【短編小説】 「孤独のゲワイ - Lonely Get Wild - 」

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「う~ん、腹が減った」

仕事が終わって一段落したら、急にお腹が減ってきた。もうこうなると止まらない、腹を満たすことで頭が一杯だ。

どこか食べ物屋はないか。そう考えて街をさまよう。多摩ニュータウンにあるこの街の基本の足はクルマだ。目に入る食べ物屋といえばロイヤルホストといったファミレスがメインだ。確かにロイホのハンバーグも捨てがたい、しかし、今日はそんな気分ではない。

そう思って路地に入ると、質素な佇まいの暖簾が目に入る。

「あった、ここだ!」

暖簾には「小室屋」とだけ書いてある。その暖簾にピンときた、1990年代に爆発的ヒット、ブームを背景に全国チェーン展開をしたもののその後様々なトラブルでチェーン展開を中止、規模縮小。今では原点に帰り、ひっそりとひとりでやっているという伝説のラーメン屋である。

「いらっしゃい」

暖簾をくぐり、引き戸をあけるとご主人一人が厨房をしきっている。店の中はカウンターのみ、8席くらいだろうか。他のお客も数名、店の端っこにサングラスでエアギターをしている客がいる。

とにかく腹が減った。急いでカウンターの席に陣どると、とりあえず空腹を満たすために注文をする。

私「RUNNNING TO HORIZON お願いします」

主人「...悪いねぇ、うちはGet Wild専門店なんだ、あいにくTKはボーカルレスしかおいてねえ」

そんな! とSHOUTしそうになった。RUNNING TO HORIZONのモスキートボイスが喉越し爽やかで最初の一口にいいと思ったのだが、確かに壁をみるとメニューには「Get Wild」しか書いてない。

主人「お兄さん、TK Soloでいいかい?」

私「あ、ああ、じゃあそれを頼む」

注文すると主人は手早くTK Soloを調理し始めた。待っている間、Facebookをチェックするが、この時間帯はダメだ、みんな食事の写真をアップしすぎ、飯テロが待っていた。より空腹が進む。

主人「へい、TK Soloお待ち」

見た瞬間、しまった、と思った。最初の一口、前菜のつもりだったの、この大盛りっぷりはどうだろう。もはやこれで2食分、いや3食分はある、食べきったらお腹いっぱいどころのさわぎではない。

ふと眼をやると主人の口元が緩んでる、他の客もまさかねえ、あれを頼むとはという顔をしている。どうやらこの「小室屋」でTK Soloを頼むのは相当の食通だけということのようだ。

しかし目の前におかれた皿を平らげないわけにいかない、それにオレは腹が減っているんだ!

・・・

私「ふう、くったくった」

このボリュームのTK Soloを完食したオレの腹は満ち足りた。しかし心は満たされてない、なにせボーカルレスだからガツンとこないのだ。まあここは「小室屋」の専門である「Get Wild」をメインディッシュとして注文したいところだ。

どれどれ、メニュをみると様々なGet Wildがある。

・Get Wild
・Get Wild FANKS CRY-MAX Version
・Get Wild '89
・Get Wild '89 TMN final live LAST GROOVE 5.18 Version
・Get Wild DECADE RUN
・Get Wild 2013 SUMMER
・Get Wild 2014
・Get Wild 2015 -HUGE DATA-

あまりに多過ぎて、味の違いが分からない。とにかく今はメインを食いたいのだ。そこで主人にオーダーを入れる。

私「んー、Get Wildの イントロましまし、で出来る?」

主人「兄ちゃん、イントロましましかい、いい度胸してんな。HUGE DATAいっちょう!」

ほどなくGet Wild 2015 -HUGE DATA-がやってきた。確かにこのイントロましましは前代未聞だ、どんなに上にトッピングされているイントロを食べても食べても中にある「アスファルト」まではなかなか辿り着かない。さらにさっき食べたTK Soloがだんだん効いてきてお腹の中で膨れてきた。アスファルト、はまだか・・・

4分以上食べ続けてどんぶりの約半分まできたところで、ようやくボーカル「アスファルト」がやってきた。ああ、これだ、この味だ。ウツならではの味わい深いボーカルが舌に広がる。主人がTKはボーカルレスだけしか置かない理由がわかる、横浜アリーナのDEBFコンサート、特にアンコールで歌った「ドリームラッシュ」、あれはもう「うぉお、うぉお、うぉお」ものだったからなあ。

ボーカルを味わいつくしたあと、さあ、完食だと思ったのに、なかなか終わらない。スープが後を引くのだ。この汁切れの悪さがまさに HUGE DATEならではの味わい。とはいえいくらなんでも終わらな過ぎだろう。

カチンときたオレはどんぶりを持ちあげステージ、いや、店の床に叩きつけた。

バーーーン!

店の厨房から爆発が起こり、煙で包まれた。他にいたお客も大喜びである。なんなんだ、この店は。

主人「お兄さん、よく完食できたな、デザートご馳走するけど何がいい?」

デザートといってもGet Wild専門店だ、正直腹は一杯だったが、好意を断るわけにはいかない。トッピングで味をかえて頼もう。

私「オレらゲットワイルだ、吉幾三のせで」

(終)

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