ」

学生「でも国会議員なんて、縁遠いなあ」

普段無邪気なユキの表情が曇り、眉にシワがよった。

ユキ「ちょっとあなたね、年はいくつ?」

学生「20歳になりました」

ユキ「じゃあ、あなたは投票権があるでしょ」

学生「ええ、でもそれが...」

ユキ「投票権があるってことは国会議員を選ぶ権利があるってことだっちゃ。あなたの意思で立法機関のなり手を選べるってことだっちゃ。」

学生「僕理系なので意味がよくわかりません...」

ユキ「あんたバカァ? 理系とか文系とか関係ないでしょ、これって社会常識よ。どこの国で生きていくつもりよ、日本でしょ、日本だったら日本の政治や社会システムくらい理解しなさいよ、それで大人になったつもり? まったく最近の若い者はなってないっちゃ!」

激高するユキもどうみても20台前半で若い者の部類なのだが、社会人生活が長い分、世の中をよく知っている。

ユキ「あのね、違法かどうかってのは、法律にのっとっているかどうかなの。そうであれば、法律を作っちゃえば全部合法になるのよ。で、その法案を提出できるのは国会、国会議員だけだから、自分の意見が反映できる議員を選ぶ人に投票するだけの簡単なことだっちゃ! これを間接政治、代議員制っていうっちゃ。」

学生「はぁ...」

ユキ「間接民主制を始めたのはローマ時代、歴史は古いのよ。それ以来私たちは政治家を選ぶしかないっちゃ」

学生「確か普通選挙は戦後施行されて、それまで女性は投票権がなかったような...」

ユキ「そうよ、まったく男性の論理ばかり優遇されて女性が虐げられてきたっちゃ。でももう普通選挙になったから、成人したら男女や納税の有無を問わず選挙権を行使できるっちゃ。いい時代でしょ!」

学生「いいのかなあ...? 投票面倒で行ったことないし」

ユキ「あんたねえ、ちょっとヤキ入れられたいの?」

学生「えっ、なんで、何も悪いことしてないじゃないですか」

ユキ「普通選挙に至るまで、先人たちがどれだけ血を流しているかしらないの! それまでは制限選挙っていって、一部の高額納税者しか投票権がなかったっちゃ。私たちのような女性や庶民はね、搾取されるだけだったっちゃ。」

学生「搾取、ですか...」

ユキ「そうよ、蟹工船よ!」

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学生「カニが光線を出すんですか?」

学生はカニからスペシウム光線がでてる姿を想像した。

ユキ「...アンタ、学生のくせに、小林多喜二もしらないの!」

学生「ぼ、ぼくは理系ですから...」

ユキ「あんた、バカァ? 一般教養に理系とか文系とか関係ないでしょ。井伏鱒二は知ってる?」

学生「わ、吾輩は猫である、書いた人ですか?」

ユキ「知っているのを言えばいいってもんじゃないのよ! この理系バカァ!」

また文系、理系の話に戻り、無限ループである。

一方浜田は通じない北川に電話をかけ続けていた。

(つづく)

【ミニ四駆小説は平日、12:00更新予定です】

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

賭けミニ四駆レースは法律で禁じられています。

ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です。

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