ドラマ「陸王」にみる56歳アントレプレナーの人物像

海外出張がたてこんでそろそろ機内エンタテインメントシステムのコンテンツも枯渇気味。
そんな中連続ドラマを一気見してみました。

あらすじ

先行きが怪しい足袋製作工場が銀行マンに新規事業を促され、マラソンシューズ作りに挑戦する。業界最大手のアトランティスR2との開発競争、選手のサポートで様々な人間の思惑と、ぶち当たる資金問題で自分も周りも翻弄される。

その中でフォーカスしたいのが、社長だ。

人格的に最高だが、人物的には滅茶苦茶な社長が織りなす物語

100年続く老舗会社の4代目社長。暖簾を守ることに対し、プライドを持っている。一方で先行きが怪しくなり、融資を渋る銀行とのやりとりで、この安定も長くはないと直感的に悟る。その上で新規事業に乗り出すのだが、大体において、素人考え、思いつき、突発的である。

足袋だからシューズ。

発想が安易である。周囲の反対を押し切り実際に作ってみると問題多発、案の定そんなに簡単にはいかない。

従業員をリストラしたくない一心で始めた事業だが、開発を通して残業代を支払わずに従業員を長時間労働させるなど、疲弊、忠誠心が薄れ反発される。

実績のないシューズに対し、銀行は追加融資を渋る。

開発したシューズは、怪我から復帰したランナーの活躍もあって実績を作れるが、ブランド力がないために店頭で売れない。

またもや資金ショートの悪夢である。その度に苦悩し、逡巡し、感情的になり、怒鳴り散らし、泣きわめき、そしてちょっとしたことで明るくなる。

簡単にいうと分裂症であり、執着心が強く、そして忘れっぽい。人物的には相当問題がある。

しかしながらそれでも求心力を失わないのはカリスマ性といってもいいし、また人を助けたいというお人好しなところからくる。

56-57歳と高齢ながら、スタートアップ企業の若手CEOといってもいい立ち居振る舞い。そう、年齢ではない、スタートアップに必要な素養を備えているのだ。

スタートアップ企業経営者の資質

新規事業を起こす、過去の実績はない。新規事業を勧めた銀行マンはその後銀行を見限り、ベンチャーキャピタルに転身。融資を受けられない老舗足袋屋へ買収、バイアウトを勧める。

スタートアップ企業であれば、バイアウトはIPOに並ぶエグジットモデルである。

なのでフンフンと思っていたが、買収元企業が野心家であり、買収を繰り返して急成長した企業ということで企業風土が合わない。結局特許を盾に事業提携に落ち着く。

このくだりは例えばソニーがアメリカ進出した時にOEMで出すことを提案されそれを蹴り、自社ブランドにこだわったのにも共通する。

バイアウトは経営者にとっての利益になるが、サービスやプロダクトにとっては墓場になることが多い。その点から、プロダクトにこだわった老舗社長はバイアウトをしなかった。事業ドメインは足袋、シューズ。ここにスティックして、ピボットしないというのは100年続く老舗ならではの判断とも言える。

一方シリアルアントレプレナーと呼ばれる人は、エグジットを繰り返し様々なサービス、プロダクトを世に送り出してゆく。

どちらがいいとかいう話ではないが、最終的には本人がどうしたいか、何をしたいかによる。

感想

ドラマだけに、タイミングのいい(悪い)時に様々な出来事が発生してなかなかローンチできないもどかしさがあるが、まあ実際に事業をやるというのはそういうことである。こうやって挑戦する100社があったとして、実際に成功するのは1社あるかないか。

なので普通に考えると新規事業に失敗して潰れるのだがそこはドラマ。神風の連続で乗り切っていくところがいいわけだが、実際のうまくいったスタートアップもそういうものかもしれない。振り返ってみれば、あのタイミングでこれをやったから成功した、と言いがちだけど、それは単なる偶然であまり参考にならないケースも多い。

ただ大事なのは挑戦をし続ける姿勢。どんなに挫折しても、這い上がる勇気と努力。そういえば、カップヌードルの開発は開発者は47歳のときだったという。年齢を考えず、見習っていきたい。