ファスト風土化音楽としてのTM NETWORKと小室哲哉

これまでも、これからも大好きなTM Network」で取り上げた音楽誌が書かないJホ゜ッフ゜批評53 TMN&小室哲哉[ホ゜ッフ゜ス神話創世] [別冊宝島] (別冊宝島 1532 カルチャー&スポーツ)はなかなかに懐かしく、新しい発見があって興味深かったです。ともちゃん(華原ともみ)のアルバム、LOVE BRACEのシンデレラストーリーの解釈はかなりグググと来たりして、感慨深いです。 やっぱあれですね、歌詞って読んで解釈するもんなんですね。再三いってますけど私の場合まったく歌詞が耳から脳みそに入ってこない、致命的な欠陥をもっているので歌詞をまったく聴いてない、覚えてないのです。これは1000回以上聞いたと思うし、しかも歌うものであってもそうで、歌うたびに違う歌詞になる、つまり正確に覚えてないことを露呈してます。歌詞を理解して、歌詞で泣いたり笑ったりできる人がうらやましいですね。まあそれが一般的なんでしょうけど。

さてこの本の中でもっとも気になったのが実はこれ。TM Networkの名前の由来ともなった、「多摩(TAMA)地区」。

公式にはTime Machineの略でTMと言っているようでもありますけど、どうも本人たちの出身である三多摩地区のTAMAからとったという説が有力です。

そしてTM Networkの音楽性、そして90年代の小室音楽が隆盛するのはこの多摩がキーになっているようです。

多摩といえば多摩ニュータウン。多摩丘陵の野山を切り開き、大規模ベッドタウンを国をあげて整備した場所です。ベッドタウンというのはそれまでの街と違って単機能、つまり住むだけの場所。働くお父さん、OLにとっては寝るだけの場所です。ある意味、スペースコロニーといっても差し支えないでしょう。そんなリアリティの無さを評して

「アニメ映画のようなリアリティの希薄さ」

「何もない虚空に人工的に造られた新しい音楽」

と言っています。仮想的に言うならば宇宙空間(多摩丘陵)にスペースコロニー(多摩ニュータウン)が造られ、それをベースとした音楽にリアリティがあろうはずがありません。そして実際TMの歌詞をひもとくと、多くのPOPSが恋愛を歌っていたのと対照的に、ファンタジーで架空な世界を歌っています。デビュー曲、金曜日のライオンからはじまり、RAINBOW RAIBOW, Dragon the Festival。確かに現実離れしてます。最高潮なのはCAROLですね。

90年代に入り、TMではなく小室哲哉プロデュースとして多くのシンガーをミリオンセラーに引き上げた影には同じく多摩ニュータウンと共通する何かがあります。

それがファスト風土化

ファスト風土とは - はてなダイアリー
三浦展の造語。地方社会において固有の地域性が消滅し、大型ショッピングセンター、コンビニ、ファミレス、ファストフード店、レンタルビデオ店、カラオケボックス、パチンコ店などが建ち並ぶ風景が全国一律となったことをさす。

東京に対してわずか30kmの距離での多摩ニュータウンの造成と同様のことが全国で発生したのが80年代。そしてファスト風土化が完成した90年代、多くの若者が車にのって

「大型ショッピングセンター、コンビニ、ファミレス、ファストフード店、レンタルビデオ店、カラオケボックス、パチンコ店」

を行き来し、CDを買って車でその音楽をかけながらまた車で移動するということを繰り返したのです。そのためにはCDが必要だった。そのCDに選ばれたのが小室音楽だったというわけです。

時期同じくしてこの頃からカセットテープの利用が落ち込んでいるはずです。それまではCDをテープにダビングして、それを車の中で聞くというスタイルだったのですが、ポータブルCDプレイヤーや車載CDプレイヤーの普及によってダビングしなくてもそのまま聞くことができる、さらにいうと聞くためにはCD盤そのものが必要なので購入する動機ともなるのです。その上アルバムにはシングルが3曲4曲入っているのが当たり前となった時代でもあることを考え合わせると、アルバムのお得度が高い、いつでもベストアルバムといった様相を呈して、ミリオンは当然、ダブル、トリプルミリオンがばかすか出ていったのでしょう。

カセットテープ46分にお気に入りの曲をさながらDJのように選曲、さらには曲の分・秒まで正確に計算してオートリバースで音が途切れないようにしつつ、口説きのタイミングに合わせて盛り上がるように編集するのが、車のドライビング技術と同じくらい必要な技術でした。そういった技術、文化も次第に失われていったのが90年代。

00年代となると小室音楽が急激に失速します。しかしこれは何も小室哲哉の音楽性が飽きられたとか、タレントとのいざこざ、所属事務所との確執だけが要因ではありません。音楽マーケット自体が飽和、縮小傾向に転じたのも大きな要因でしょう。ファスト風土化がさらに進み、格差社会が明確になってきたことも一因です。簡単にいうと低価格化が進んでいったと。CDが3000円という価格が高いことにみんな気づいたのでしょうね。しかも音楽性というか、消費者としては新鮮味がある音楽が出てこないから買う必要がなくなったのもあるでしょう。ほぼ同時期にコンピレーションアルバム、低価格で80'sや90'sのベスト盤が低価格で登場しています。新しいCDが売れなくなったから昔のをもってきたのか、それともこういった時流に合わせて出してきたのかそれは分かりませんけど。

さらに00年代後半ともなるとiPod+iTunesというネット音楽の時代に突入です。こうなるともはやCDを買う必要性がまったくなくなります。CDは借りてきてリッピングして返す、というスタイルが確立するからです。そしてこぞってやったのが、所蔵しているCDをすべてリッピングしてしまうこと。これにより80年代からの自分のCDコレクションがすべてPCのHDDに入り、iPodを介していつでもどこでも聞くことができるようになったのです。

これでさらに新しい音楽を聴く必然性が薄くなりました。いいものはいつ聴いてもいいんです。何度もきいているうちに飽きてきますけど、しばらくしてからまた聴くと新鮮なんですね。そうでなければiPod Shuffleが成立するはずもありません。

かくして空前の懐メロブーム。ブックオフにいって投売りの100円CDを物色するということになるわけです。

そして小室作曲・プロデュースのアイドル曲を探すためにも、この本の資料的価値は高いです。岡田有希子の曲とか、集めたいですね。


音楽誌が書かないJホ゜ッフ゜批評53 TMN&小室哲哉[ホ゜ッフ゜ス神話創世] [別冊宝島] (別冊宝島 1532 カルチャー&スポーツ)

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