映画「モテキ」を見た感想:長澤まさみの破壊力はスゴかった #prfm

Perfumeが劇中ダンスで出演した映画「モテキ」を公開1年後、ようやく見ることが出来ました。

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「モテキ」はまず漫画があり、ドラマ化され好評だったために映画化されたのですが、私自身は漫画もドラマも未見です。たまたまこないだ少しだけ漫画の1巻を見て思い出し、Playstation Storeでレンタルして見ました。

以下ネタバレありです。ご注意を。


まず「モテキ」は男性視点で描かれた現代の恋愛ドラマなのですが、ご存知のように作者は女性。一方映画監督は男性となっています。映画自体は主人公の心象風景ならぬ、心の叫びを中心に進むので、基本は男性視点、しかも一方的な思い込み、曲解、当て推量と勢いとリビドーで行動するのでますますドツボにはまっていきます。今の言葉でいうならば、

「痛い」

という表現ですね。

この痛い主人公がモテキ(モテる時期)と呼ばれる、女性に恵まれる時期に出会ってしまって右往左往するドタバタ劇なのですが、映画の場合は2時間という尺の関係もあり、映画としてのまとまりを優先させた結果であろうことに、結構マジメな恋愛映画になっています。

女性は合計4名出てくるのですが、実際には本命・長澤まさみ、対抗・麻生久美子、同僚の先輩・真木よう子、キャバ嬢仲里依紗となっていて中心は長澤まさみとの恋愛模様です。

長澤まさみの友人、麻生久美子は年上の「重い女性」という設定で主人公・森山未來に惚れるわけですが、まあなんというか、本当に

「重い」

迫真の演技で、いやもう演技を通り越して呪いとも言えるのではないかという重さで主人公に迫ったシーンは全力で引きました。

麻生久美子は結局フラれ、リリーフランキーに遊ばれ、何か吹っ切れて明るい女性に昇華することになるのですが、恋に翻弄される女性に対するエールを送っているようにも見えました。

人を好きになるという感情は自然で、本当に科学や理論で解決できない人類永遠のテーマです。未だかつて科学的に分析、公式化された論文を見たことがないくらいで、そもそも恋愛を科学する大学なり研究機関が表立って活動できていないことがその証左。その点においては全人類が「恋愛後進国」といってもいいでしょう。

特に日本においては恋愛が社会的に解禁されたのはこの半世紀のことであり、イタリアやフランス、アメリカといったオープンな恋愛を推し進めた欧米諸国と比べて明らかに歴史が浅いです。経済発展と女性の社会進出とともに欧米に追いつき追い越せとばかりに恋愛が自由化され、恋愛市場は広告代理店やメディアの後押しによって経済活動化することに成功したかのように見えます。

その最高潮がバブル経済期であり、経済と恋愛への欲望が最大化されました。つまり「金」と「女」なわけです。「金」と「女」という言葉は特に昭和時代の欲望の軸の根幹といってもいいでしょう。

バブル経済が消失し、失われた10年、就職氷河期を迎えた後、経済の逓減とともに恋愛市場も逓減すれば問題はなかったものの、この逓減具合に速度差が生まれてしまいます。つまり経済は逓減したにも関わらず、恋愛市場だけは高値維持を続けてしまったのです。

そしてもう一つのファクターとしては通信手段の発展です。

それまで通信手段は「(固定)電話」だったのに対し、バブル経済破綻以降急速に「携帯電話」「インターネット」が発展するのです。

経済は停滞したものの、人と人とのコミュニケーションはそれまで以上に加速、時間軸に対しての密度が高まってより恋愛は活性化することになります。それにより本来逓減するはずだった恋愛市場がシュリンクせず、シュリンクした経済に対して相対的には「膨張」したかのように見えます。

その結果何が起きたかというと「恋愛」をしなければならないという脅迫概念です。

それまで恋愛は「したい」という欲望の先にあったのですが、それが逆転し「恋愛をしなければならない」という雰囲気が醸成されます。

昭和時代からさらに遡る大正、明治時代。恋愛とは自由に行えるものではありませんでした。身分の差、家柄などから結婚はおろか、恋愛すら許されない時代があったのです。昼ドラでよく許されない恋を題材にすることからも分かります。

またこの現象は何も日本に限ったことではありません。あの「ハーレクインロマンス」誕生の背景にも、許されない恋愛をうらやむ気持ち、でも実際にはできないことから小説として疑似恋愛を提供したのがハーレクインロマンス。そのためハーレクインロマンスは

「日常では起こりえないような劇的な出会い、結婚や復習などをテーマにした激しい愛の物語」

を提供するに至ります。つまりバーチャル恋愛体験です。

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現代の技術立国日本は、このバーチャル恋愛体験に対しても技術と独創性を投入、世界トップの疑似恋愛先進国といっていいでしょう。ぼくらはコンビニとラブプラスさえあれば生きて行ける、という名言が残っているほどです。

そうした中であっても、依然多くの人はリアルな恋愛を望み、悶絶し、絶望し、再び立ち上がるのです。

で、なんでそこまで「恋愛」をしたいの?

