漫画版「プロジェクトX」にみる自動車技術の発展と野生

ホンダ、マツダ、高速道路公団です。

漫画版プロジェクトX ホンダ、マツダ、高速道路公団。キーワードは 戦後。志あったなあ。

プロジェクトX自体が日本の戦後復興、技術革新の成功体験をベースにしているのでどれも背景が似通ってしまうのですが、こと自動車関係においては共通するものがあります。通して読むと非常に味わい深いのと、さらに私が生まれる前後の話なので、少しは空気感も共有できた気がします。


【ホンダ】

ホンダが戦後エンジン付き自転車を出し、バイクメーカーとして世界一を目指すためにまずマン島TTレースで世界一をとろうという物語。ホンダはその後F1でも同様の活躍をし、2輪、4輪メーカーとして独り立ちしました。

【マツダ】

戦前から3輪自動車メーカーとして広島の地場産業として地域を支えてきた東洋工業。原爆、敗戦と最悪の状況下におかれてなおかつ復興を夢見る人々。メーカーを絞ろうという政府の意向に反発し、一発逆転のホームランを狙いにいった苦肉の策のロータリーエンジン開発。その後経営難によりフォード傘下に入るも、ロータリーエンジンは根強い人気を誇り復活。今もファンが多い。

【高速道路】

戦前・戦中にあったアウトバーンを模した計画、弾丸道路。物流を鉄道、船舶に9割頼っており道路整備は遅れに遅れていたが、敗戦により高速道路はさらに夢物語に。しかし戦後復興とともに積みあがる工業製品の在庫。物流がなければ出荷もままならない、そんな現状を打開するために高速道路計画を推進。最大の難関は天王山トンネル、土木建築のエキスパートが立ち向かう。

・・・

あらすじはこんな感じですが、どれも共通項があります。それは活躍した人材が戦中も航空機産業などで活躍した技術者ということです。つまり戦前・戦後という分断された歴史ではなく、技術者といった視点からは非常に連続性があったということ。

そして敗戦によって大きな打撃を受けるものの、自動車、二輪車、道路というインフラとモビリティに取り組み世界に比肩する技術を投入し、世界を見返すこと。つまり敗戦の敵討ちみたいなものです。日本人は戦争には負けたけど、努力では負けない、という反骨精神。

この反骨精神のベースにあるのは民族としての自尊心です。

なにせ考えてみれば戦後は occupied japanですからね、「占領下日本」です。政府ではなく、GHQの指揮下にあった占領下日本。サンフランシスコ講和条約をもってようやく主権を回復するわけですが、財政はないわけです。これを特需などの景気で復興するわけですが、今の生活レベルから考えれば非常につつましやかな生活に違いありません。

もともと清貧を得意とする文化風土ではありますが、それに努力が加われば技術者として困難を乗り越えていく、世界に挑戦するというのは自然の成り行き。再び世界を目指すことになるのです、戦争とは異なる形で。それが2輪、4輪、そしてそれを走らせる高速道路すべてにおいて起きた結果が今に至るわけです。

次に技術開発について。ホンダがバイクメーカーとしてマン島TTレースで勝つために行ったことは高回転化、バルブ技術の向上がメインでした。つまり4バルブ化、マルチシリンダー化であるわけです。このことは2輪にとどまらず、4輪にも応用されていきます。例えばVTEC、可変バルブタイミング&リフト機構の前身は2輪に採用されたREV、バルブ休止機構で、これは2バルブと4バルブの切り替えを回転数によって行うもの。今ではすっかり他メーカーも同様の機構を採用し、ごく標準的なものとなってきていますが、先鞭をつけたのは間違いありません。

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鈴鹿サーキット50周年アニバサーリーデー:タイムトリップパーキング展示車両)

ホンダ・CBR400F - Wikipedia

CBR400Fは1983年12月20日に発売された[1]。8500rpmを境に2バルブから4バルブに切り替わる回転数応答型バルブ休止機構「REV」を採用した空冷4ストロークDOHC4バルブ直列4気筒エンジンは、発売当時クラス最高の58ps/12,300rpmの最高出力と、3.6kg-m/11,000rpmの最大トルクを発生した。

一方バルブが存在しないロータリーエンジン。バルブ制御技術がまだ未発達だったころ、2ストロークに近い構造で爆発、ダイレクトに回転に結びつけるエンジン。その独特の吹けあがりと高回転対応によりハイパワーな一方耐久性、排ガス、燃費で困難が待ち構えていたというもの。さらにマツダ一社だけが実用化に成功、他メーカー、誰一つとして追随をしなかったという点でもその特殊性が垣間見えます。

2012/09/01-125
鈴鹿サーキット50周年アニバサーリーデー:マツダ787B)

その孤高のロータリーでルマン24時間レースで優勝したのが、このマツダ787B。軽量コンパクトハイパワーなロータリーエンジンはレースカー向き、しかし一社しか使ってないためにレギュレーションで締め出されてしまう結果に。その最後の年に念願の優勝を果たした記念碑的な1台です。実際見てみると全長が短くて本当にコンパクト。

そしてそのエンジンサウンドは独特で、私も今回初めて聞きましたが「ビィィィィィ」という甲高い音は「狼の鳴き声」と評され、人を感動させますね。レシプロエンジンと全然音が違います。

ただこの孤高のロータリーは日本狼と同じく、絶滅に瀕しているのが実情。ついにRX-8も生産終了、今後のロータリーエンジン搭載自動車の未来は決して明るいものではありません。電気モーターのような、と評されたロータリーエンジンですが、本当に電気モーターとなって復活しそうな予感です。まあエンジンではないですけどね。

それにしても腑に落ちないのはやはり高速道路の制限速度。50年前の悪条件で100km/hであったいうのに、最新最高の技術を使って実現した新・東名高速道路がやはり100km/hというのはどういうことか、ということです。自動車の性能も上がっているし、アジアンタイヤは品質が悪く、昔のタイヤのようにバーストが頻発するという話ですが、日本製タイヤであれば今はほとんどパンクしません。安全基準だって引きあげられ、すべてが安全となっているのに速度制限は同じまま。これでは「高速」道路の本来の目的である、「目的地に短い時間で到達すること」がまったく進化していません。

アウトバーンみたいに速度無制限にするべきとは言いません、ただ自動車技術、道路技術の進化、進歩に見合った速度にするべきではないか、ということです。諸外国ではもろもろの状況を考え併せ、制限速度は120~140km/hに引きあげられているのと対照的です。

やはり日本人は戦後復興をとげ、慢心し、努力することを怠ってしまったのでしょうか。認めたくないですが、どうにもそんな状況にも感じます。慢心し、保身に走ってしまうとどうなるか。国際社会の競争力がなくなってしまいます。なぜなら今も、諸外国は努力をしているからです。

トップギアのGT-Rの回でジェレミーは日本の高速道路の追い越し車線をずっと走る車にこうも言っています。

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追い越し車線をタラタラ走るな! そんなことをしているから中国に経済力で抜かれるんだ!

いまやすべての自動車メーカーが外国資本となったイギリスに言われたくありませんが、凋落したイギリスが言うんだから間違いありません。経済発展、技術向上は「負けず嫌い」がベースなのです。

一度敗戦したからこそ、負けたくない。そんな志が先人たちから伝わってきます。そうです、やはり野生が必要なのです。そうだ、虎だ、虎になるんだ!


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