史上最大規模台風直撃のF1日本グランプリ2019観戦記 〜名古屋編〜 #f1jp

もっとも古い記憶にある台風といえば、実家の熊本で迎えたものだ。3歳下の妹が生まれたあとだから、おそらく3〜4歳くらいだっただろうか。

台風が来る。

そういって昼間だというのに母は雨戸、といっても当時は木でできているものだから木戸といった方がいいかもしれない。重く、滑らない雨戸をガタガタいわせながら閉めていった。昼間だというのに室内は真っ暗、しかも電気をつけない。理由はどうも停電するから最初から電気を切っておいたらしい。そう、台風は雨と風だけでなく雷も伴うことがあり、落雷で停電するのだった。

この落雷はまた面倒な話であり、避雷針のない民家では近くの木をたどって、家の柱に飛び火することがある。そのため部屋の中央部分に固まっていなければならない、という。農家育ちの母だが、おそらく農家の伝承なのだろう。実際木の陰に隠れていた親子が、木に落雷、そこから感電したという事故をその後目にしたことがある。大学時代、電気電子工学科に進学したのだがそこの必修授業で電磁気学があり、必ずテストに出るのが「避雷針」の設計問題。雷のパワー、そして避雷針の重要性はその時によく理解できた。

真っ暗な部屋の中、揺れる家。そして壁には近寄れず、中央部分で通り過ぎるまで待たなければならない。やんちゃ盛りの幼い私にとっての台風の原体験は退屈そのものだった。

台風が過ぎたあとには増水のあと、そして停電で混乱する交差点。まさに台風の爪痕が残されていた。


それから幾星霜。

台風は弱まった。いや正確には台風が弱まったのではない、都市化するなかで治水がゆき届き、台風の影響をあまり受けなくなったのだ。

さて10月の3連休である。もともとの予定では土曜日にバイクのオフ会で長野に行く予定、月曜日は富士スピードウェイでジムカーナという予定であった。そこに「鈴鹿にF1を見にきませんか?」というお誘いがホンダからやってきた。もちろん答えはイエスである、F1に戻ってきたホンダが長い雌伏の時を過ごし、今年ようやく優勝を飾り凱旋帰国である。ぜひ活躍している姿をみていたい、こないだのシンガポールGPは現場にいたものの一瞬たりともF1マシンをみることはなかったからより実車をみたい。

そもそも無茶なスケジュールである。考えたのは土曜日長野宿泊、そのままバイクで鈴鹿まで移動するプランAをたてた。

プランAでは宿から鈴鹿まで280km、時間は約4時間。朝7時に出て11時に到着するため、見れるのは本選のみである。ただこれは渋滞や、そもそも34年落ちのバイク、どんなトラブルがあるか分からない。

そう考えていたところに緊急入電。

「台風発生!」

「史上最強!」

「東海から関東直撃!」

進路はまさに私を狙い撃ちするかのよう。

そこで考えたのがプランBである。これは土曜日の夜に東京に戻ってきて、朝東京駅から新幹線で鈴鹿へ向かうもの。バイクの移動距離は180km、時間は約3時間。夜11時に出たとすると夜中の2時に帰宅。朝7時台の新幹線なので、家を6時に出るとすると睡眠時間は 3時間、もやは仮眠であるが新幹線の中や移動のバスの中で寝られるのでまだよいだろう。

この台風の威力、そして進路、そして時間がまさにドンピシャでこの3連休を直撃することがどんどん確実視され、最大の対応が必要となってきた。

1年に1度のオフ会も苦渋の決断、延期が決定された。

プランBは日曜日の朝、新幹線で移動するが、交通の混乱が予想されるためにプランCに切り替える。それは土曜日名古屋に宿泊する前泊プランだ。

そしてJRが異例の2日前に計画運休を予告してきた。

これはまさに異例中の異例、ある予感がした。これは土曜日も怪しいと。

そこで土曜日の運行がどうなるか未定の状態、木曜日の夜にすべてのパッキングを行い、金曜日朝からのミーティングにはスーツケースを引きずりながら都内に向かう。

するとビンゴ、土曜日は新幹線全面運休。そこでプランDへと切り替える、それはこのあと新幹線に移動し、金曜日も宿泊、連泊するものだ。土曜日は1日ホテルで缶詰プラン。

早速電話で宿を予約、東京駅に向かう。

日程が変更になるため切符は窓口でのみ変更ができるが、すでに長蛇の列。それでも約30分の待ち時間で済んだのは不幸中の幸い。

そして急ぎではないので、席は窓際、しかも見晴らしのよい海際、A席を所望。コンクリートジャングルの銀座から新横浜すぎて広がる田園風景のコントラストが、この東海道新幹線の魅力のひとつだ。

崎陽軒のシウマイ炒飯弁当に舌鼓をうちつつ景色を楽しみ、変わる天候、727の立て看板を見つけては喜び、浜名湖で遠くに見える白波の高さにビビり、電話会議に参加しているうちに名古屋に到着した。

まったくもってスムースそのもの。

チェックインしたあとは仮眠、とにかく最近寝ていない。ほとんど毎日が徹夜といっていいだろう、昼寝をしないと身体がもたない。

さて鈴鹿サーキットである。

こちらも早々に土曜日にプログラムをすべてキャンセル、サーキットランドは閉園したが、これは先見の明だろう。これで予選も日曜日に同日開催、朝10amからスタートということでますます前泊しないと見られない時間帯だ。

その結果今回のご招待「観戦会」もキャンセル。え、もう名古屋入りしていますが。

観戦会はキャンセルされたが、観戦自体は可能とのこと。この瞬間に単なるF1ファンに戻り、勝手知ったる鈴鹿サーキットを十二分に楽しみたいと思った金曜日の夜であった。


(つづく)