答えはありません。リビドーの仕業か、それとも回りに流されているだけか。とにかく「恋愛」をして、彼女を作り、童貞(セカンド童貞)を捨てなければいけないという常識が支配する世の中です。

そんな中、ツイッターでネガティブ発言をしていたらたまたま趣味があう男がいるので会ってみたら、それが長澤まさみというのですから、そりゃ暴走もするってものでしょう。

だってこの映画の長澤まさみ、ファンなら当然ですが、特にファンでもない私ですら一撃で撃ちぬかれるほどカワイイ! なにがどうって、もうすべてがイイ! 瞳も、鼻も口も、眉もショートカットヘアーも、腕も足も、スタイルも。なんじゃこりゃあ!

もう出会いのシーンから主人公の気持ちに同意せざるを得ません。すみません、長澤まさみさんを今までなめていました。こんな子がいたら、主人公同様、部屋で悶絶、独り言喋りまくりで今頃変態としての道を歩んでいたに違いありません。それほどの破壊力がある表現力でした。もはやイメージビデオでいいんじゃないかっていうくらい、綺麗です。ええ綺麗過ぎます。完璧です。

その長澤まさみに fall in loveするその瞬間にかかるのが、Perfumeの名曲 Baby cruising Love。

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(10. Baby cruising Love)

いきなりセンターでかしゆか登場です。その後ろに主人公がたち、あの踊りを一緒に踊るのですから、目が釘付け。いくらかしゆか好きの私といえど、映画全編を見ると長澤まさみに浮気せざるを得ません。

でまあ恋愛による感情の浮き沈み、回りの人間関係のドロドロ、となると・・・まあしょうがないですよね、若いと。この光景は大学時代から新入社員時代、よくみたものです。

恋愛は夢と希望、はたまた悶絶と絶望が待っています。

恋愛に翻弄される若者はまだその先を知りません。つまりうまく恋愛が成就した先の話です。「好き」という気持ちを伝えて相手が受け入れてくれば、夢のような恋愛生活が待っていると思いがちです。確かにそういった時期はあるでしょう。しかし恋愛はやがて冷めていくのです。そして夢から醒めてしまうのです。

夢も希望もないお話をすれば、例えば恋愛がうまくいき、そのままゴールイン、結婚したとしましょう。恋愛成就し、結婚するというのはみんなから祝福されるひとつのゴールです。

ところがこういった言葉もあります。

「結婚は人生の墓場」

この真意は結婚し、その後を過ごさない限りは理解することのできないものです。しかしこの現実を社会は余りクローズアップしません。なぜなら恋愛は「市場化」することに成功、経済活動に転換することができるのに対し、人生の墓場理論はまったく市場がないからです。あるとすれば「離婚弁護士」くらいでしょうか。

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映画「モテキ」はこの「離婚」についても少しだけ問いかけています。それは長澤まさみの同居している彼氏は既婚者で、彼氏は彼女にきちんとするために奥さんと正式に別れる決断をするからです。

なのに!

いや本当、いったいこの彼氏は何が悪かったというのでしょう。音楽業界で尽力し、夏フェスを自分で立ち上げ、イケメンかつ礼儀正しく、嫉妬に狂った主人公の口撃に対しても表面上とはいえ自分の感情をセルフコントロールして「ありがとうございました」と頭を下げる人格者。そして仕事で多忙で奥さんにも、愛人(長澤まさみ)に対しても不義理をしていたことを反省し、きちんとケジメをつけようとしていたのに。

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タイミングが悪いといえばそれまでですが、思わず同情してしまいましたよ。もっともイケメンで人格者で実力派であれば女性には困らないはず。なぜなら彼は人生一生モテキだからです。

古くからイケメン、実力がある、お金持ちが愛人を複数囲うのは自然なのですよ。新撰組の人だってすごかったじゃないですか。それに動物の世界でも一緒。弱肉強食の基本です。

日本社会では一夫一婦制の結婚制度がありますが、一方で未だ内縁の妻(愛人)が明文化されており、その権利が保護されています。

極論をすれば愛人・長澤まさみが寂しさのあまり、つい出来心で、もしくは天然で主人公をかどわしてしまった、というストーリーになります。でも主人公はこれを運命の恋と勘違いし、一途になってしまい、紆余曲折の結果に恋は成就します。

映画上ハッピーエンドですけど、この行き先は余り明るいものになる気がしません。恋愛のゴールが結婚ではない時代であればなおさらで、その恋は終焉を向かえるのです。また逆にうまく結婚にたどりついたとしても、人生の墓場と言われるようにその先は棺桶の中だったりします。結局恋愛というのは一時の気の迷いであったり、タイミングだったり、あとは...動物的なものが支配している気がしますね。

オジサンとしては、そんなうがった見方で若者の恋愛を生暖かく見守りたい気持ちです。でも長澤まさみの破壊力はスゴかったなあ。あんなの現れたら、そりゃ気が狂っても仕方ありません。


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