ミニ四駆小説「流しのミニヨン・レーサー北川」:第17話 レッド・ホイール #mini4wd

前回までのあらすじ

組織の心臓部、最速のミニ四駆を作り続けるファクトリーから逃げ出した一人。流しのミニヨン・レーサー北川は学生の父、神山もそこにいたことを知る。

北川は浅い眠りについていた。

北川「ううう、うわぁぁぁぁぁ、や、やめろ、壊さないでくれ!」

サラ「どうしたの?」

サラは電気をつけた。ベッドサイドのスタンドに照らされた北川は全身汗びっしょりになっていた。

北川「...少し昔の夢を見ていただけだ。起こして済まない。」

サラ「いいのよ。疲れているのね...」

北川はベッドから起き出し、シャワーを浴びる。

北川「(またあの夢か...)」


10数年前...北川は新進気鋭のミニ四駆チーム「レッド・ホイール」に所属していた。「レッド・ホイール」のマシンはその名の通り、マシンに赤いホイールをつけて一目でそれと分かる。「レッド・ホイール」は厳しい特訓を受けたミニヨン・レーサーが集まったチームで情け容赦ない勝ち方で全国のミニ四駆大会を荒らしていった。

その中でリーダーだったのが神山である。神山は北川に若い才能を見出し、「レッド・ホイール」に引き抜いた。神山は北川にミニ四駆のチューニングのイロハからレースの勝ち方を厳しく教え込んだ。

北川「神山さん、ほらみて、これオレが創ったんですよ」

神山「サスペンション機構か、よくできたな。これがあると立体的なコースでの安定性が増すぞ、いいぞ北川、もっとやれ」

北川はミニ四駆の改造に夢中になった。

神山のチューニングポリシーは最高のものを最高の状態で使うことにある。ある時北川はお使いを頼まれた。

神山「北川、このリストのものを高尾に行って買ってきてくれ」

北川「キット2ケース、モーター2ケース、ギア20袋...ですか。随分たくさんマシンを作るんですね。」

神山「ん? 何を言っている、たった1つだよ」

北川「...まさか」

神山「そうだ、選別するんだ」

神山は金に糸目をつけず、1つのマシンを作るのに多くのパーツを湯水のように使う。大量に買ってきたもののうち、精度がでているものだけを選別、さらにそれを最高の状態にもっていくために調整するのだ。野球チームでいえば3軍、2軍、1軍、そして精鋭といったように。

これはパーツに限ったことではない。人間もそうだった。

「レッド・ホイール」を名乗れるのは数百人いる構成メンバーのうち、ほんの一握りの人間のみ。最高の技術をもつメンバーを鍛えあげて「レッド・ホイール」となるのだ。

メンバー同士を戦わせることも多い。そして負けたメンバーのミニ四駆はその場で破壊される。

先輩メンバーA「北川、すまんな。レッド・ホイールを目指したけど、ダメだったよ。もう金も、時間も、そしてなによりモチベーションがなくなってしまった...北川はまだ若い。頑張れよ」

この容赦ないスパルタ教育に耐えきれず、去って行ったものも多い。

北川「ミニ四駆はホビーだ、確かに速くて勝てるマシンを追求するのもいい。でももっと楽しむ存在であってもいいんじゃないか」

そんな北川にとって一番つらいのは、精魂こめて作ったマシンを壊されることだった。ある時、北川はチーム内レースで負けた。神山が北川のマシンを踏みつぶそうとした時だ。

北川「神山さん、このマシンだけは壊さないでください。今回たまたまネジが緩んでいただけで、しっかり締めていれば勝てたんです。マシンは悪くない、悪いのはオレです。」

神山「北川、お前の気の緩みの結果がどうなるのか。よく覚えておけ。」

グシャアァァァ

神山は容赦なく、北川の目の前でマシンを踏みつぶした。

神山「レースは戦場だ。一人の気の緩みでチームが負ける。そんなマシンはレッド・ホイールには不要だ。」

北川「オレの、オレのせいで...」

完璧なマシンを組みたい、壊されることのないマシンを。それには勝つしかない、勝ち続けるしかないのだ。北川は変わった。感情を押し殺し、ただただミニ四駆を作るだけのマシーンと化したのだ。

北川は速くなっていった。先輩を蹴落とし、ついに実力ナンバーワンの座を欲しいままにした。そしてリーダー、神山との直接対決。

・・・

神山「随分成長したな、北川」

北川の勝ちだった。教え子の成長に誇らしげに握手を求める神山に対し、北川は無視をした。

北川「...マシンを出せ」

そして神山のマシンを地面に叩きつけ、冷徹に踏みつぶした。

神山「...クックック、ハッハッハッハ!」

狂ったように笑い出す神山。その乾いた笑いは残響となって部屋に鳴り響いた。

神山はレッド・ホイールを脱退し、北川がリーダーとなる。しかしほどなくレッド・ホイールの活動はパタリと止まる。その詳細を知る者は少ないが、北川以外の主要メンバーが全員ミニ四駆を下りたことが原因とされている。

シャワーの音が止んだ。北川はバスルームから出て、冷蔵庫に冷やしてあったコーヒー牛乳を一気飲み干した。

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窓には新宿の夜景が広がり、空には赤い満月が輝いていた。

北川「赤い月...レッド・ホイールの亡霊か...」

北川は自分の過去を呪った。

(づつく)

【ミニ四駆小説は平日1日に1回、12:00更新予定です】

この小説はフィクションで、実在の人物・団体と一切関係ありません。

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