日本人は結構城好きです。とくに見事な天守閣が大好き。空にそびえ立つ天守閣、いわば元祖スカイスクレーパー、また天守閣からの眺望も展望台といっていいほど。しかし城の価値が天守閣にあるかというと、はて、と疑問です。
というのも城は変遷から考えると、山城、平山城、平城と変遷しており、天守閣が必要となったのは平城から。
山城は自然の要害を利用して城塞化したもので、その立地からそもそも遠くまで見渡せます。平山城も同様で、平城となったときにはたと気付いたのです。
あれ、遠くまで見渡せない、近づいてくる敵が見通せない、と。
そこで空にそびえる天守閣というのを作りだし、いわば見張り台の役目を果たしつつ、平時には城下町の様子をチェックするという役割を担ったのです。
平城は城下町の発展を優先的に考えた城の形態で、軍事上はもっとも守りにくい城といっていいでしょう。ただ当時の最先端兵器・鉄砲の普及にあわせ、天守閣と鉄砲隊の装備によりその弱点をカバーしています。
歴史上、天守閣が軍事的に活躍した戦争はさほどなく、というのも平城が普及したのは戦国時代末期、1600年代は天下泰平の世にシフトしていたので江戸城に至っては焼失後再建すらしていません。
天守 - Wikipedia近世(安土桃山時代以降)でも当初より天守を建てる必要がないとの判断から天守台さえ造られなかった城も多い。江戸期になると、天守のあった城でも、焼失後再建を見送ることが多くなる。また、天守台はあるが何らかの理由によってその上に天守の造られていない城も見られた。
さて第二次世界大戦に時は飛びます。
天下泰平の世は過ぎ去り、世は富国強兵、海外進出植民地化の世界。そんななか日本は世界最強の海軍力を得るために、巨大戦艦を作ります。戦艦とは巨大な砲塔を持ち、強力な火力でもって遠距離から敵を威嚇する役目を負います。戦艦大和でいえば46cm報、その最大射程距離は42km。この弾道着弾を確認するために、艦橋も高くそびえ立っています。
なんとなく似ていませんか?
そう天守閣にです。天下泰平の世になり不要となり実利をとるものはこだわらなかった天守閣ですが、一方で「天守」という名前を冠さずとも実際にはその規模、役割の櫓を建てようとした城も多くありました。それだけにこの空に高くそびえる建物というのは人の心を、日本人の心をつかむものです。
戦艦大和は第二次世界大戦時、航空機の時代に突入したにもかかわらず、大艦巨砲主義を象徴した巨大戦艦として、その悲劇的な最期もあいまって人々の心に今も強く印象づいています。そういえば今年実写版宇宙戦艦ヤマトやりますね。
この大艦巨砲主義は日本国民の生活感にもあらわれています。それが一国一城の主、という持家信奉です。
「うだつが上がらない」
という言葉は持ち家を持つことを前提、「うだつ」という機能的には余り意味のない装飾的な屋根ですが、これを上げる、つけることで世間的にデキル男であること、一人前であること誇示する意味があります。いずれにしても持家は一人前の男の重要なアイコンであり、城なのです。
さて時代は江戸時代へ戻ります。一国一城令により大名ごとに1つしか城を持てませんでしたが、逆にいえば1つは城を持つことが許されていました。にもかかわらず、立派な城をもたなかった藩がありました。それが薩摩藩、今の鹿児島です。
シラス台地により石高よりも実際の収穫が低く財政難が続いたこともあり、城といったハードウェアにはこだわらず、教育に力をいれ幕末には西郷隆盛をはじめ多くの藩士を輩出しています。明治政府の内紛である西南の役では西郷隆盛率いる薩摩軍は敗退して鹿児島へと入りますが鹿児島には籠城する城すらありませんでした。結局西南の役での激戦はなぜかお隣は熊本の熊本城で、その中で見事な天守閣が焼けおちてしまいました。一説には居城としていた官軍が士気をあげるために自ら放火したと言われていますが、惜しいことをしたものです。
翻って、野間家です。野間家はいまだ持家はありません。これは私自身が親から「残してやれるのは何もない、教育だけだ」と言われていたことに起因します。裕福でない家庭環境にもかかわらず大学院まで教育を受けられたのは親のおかげ。高等教育ということだけでなく、教育環境を一番に考え、最大の努力をしてきたことは自分が親という立場になるとより一層理解できます。
私自身も子供に対し、同じことを考えてます。いずれにしても親は亡くなるもの、その時子供がきちんと一人前として社会で生活できるように育てること。そのために一番なのは教育ではないかと感じます。雨露がしのげる家も生活環境として大事ですが、持家であるかどうかは問われません。広い庭にたくさんの車をおける駐車場付の家が私の憧れですが、我慢。まずは子供の教育から。
ということで、私は一国一城の主にこだわらないし、城は天守閣にはこだわらないのでした。
しかし石垣にはこだわります。石垣こそ城の礎、基礎ですから。
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