ひとはなぜ峠を攻めるのだろうか?

700ccの大型バイクではじめて奥多摩周遊道路を含むいつも四輪で走っているルートを通った。

奥多摩周遊道路、古くは奥多摩有料道路。ここは四輪はもちろん、二輪でコーナーを攻めるものが集まる。事故が多く、コーナー毎に花束が、そして一時は二輪通行止めになったほどで攻める環境としては最悪の場所である。

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ところがここはまた今二輪が集まり、昔のようにいったりきたり。事故も多発しており昨日も事故が発生。事故が発生すると警察は回りの手前上取締をしなければならないらしく(そう昔聞いた)、早速ネズミ捕りをしていたが、その当日でも事故が発生している。

ここに限らず、伊豆スカイラインでも二輪の暴走、そして事故多発で二輪通行止めが検討されているほどだ。

対向車があり、エスケープが皆無のワインディング。危険極まりなく、事故も多発しているというのになぜ人はコーナーを攻めに集まってくるのだろうか?

二輪の漫画といえば「バリバリ伝説」。

ここでも峠を二輪で攻めるシーンが多く登場する。主人公のライバル「秀吉」はレーサーになるために峠を卒業、そのラストランの時に事故死する。

この事故のシーケンスを振り返りたい。

秀吉はこの時点では主人公の巨摩郡をしのぐ才能、ライディングテクをもっていた。

対向車線からバイクが転倒してスライドしてきたときも、的確に判断し

「かわせる!」

とラインをかえ、イン側に逃げることで事故を防いだ。しかしそのあとにやってきた対向車は予測できず正面衝突、命を落としている。

判断は間違っていない、操作も間違っていない。しかしなぜ彼は命を落としたのか?

彼がみた世界、彼から見えた世界には対向車はいなかった。認知・判断・行動。この3つのうちの最初の「認知」ができなかったのだ。実際に巨摩郡は対向車が見えてもいないのに事前に認知している。

世界は誰かを中心にして回っていない。

世界は世界で勝手に回っている。そこに人の意志や感情、思いは反映されない。物理法則は万物に平等だ。たとえ魂が入った器の生物、人間がそれを望まなかったとしても、1トンをこえる鉄の物体とぶつかれば、それは岩や石ころと同じことだ。ましてや生き物である。鹿やイノシシとなんら変わらない。ぶつかれば壊れる、ただそれだけだ。そして実際に壊れた、つまり死んだ。

自分自身は二輪で交通事故にあい、対向車と正面衝突して大腿骨を骨折、入院している。その時、病室でずっと考えた。なぜ事故が起きたのだろうか、避けられなかったのはなぜか、1秒でもタイミングがずれていたら起きなかったのに、なぜあのタイミングで、対向車が出てきたのか。

答えはすでに述べた。世界は自分を中心にして回っていないということ、そして物理法則は万物に平等であり、たとえ魂や意志が入った人間だとしても石ころと同じように平等だということ。そしてぶつかれば破壊されるということ。事故にあうのは不運だったが、幸いにして命に別状はなかったので、むしろ幸運だったともいえる。

雨の高速道路でもそうだ。

突然車両がスピン、なすすべなく後ろ側からガードレールに激突、追い越し車線に停止した。迫りくる大型トラック。すぐさまヘッドライトハイビーム、ハザード点灯、スピンの影響でエンストしてエンジンがかからないのを落ち着いてエンジンをかけ、複数台をやりすごして前に移動できるのを確認してから一気に路肩に寄せた。

振り返るとそこには後輪がひとつ、ガードレールにはさまっていた。そう、後輪が1輪とれていたのだ、よくその状態で走って移動できた。

もし移動できず追い越し車線にとどまっていたら、いつか大型トラックにぶつけられて、死んでいたかもしれない。廃車になるほどの大事故だったが親子ともども無傷だったのは幸運だったともいえる。

なにがその境目になるのか。人はその理由を求める。

しかしこの答えは自明である。

"Who knows?"

分かるわけがない。神のみぞ知る。

峠を攻めるというのは、リスキーな行為だ。わざわざ死の淵に乗り出しているようなものである。本人は秀吉同様いける、かわせる、と自信があるのだろう。しかし相手は公道である。いつどんな対向車がはみ出してくるか、ゴルフボール大の落石があるか、鹿や猿が飛び出てくるか分かったものではない。

たとえミス、事故があったとしてもランオフエリアがある、クラッシュパッドがあるサーキットであればまだリスクは低減できる。しかし公道でのミス、事故は即クラッシュ、死が待っている。

ましてや救急車が到着するまでに1時間、病院につくまで1時間。虫の息では助からない。

そこまで分かったうえでも、峠を攻めるひとが依然いる。そして命を落とす。命を落とすから警察が取り締まる。そして走れなくなる。

なぜ峠を走るのか、理由は本当は分かっている、危ないからスリリング。命をかけるからリスキー。だから楽しいのだ。

でも自分はもうそんなリスクもとりたくないし、スリルは別なところで味わいたい。事故はもうまっぴらごめんだ。だいたい人よりも多く、重大な事故を体験している。

だから峠はもうとっくに卒業。限界でなんかいかない。安全マージンをとって、爽やかな風と新緑を楽しみながらクルーズする。人生同様。

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